東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2020年04月08日(水)
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「一針見血」(いっしんけんけつ)

 講話や文章が直截にテーマの実質に当たっていることを「一針見血」(梁啓超『飲氷室合集「一八・論私徳」』など)といいます。毛沢東も「反対党八股」で空話や套話を打破するにあたってこの「一針見血」を用いています。一針による見血ですからほんのわずかですが、それでも血のもつ生命への維持力を確認するには充分です。近義の「頂門の一針」は鍼灸で頭頂に針をうつことから相手の言動の急所をつくとき使われます。
 ヒトの皮膚に付着して細胞のなかに侵入して生きようとする新型コロナウイルス(新冠状病毒)と生命体を保持しようとする宿主の細胞との生命の存続を争う角逐は菌戦争というべきもの。武漢から世界に広がり、各国の危機管理とくに中国とアメリカの違いに関心が集まっています。独自の対応で感染者も死亡者も少ない日本ですが、4月7日に「緊急事態宣言」を発出したばかり、今後の推移に成否がかかっています。
 ピンポイントの血にかんするこのことばには生命への強い意思が託されています。

  • 2020年04月01日(水)
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「土階三等」(どかいさんとう)

 東京五輪が一年延期になって、高額(〜2億円)で分譲された選手村マンション「HARUMI FLAG」の入居延期での利得も話題になりましたが、東京では元麻布あたりの1億〜2億円のタワーマンションが超人気だそうです。夜景が楽しめますし、昼間は地をはうような庶民の姿を見下ろせて。利得の狂乱で立ち上がる何十階建ものビル群を見ていると、この「土階三等」(『史記「太子公自序」』など)が思われます。

 堯や舜といった徳政をおこなった人物の住まいが「土階三等」とか「土階茅屋」「茅茨土階」として伝承されています。帝王でありながら宮殿は簡陋で入口の階段が土づくり三段であったこと、屋根は草ぶきで切りそろえてないままであったこと。利得ではない益徳による政事の証しとして。いまでも質実をよしとする意味合いで用いられていて、上海の狂騒とかかわりなく、黄河上流域(堯の古里)の黄土を横掘りした冬暖かく夏涼しいヤオトンでニワトリやブタといっしょに安居している人びとの姿に心なごむのです。

  • 2020年03月25日(水)
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「華胥之夢」(かしょしぼう)

 中国で暮らす人びとの祖とされる聖人黄帝は、長い治世に二度スランプに陥ったといいます。最初の時にはひたすら民の声を聴くことで脱し、次の時には三月のあいだ政事を離れてひたすら夢をみて過ごしたといいます。善なる人が “神遊”してたどり着いたのが「華胥氏の国」(『列子「黄帝」』から)でした。列子は、「国に帥長(支配者)なく、自然なるのみ。民に嗜欲なく、自然なるのみ」と説明を試みています。以後黄帝は二八年にわたって「華胥氏の国」のような国をめざして治世に努めたといいます。
「美国夢(American Dream)」に対比した現代の「中国夢」を、習近平国家主席は「国家の富、民族の振興、人民の幸福」といい、「人民の夢であり、人民と共に実現し、人民に幸せをもたらすもの」としています。どうでしょう、「新型コロナウイルス(円冠病毒)」によって外出を閉ざされているあいだに“人遊”して 「わたしの華胥の夢」をみて過ごしては。その夢の達成をめざすことで人生は実のあるものになるに違いありません。

  • 2020年03月18日(水)
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「重見天日」(ちょうけんてんじつ)

 困難な状況を脱してふたたび光明を見出すことが「重見天日」(『三国演義「二八回」』など)です。いまこういえば、「新型コロナウイルス(円冠病毒)」の発現地になった武漢市が思われます。習近平主席も激励にいき、マスク姿で「保衛戦」を戦う市民に感謝を伝えていました。武漢の勝は湖北の勝、湖北の勝が全中国の勝として。
『三国演義』では、盗賊に身を落としていた周倉が関羽の五関突破の道で将軍関羽に出くわす場面で吐出されています。会いがたき人と巡り合えた喜びを表現することばです。必ずといっていいほど用いられているのが陵墓や大仏(蒙山)といった考古学的大発見についてです。もっと身近なお宝の発見もありますし、車庫に眠っていた1988年製の白色のマツダ(馬自達)RX−7を発見した車マニアが「重見天日」と叫んでいます。
 武漢大学の「桜大道」の桜が満開になっています。だれも訪れる人のいない構内でひっそりとではなく、いつものように華やいで。天恵と天災は人智を超えてやってきます。

  • 2020年03月11日(水)
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「解衣推食」(かいいすいしょく)

「衣食足りて礼節(栄辱)を知る」(『管子「牧民」』から)といわれますが、どうでしょうか。衣食足りているはずのこの国で、新型コロナウイルス騒動でのカイダメ姿をみると疑わしくなります。自分が着ている衣を解いて与え、自分の食を分けて与えてわが身を削ってもてなして命に替える信を得るのが「解衣推食」(『史記「淮陰侯列伝」』から)です。
 天下を東(項羽)と西(劉邦)に二分したとき、項羽は韓信の説得に旧知の武渉を向かわせます。項羽に仕えたこともある韓信に武渉は、「あなたが右に投ずれば漢王(劉邦)が勝ち、左に投ずれば項王が勝ちます。あなたは項王と故あり」と説きます。韓信は「漢王は衣を解いてわれに衣(き)せ、食を推してわれに食らわせてくれ」、その上よく言を聴いてくれて計は用いられたと答え、「死すとも易えず」として断っています。
 命にかかわる食と信。国際協調から分断への時代に、食材は世界各地からやってきます。わが国が信頼を得て食を得られるかどうか、礼節が問われることになります。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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