東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2019年12月11日(水)
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「衆口一詞」(しゅうこういっし)

 多数の人が参加して論じているうち内容が練り上げられ(衆心成城、衆口錬金)、意見がひとつのことばにまとまることを「衆口一詞」(『醒世恒言「巻二〇」』など)といいます。「衆口一辞」「衆口同音」「万口一声」などいい方は多様ですが。世論・公論を形成し事態を好転させます。一方に是非それぞれ異見をいいあう場合もあります。多くは前者の用例ですが、宋の欧陽修の「衆口一辞」は紛然として止まずという後者の例。
 地球温暖化対策を話し合う国連の「COP25」の締約国会議(マドリード)では“石炭”を残そうという現実的な日本の意見が石炭全面廃棄を要求する国々やNGOの理想的意見によって批判の対象になっています。また香港での6カ月にわたる抗議デモは、民主的な議論の成果を形にして示してきました。12月8日に大通りを埋め尽くした大規模なデモでは、「be water」(水になれ)を掲げています。香港が生んだブルース・リーが残したことばで、抗議活動に参加する自在性を示す「衆口一詞」の例でしょう。
 

  • 2019年12月04日(水)
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「天香国色」(てんこうこくしょく)

 これまで中国には国花がありませんでした。ひとつに絞り切れない事情があるからで、中国花卉協会が今年7月にオンライン投票で国花選定を呼びかけた結果、36万票のうち牡丹がダントツ(79%)で、あとは梅、蘭、蓮、菊の順だったといいます。

 香りと姿のふたつながら際立つようすを「天香国色」(李正封「賞牡丹」など)といいます。色香ともに整って艶麗な牡丹の花をいい、のちには国中に知られる艶麗・端麗な女性をいうことになりました。「国色天香」とも。牡丹にちなんで「魏紫姚黄」というのは宋代に愛好された魏氏の紫、姚氏の黄の二品種の牡丹のこと。品種改良が盛んだったことを想像させます。中国では「歳寒三友」のひとつ、梅も根強い人気を保っています。
 国を代表する女性リーダーが世界各地で次々に生まれていますが、前置きとして「天香国色」はほどよい品格と重量感を保っています。遠からずこの国にも出現するにちがいない女性首相に添える四字熟語として、この「天香国色」を贈呈しましょう。
 

  • 2019年11月27日(水)
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「泥牛入海」(でいぎゅうにゅうかい)

 時代により意味合いが異なってしまう四字熟語の例は「走馬看花」などで見てきましたが、この「泥牛入海」(釈道原『景徳伝灯録「巻八」』から)は立場により異なる例です。宋代になった禅宗語録の『景徳伝灯録』からは本稿でも「雪上加霜」をとりあげていますが、この「泥牛が二頭たたかいながら海に入り、再び戻ってこなかった」という禅僧が見た「泥牛入海」の情景は、ひとたび去って消息なしの比喩としてよく用いられます。
 穀物の産地である江南(呉)で、炎熱のもと日中いっぱい酷使された牛には、東から上ってくる満月が太陽と映ります。そこで月におびえる「呉牛喘月」ということになります。牛の喘ぎは同時に農民の喘ぎです。しかし終日よく働いた牛を海に入れ泥を落とす農事の実景なら、「泥牛入海」は明日にそなえる牛と農民にやさしいことばです。
 平家滅亡のとき、安徳天皇とともに海に沈んだ「三種の神器」のうち剣が返らず「泥牛入海」となって以後、神器のお出まし順は勾玉、鏡、剣の順になったといいます。
 

  • 2019年11月20日(水)
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「通家之好」(つうかしこう)

 両家の交流が一家のように親しく通家百年、累世通家であることを「通家之好」(秦簡夫『東堂老「第四折」』など)といいます。後漢末期の乱世を生きた孔融と李膺とは祖先が孔子と李耳(老子)というのですから累世通家の代表です。李膺に接見するのがむずかしく「登竜門」といわれましたが、党錮の禁で誅殺されています。孔融は遅れて曹操に殺されています。世におもねらずに清官に徹した「通家之好」です。
 長い努力と功績が認められた者同士が春爛漫の桜の下で出会える園遊会はあっていい行事です。天皇皇后の主催で赤坂御苑で行われる春の園遊会には各界要人とともに金メダルやノーベル賞受賞者など業績のあった一般人も招待され、陛下からねぎらわれる場面が報道されます。一方、新宿御苑の「桜を見る会」は首相が主催。こういう晴れの機会にめぐまれない国民を広く選ぶのが議員枠。しかし“安倍一族”850人の招待は世におもねる鈍感な「通家之好」の所業というしかありません。

 

  • 2019年11月13日(水)
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「抱薪救火」 (ほうしんきゅうか) 

 薪(柴草)を抱えて火を救う「抱薪救火」(『史記「魏世家」』から)は、誤った方法で災禍を除去しようとするとかえって災禍を拡大させてしまうこと。戦国時代の強国秦の侵攻を受けて次々に城鎮を失った魏は、何度も土地を割譲して和議を結びます。蘇代(合従抗秦の蘇秦の弟)は領土の割譲は「抱薪救火」であり秦の欲望を強めるだけと主張しますが、目前の和平を望む魏王は聞き入れず、魏は紀元前225年に滅亡します。
 米中貿易戦での中国の対応を軟弱とみてさらに不公平な要求で迫る超大国アメリカの政策に対して、「抱薪救火」の歴史を知る中国は、経済発展の総力をかけて強硬な対抗措置をとりつづけ、互利互恵の国際協調国(日本やドイツも)を味方につけて戦いぬきます。一方、アメリカは第一次大戦後にとった自国中心政策が世界恐慌を招いた歴史に学んで、第二次大戦後つづいた国際協調の後退期に登場したトランプ政策に歯止めをかけようとしています。歴史に学んで対処する両国の動向に注目です。
 

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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