東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「三顧茅廬」 (さんこぼうろ)

 新年度を迎えて、わが国の企業では「入社式」をおこない、社長が新入社員に、誇りと覚悟をもって社業に当たるよう要望を述べるのが通例です。事業を達成するために人材を求める真情の厚いことを「三顧茅(草)廬」といいます。

三国時代に、劉備が遠路を三度たずねて臥龍諸葛亮を得た故事からですが、いま経済発展のさなかにある中国の企業が、人材を確保するかまえとして用いています。求められる側も、それに応えて能力を高めて対応することになります。
 
人材を求める故事としては、口にしていた食物を吐いて応対した「周公吐哺」や䔥何の「月下に韓信を追う」などがありますが、やはり劉備なきあと孔明がしたためた「出師表」に、「臣を草廬の中に三顧し、臣に諮るに当世の事を以ってす」という三顧の真情が、求められる側の胸を打つのでしょう。佳話に納得していたら、故地襄陽の「三顧茅廬」像の孔明の顔にマジックでいたずらをした事件が報道されました。

「十全十美」(じゅうぜんじゅうび)

 この上なくすべてよし、「十全十美」(『警世通言「巻二一」』など)は、まさにこの上なく心地のよい四字熟語です。「十全」は古くから病が癒えて良くなる「十治十癒」の意味でつかわれてきましたが、「十全十美」という完全無欠の意味となって、かえって実例が出づらくなりました。毛沢東がマルクス・レーニン主義は「十全十美」といっていますが、そのレベルとなるとそう多くはありません。

はじめから及ばない「十全十美」を避けて、一つ欠ける「十全九美」が生き生きとして使われています。北京オリンピックのころに封切られた映画「十全九美」は3000万枚ものチケットが売れたといいますし、北京の最高級マンションのウリことばになっています。緑の多い環境のなかで、交通が便利で医院やゴルフ場が近くて、150平米以上の広さをもち、内部設計も品質もよく・・。そこで価格もいいでしょうが、買い手にとって九美なのはこの点なのでしょう。

「両敗倶傷」(りょうはいぐしょう)

 ともに正義を掲げて争ったものの、双方が傷ついてともに敗者となる「両敗倶傷」(汪応辰『文定集・一五』など)の事例は数知れません。さわやかな勝利はスポーツならではのことで、ロシアの「ソチ・冬季オリンピック」でも勝者となることの感動シーンが見られました。その同じソチで6月に開催予定であったG8が、ウクライナ・クリミヤ共和国のロシアへの強行編入によって中止され、欧米側の経済制裁が加わって「両敗倶傷」の実例となろうとしています。強行したことで支持率が70%を越えたといいますからプーチン大統領は勝利者といえるのでしょう。

魚釣島国有化や首相の靖国神社参拝で悪化しつづける日中間の対立が軍事衝突にでもなれば「両敗倶傷」といっていたのは米国でした。いま米国に対して対露経済制裁は「両敗倶傷」というのが中国側の論調です。そんなおおげさな話を例に持ち出すまでもなく、夫婦喧嘩というのも「両敗倶傷」で、さわやかな勝利者はないようです。

「黒白混淆」(こくびゃくこんこう)

「黒白混淆」といえば何やらアメリカ社会の課題と思われそうですが、じつは大国の再興「中国の夢」も、この課題の克服なしにはありえないといわれています。

ことは後漢時代の楊震にはじまります。楊震は、30年間教育にたずさわって門下生3000人、「関西孔子」と称えられました。その後の出仕は20年余り。東莱太守のとき通りかかった昌邑で、県令の王密から深夜ひそかに金10斤を贈られます。楊震は「天知る、神知る、我知る、子(あなた)知る、なんぞ知るなしといわんや」と断りました。それが知られて「四知先生」と呼ばれることになります。はては高官たちの目にあまる豪邸、園林づくりに、「是非をわきまえず、黒白混淆(『後漢書「楊震伝」』から)と強く諫めて地位を追われ、毒をあおって憤死したといいます。

「改革の全面深化」を掲げる全人代活動報告は、深化する腐敗打破のむずかしさをにじませています。強化しすぎれば「口是心非」という心理的腐敗を引き起こすからです。

「九十春光」(くじゅうしゅんこう)

 ことしは大寒気団が何度も南下してきて、大雪が降っては積もって、春のおとずれが遅いようですが、春季、三カ月、九十日の暖かく心地よい光に包まれた期間に繰り広げられる情景を、「九十春光」(陳陶「春帰去」など)というようです。

「冬山如睡」の九十日から「春山如笑」の九十日への移ろいのときであり、目にやさしくて肌につややかなことから「春光明媚」ともいわれます。あるいは風のやわらかな感触から「春風和気」とも、さらには次々に開花のときを迎えて「春暖花香」ともいわれます。生けるものすべてがそれぞれに、待っていた九十日の春光を謳歌します。その中で人もまた季節感に鈍感になったとはいえ、「春満人間(じんかん)」のときを迎えて、人びととの新たな経歴を刻むことになります。こんな「九十春光」もあります。九十歳に達した慕わしい老師を、白髪になった学生たちが囲んで点々滴々のお礼を述べてお祝いをし、「春華秋実」の百寿に至るのを励まそうというのです。

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堀内正範氏

日本丈人の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈人の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈人の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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