東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2018年07月18日(水)
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「宝刀不老」(ほうとうふろう)

 ことしのウインブルドンで錦織圭選手はジョコビッチ選手に敗れてベスト8どまり(7月12日)でした。その陰で元トップ選手招待試合「インビテーション・ダブルス」に登場したのが、2003年女子ダブルスで優勝した杉山愛選手と個人2位のキャリアをもつ中国の李娜選手。アジア・リジェンドが組んで欧米組にストレート勝(7月10日)。引退後も技に衰えのない二人に「宝刀不老」の評価の声が聴かれました。

 典拠は蜀の老将黄忠「ご老体なお出陣なさるか」といわれて「なにをいう、わが手中の宝刀は不老じゃ」と答えて出陣したことから(『三国演義「七〇回」』)。そこから老いてなお元気に活躍する人を老黄忠と呼ぶようになりました。ですから本来は伝統工芸士のような人が年をとっても技能に衰えのないことをいうのでしょうが、もっと幅ひろく、サッカーのヴィッセル神戸のイニエスタ将棋の羽生善治の活躍でもいわれるでしょう。人ばかりでなく手入れのいいキャデラックなどを前にしてもいわれます。

 

  • 2018年07月11日(水)
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「水落石出」(すいらくせきしゅつ)

 渇水期に水底の石が露出する情景が「水落石出」(欧陽修『酔翁亭記』など)で、もとは季節の山間に見られる自然景観として詠われてきました。近年では貯水ダムの水が引いて石どころかかつてあった村が現われる「水落」のようすが話題になったりします。
 見えないものが次第に現れることから、後になって比喩として真相があきらかになること(『紅楼夢「七三」』など)にいわれるようになります。
 FIFAワールドカップでいうと、地域予選を勝ち抜いた代表32チームが本大会に参加します。本大会ではグループリーグを経てベスト16が決勝トーナメントをおこないますが、そこで2勝したフランス・ベルギー・クロアチア・イングランドの四強あたりが「誇らかな石出」といったところでしょうか。製品の品質への信頼を誇ってきた日本企業では、なぜか神戸を露出させています。神戸製鋼は品質データ改ざんで、品質を厳選したはずの神戸牛に但馬牛が紛れていたりと「憂いある水落石出」の現場になっています。

  • 2018年07月04日(水)
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「一蛇呑象」 (いちじゃどんぞう) 

 人間がもつ際限のない貪欲の表現として、時代を越えて用いられてきたのが、ヘビがゾウを呑み込むという「一蛇吞象」(『楚辞「天問篇」』など)です。
 伝承では、かつて困窮の極みにあった人物が一匹の蛇の命を救ったことで、蛇から恩に報いるのに何かと望みをかなえてもらうことになります。はじめは衣食でしたが次第に欲が大きくなって官職を求めさらには宰相にしてくれるよう求め、ついには皇帝にまでおよびます。それを聞いた蛇は、人間の貪心というものに際限がないことを知って、その人物(宰相)を呑み込んでしまいました。「蛇呑相」は「蛇呑象」になりましたが、元気な現代IT企業が赤字の百年企業を呑み込む姿はこれでも足りないほどです。
「巴蛇呑象」(『山海経「海内南経」』から)というのは、古代伝説中の大蛇「巴蛇」は長さ800尺もあって象を呑み込むことができ三年を経て骨を吐き出すのですが、その骨は腹内疾病に効くと伝えています。漢方薬の竜骨(化石)に紛れているかもしれません。
 

  • 2018年06月27日(水)
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「扇枕温席」 (せんちんおんせき) 

  炎熱の夏には枕辺を涼しくするために扇であおぎ、厳寒の冬には冷たい寝床を身をもって温めて、親に孝敬を尽くすことを「扇枕温席」(『東観漢記「黄香伝」』など)といいます。典故になった黄香は、早く母を亡くし父親を大事にして暮らします。後に魏郡の太守になった黄香は、水災にあった人々のために奉禄と家産を出して救済活動をしています。人々は「天下無双、江夏黄香」と彼を称賛しました。「二十四孝」のひとりとして知られ、また『三字経』のなかの「香九齢、能温席」も黄香を指します。
 30年以上つづいた一人っ子政策の結果、中国では子どもが小皇帝の存在となり「扇枕温席」は逆に親が子のためになすべきことに。この環境で育った子どもは自己中心になり、親不幸な事件を引き起こし、習近平政権による官僚腐敗の根を取り除く政策の困難が予想されています。そこで誕生祝、毎週の電話、再婚支持といった具体的行動を掲げた「新“24孝”行動標準」によって孝文化を伝承し創新しようとしていますが。
 

  • 2018年06月20日(水)
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「破釜沈舟」(はふちんしゅう) 

 自分よりも力のある相手に対して必死の覚悟で戦いに臨むこと、そして勝利したときに「破釜沈舟」(『史記「項羽本紀」』から)がいわれます。楚軍を率いた項羽にちなむもので、渡河した舟を沈めて退路を断ち、飯を炊く釜をこわして兵には三日分の食料を与えて「無一還心」(行ったきり)の覚悟で章邯の秦軍に決戦を挑んで勝利したことから(鉅鹿の戦)。『孫子「九地篇」』では「焚舟破釜」といいます。
 スポーツの試合でよく使われ、FIFAワールドカップで八強まで進んだことのあるコロンビアに勝利した日本チームについてもいわれます。中国の自動車業界では、第一汽車集団がトヨタ・マツダ・アウディとの合資製品に対して自主製品の収益がのびない状況を打開するのにいわれます。日本の電子産業では、ソニー、シャープ、東芝などの世界戦略の遅れが指摘されるなか、パナソニックの体質改善でのV字回復がおもに社員みずからの「破釜沈舟」によることを見落としてはいけないでしょう。
 

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堀内正範氏

日本丈人の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈人の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈人の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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