東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2018年10月17日(水)
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「金玉不琢」(きんぎょくふたく)

 まことの玉(金玉)は琢磨する必要がなく、まことの珠(美珠)も色彩で修飾する必要がないというのが「金玉不琢、美珠不画」(桓寛『塩鉄論「珠路」』から)です。『淮南子「説林訓」』では「白玉不琢、美珠不文」ともいっています。ふつうはことわざにあるように「玉磨かざれば光なし」であって、すでに『礼記「学記」』に「玉不琢不成器、人不学不知道」がいわれて、人びとは社会の要請に応えて有用な器になるために、道を知るために努めてきました。三字経にも「玉不琢、不成器」が挿入されています。
 それはそれとして、人生にもっとも大切なことは、内在する自からの質朴さを失わないこと。それを活かして自己実現をはかることです。琢磨したつもりが自在性を失い、精細に学んだつもりが朴実さを失うなら、そんな要請は避けるのが「金玉不琢」の人生といえるでしょう。皇帝の呼び出しにも応じなかった李白が詩心を失わず、五柳先生(陶淵明)が常に栄利を離れて暮らして晏如とした人生を得たようにです。

  • 2018年10月10日(水)
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「雨霖鈴曲」(うりんれいきょく)

「王朝の女人・楊貴妃」を演じて、華麗・艶麗な唐王朝の女性を体現してみせた美人女優范(範)冰冰(ファン・ビンビン)が146億円という多額の脱税を指摘されて、当局から女優として“死を賜う”ことになりました。安史の乱で玄宗皇帝とともに長安を追われて蜀の地に逃がれる途中、馬嵬で一族とともに殺害されたとき、楊貴妃は37歳。奇しくもいま范冰冰は37歳。玄宗に死を賜って縊死した楊貴妃と同年齢なのです。
 楊貴妃にかんする四字熟語には「明眸皓歯」(杜甫「哀江頭」)や「一笑百媚」(白居易「長恨歌」)「解語之花」(開元天宝遺事)などがありますが、この「雨霖鈴曲」(明皇雑録補遺)は楊貴妃に死を賜ったあと、斜谷で長雨と馬の鈴の音の響きに亡き愛妃を思って玄宗がつくった楽曲の名です。玄宗には琴をつま弾く楊玉環の姿が見えていたでしょう。広く妻や女性をしのぶ曲にいいます。「寒蝉凄切」ではじまる宋の柳永の「雨霖鈴」詞には、相愛の「佳人」との別れの深い悲傷が覊旅の風景の中に詠いこまれています。
 

  • 2018年10月03日(水)
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「青黄不接」(せいおうふせつ)

「青」は穀物の苗がまだ青々としていて熟すには間がある状態であり、「黄」は旧年にとれて蓄えておいた穀物のこと。「青黄不接」(『欧陽文忠公奏議集「一八」』など)というのは、保存しておいた穀物(黄)を食し尽くしてしまったのに、次の収穫(青)がまだ得られないことをいいます。天災で不作の場合もありますが、税の厳しい取り立てや兵乱による略奪という人禍によることもあります。こうなっては人民の暮らしは赤信号です。
 最近は「後継無人」の意味で用いられます。『三国演義』や『水滸伝』の表演で知られた「評書」(講談)演員の袁闊成(86)が2015年3月に亡くなり、いままた独特のかすれ声で語る単田芳(84)が9月11日に亡くなって、「青黄不接」がいわれます。最盛期の1990年代には400放送局で1億人が聞き、子どもたちはその語りから忠臣の節羲や孝子のありようを学んだのでした。魯迅も『而已集「革命時代的文学」』で旧制度の挽歌から新制度の謳歌への「青黄不接」の革命的時期にあるといっています。
 
  • 2018年09月26日(水)
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「牝鶏無晨」(ひんけいむしん) 

 新しい朝は高らかに晨(あした)を告げるオンドリの声から始まり、ややあって朝方の鐘の音(晨鐘暮鼓)が響く。村の一日が穏やかに始まる風景です。「牝鶏無晨」は「牝鶏が晨を告げることはない」というもの。この周の武王のことばは、「牝鶏が晨を告げるときは、家が索(つ)きるときである」(牝鶏之晨、惟家之索。『尚書「周書牧誓」』)とつづきます。古人言える有りとあり、民間にいいならわされてきたようです。

 この「牧誓」は殷(商)の紂王を倒すための戦いに臨んだ武王の雄叫びとして発せられたもので、「牝鶏」というのは悪姫妲己(だつき)のことですし、家は殷(商)のこと。しかしその後ながく封建制での男子優先のしくみを支えることばになりました。いまや「ダイバーシティ」(多様性)が叫ばれる「牝鶏司晨」の時代。さすがに表だってこういえる男性(雄鶏)はいなくなりました。が、しごとのできない女性上司には陰の声が消えないようです。実力をつけての社会参加が求められているのです。

  • 2018年09月19日(水)
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「勝友如雲」(しょうゆうじょうん)

 良き友がひとところに集まっているようすを「勝友如雲」(王渤「滕王閣序」から)といいます。文字通りの「勝友如雲」といえば、先の総選挙大勝の自民党本部がそうでしたし、合格発表日の有名高校の教員室や大学の入学式や企業の入社式はそのもの。
 典拠となる唐の王渤の「滕王閣序」には、秋の旬休(十日に一日の休み)に滕王閣(江南の南昌にある名楼)に登った「勝友如雲、高朋満座」のようすが画かれています。高いレベルの仲間が同座していますから事情が異なります。秋の全国展で優れた仲間の入選作をおさえて特選をえた人は、そんな感慨にひたることができるでしょう。
 嵩山小林寺のひざもと鄭州でおこなわれる太極拳国際大会にはまさしく世界各地から代表が集まり「勝友如雲、高朋満座」といった会場で競技が展開されますし、2019年の「中国建博会」(中国国際建築貿易博覧会・上海虹橋)では理念として「勝友如雲、高朋満座」を掲げています。1300年前のこの成語の活用はナウイようです。
 

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堀内正範氏

日本丈人の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈人の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈人の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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