東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2020年07月01日(水)
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「折腰五斗」(せつようごと)

 五斗のために腰を折る「折腰五斗」(『晋書「陶潜伝」』から)は、年に5斗(今の5)というわずかな俸禄を得るため汚吏貪官や若造の屈辱を忍ぶこと。それには耐えられぬと職を辞して郷里に帰ったのが陶潜(字は淵明)です。その事績はのちの唐(孟浩然)や宋(辛棄疾)になって広く知られて「折腰五斗」がいわれるようになりました。有名な「帰去来の辞」の「帰りなんいざ、田園まさに蕪れなんとす」は菅原道真以来の訓読。故郷の潯陽20年をすごして、里人に靖節の人五柳先生と慕われて生を終えています。
 大正から昭和の初めに中国大陸で生まれて育った高齢の方々が亡くなっていきます。蕪れた戦禍のちまたに戻って、「三密」のなかで身を寄せ合い助け合って貯蓄などせず、「一億総中流」社会をこしらえた功労者の方々です。ですから「老後破産」といわれ「下流老人」と呼ばれても「国のお世話」(生活保護)をいさぎよしとせず、大陸の荒野で捨てられまた都会の片隅で無視されても自足の人生を送って去る人びとです。

  • 2020年06月24日(水)
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「未雨綢繆」(みうちゅうびゅう)

 風雨にならないうちに鳥が巣の穴を補修するように、風水害に備えて房屋門窓の保全に怠りないことを「未雨綢繆」(『詩経「鴟鴞」』など)といいます。「綢繆」はもつれからまること。事をなすに当たってまず綿密な準備をすることの比喩として「臨渇掘井」や「亡羊補牢」(別項)と合わせて用いられます。原典の『詩経』では商(殷)を滅ぼしたあと周朝の基盤を強固にした周公(姫旦)の国事の前途に示した深い憂慮が「未雨」にこめられており、反乱が発生したときの対処方法まで指示しています。

 いま世界はコロナウイルス感染の「パンデミック(世界的流行)」の渦中にありますが、先行した諸国は秋の「第二波」再来への備えに「未雨綢繆」を競っています。政府の「緊急事態宣言」に対する「東京アラート」もそのひとつといえるでしょう。加えて米中貿易戦争のはざまにある日本が受ける横流はまさに最高レベルの「未雨綢繆」が要請される局面にあり、「アベノマスク」や財政執行に際しての政府の不手際では不安です。

  • 2020年06月17日(水)
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「三頭六臂」(さんとうろっぴ)

 どの方面でも活躍することを日本では「八面六」の大活躍としてたたえますが、中国では活躍ぶりでは「八面」とはいかず「三面」の「三頭」(釈道原『景徳伝灯録「普昭禅師」』から『水滸伝』『西遊記』など)がいわれます。(頭は面・顔、は肘・腕)
 もとになったのは仏教上の教義からで、そののち民間伝承や道教と交錯しながら「三つの頭(顔)と六本の臂(腕)」をもつ仏像がリアルに形成され認知されています。同じ教義でも十一面や千手にはリアル表現に無理がありますが、この「三頭六」には躍動感があります。それを代表する仏像に奈良・興福寺「阿修羅」像があります。
 現在も「三頭六臂小哪吒」(なた・少年神)はアニメの主人公として大活躍していますし、三頭六臂という名の自動車部品調達にかかわる事業が中国で急成長しています。経営陣に異業種の実務家(三頭)を据え、全土に事業所(六臂)をかまえて。調達時間と価格で欧米や日本企業に挑んでいます。遠からず闘いに勝利するでしょう。

  • 2020年06月10日(水)
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「四面楚歌」(しめんそか)

 秦末の楚漢戦のおわりに、漢の劉邦の連合軍が垓下で楚の項羽を包囲します。その夜、漢軍は四面から項羽の古里である楚の歌を歌います。「四面楚歌」(『史記「項羽本紀」』から)です。四方を敵に囲まれ孤立することをいう有名な四字熟語です。四面から楚歌を聞かせる戦術に、項羽は楚兵がみな漢に降ったと知り敗北を認める場面です。それでも血路を開き長江河畔まで落ち延びます。ひとたび軍を引き立て直して攻める「捲土重来」ですが、果たせず河畔で自刎して「抜山蓋世」の生涯を閉じました。
 いまトランプ大統領が「四面楚歌」の状態にあります。コロナ禍、人種差別、経済混乱、中国との対峙、大統領選の世論調査、共和党パウエル元国務長官の民主党バイデン候補支持など、四辺から攻撃を受けているからです。「捲土重来」は、敗れて再来を誓い甲子園の土を持ちかえる高校球児の姿に重なります。今夏の大会が中止になり、全国の球児に甲子園の土入りキーホルダーを贈ろういう計画があるようですが。

  • 2020年06月03日(水)
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「千古笑端」(せんこしょうたん)

 この深刻な状況下にあってもTVから笑いが絶えません。学生も単位をとるより笑いをとることに熱心な「お笑いの時代」。「笑」のつく熟語に「千古笑端」(『世説新語補「識鑑」』から)があり、これは時代を超えて末代までもの笑いの種になることにいいます。
 中原に宋が興り、江南の南唐(都はいまの南京)が危うくなったころ、南唐の後主であった李(別項「天上人間」)は韓煕載文靖)の志を疑っていて、画家顧宏中に命じて日常のようすを描かせます。画家は見たとおり彼が妻妾歌女に囲まれて夜宴を楽しんでいるようすを描いて献上します。それがいまに残る『韓煕載夜宴図』(故宮博物院蔵)です。韓煕載が昼夜歌舞に溺れることで宰相になることを避けた理由は、宋軍が攻めてくれば江南の兵は闘わず逃げ去ることがわかっていたからで、そんな時期に宰相となって末代までの笑いの種となることを避けたのでしたが、結果はこの四字熟語とともに名を残すことになりました。歴史上に「千古笑端」をいわれた指導者は数知れません。
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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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