東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2018年07月04日(水)
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「一蛇呑象」 (いちじゃどんぞう) 

 人間がもつ際限のない貪欲の表現として、時代を越えて用いられてきたのが、ヘビがゾウを呑み込むという「一蛇吞象」(『楚辞「天問篇」』など)です。
 伝承では、かつて困窮の極みにあった人物が一匹の蛇の命を救ったことで、蛇から恩に報いるのに何かと望みをかなえてもらうことになります。はじめは衣食でしたが次第に欲が大きくなって官職を求めさらには宰相にしてくれるよう求め、ついには皇帝にまでおよびます。それを聞いた蛇は、人間の貪心というものに際限がないことを知って、その人物(宰相)を呑み込んでしまいました。「蛇呑相」は「蛇呑象」になりましたが、元気な現代IT企業が赤字の百年企業を呑み込む姿はこれでも足りないほどです。
「巴蛇呑象」(『山海経「海内南経」』から)というのは、古代伝説中の大蛇「巴蛇」は長さ800尺もあって象を呑み込むことができ三年を経て骨を吐き出すのですが、その骨は腹内疾病に効くと伝えています。漢方薬の竜骨(化石)に紛れているかもしれません。
 

  • 2018年06月13日(水)
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「馬到成功」(ばとうせいこう)

 馬が駆け付けたらただちに勝利する「馬到成功」(鄭廷為『楚昭公「第一折」』など)は、時代を越えていまも力のある人が着手すればすみやかに成功するという意味で用いられています。中国の大学統一入学試験「高考」が6月7・8日に全国でおこなわれ975万人が受験しましたが、激励もエスカレート。河北省のある中学校の門前には受験生の父親が乗った8頭の馬が登場、「馬到成功」で地元の受験生を激励しました。
 古来、武将が駿馬にまたがり出陣する姿は猛々しい。名馬は東西に多く記録されますが、有名なのは項羽の愛馬だった騅、三国時代に呂布と関羽が戦場を駆ったという赤兎馬、アレクサンダー王の遠征を支えたブケバロス、アルプス越えのナポレオンのマレンゴ、宇治川の先陣争いを演じた池月と磨墨、川中島で上杉謙信が騎乗した放生月毛など。馬といえば「日本ダービー」(一着賞金2億円)。ことしは5番人気の「ワグネリアン」(福永祐一騎乗)が優勝。騎手の福永家にとっては悲願の優勝だったようです。
 

  • 2018年04月04日(水)
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「噤若寒蝉」 (きんじゃくかんぜん) 

 蝉噪といわれるほどに夏秋を謳歌したセミも秋が深まり寒冷のときを迎えると黙して死に備えます。権力者におびえて真正面から反論して正論を述べることをせず、寒蝉のように口をつぐんで自己保身にもっぱらな官人を「噤若寒蝉」(『後漢書「杜密伝」』から)と呼びます。官界がそうなってしまったとき社会正義の風潮は衰えざるをえません。
 後漢時代の清官であった杜密は、宦官の子弟の違法行為を有罪としたことで故郷の頴川に移されます。同罪で故郷に帰っていた高官の劉勝が「閉門謝客」して世事を聞かず問わずにいることを知った杜密が、鳴かなくなった寒蝉と同じで官人としては社会的罪人であると責めたことから。身近にも実例の存在を感じますし、金正恩独裁政権の北朝鮮には常態としてあると想定されます。歴史上ではすべての官人が「噤若寒蝉」のなかでひとり李陵を擁護して宮刑を受けた司馬遷の例をあげておきましょう。
 政治向きでなく唐突ですが、歌麿の春画のやりとりにも「噤若寒蝉」は必要でしょう。
 

  • 2018年01月10日(水)
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「狗尾続貂」(くびぞくちょう)

 晋代の皇帝ははじめ侍従官の帽子の装飾に貂の尾を用いましたが、乱封で貂の尾が不足したため、犬の尾で代用したことから「狗尾続貂」(孫光憲『北夢瑣言「第一八巻」』など)という成語を残しました。先のものをふさわしくないもので補うこと。100歳のお祝いの銀杯をメッキにしたのはその事例。これでは国民の信頼はえられません。
「桀犬吠尭」(『晋書「康帝紀」』など)は、暴虐非道の君主桀の飼い犬が仁政を尽くした聖君主尭に吠えかかること。犬は飼い主の善悪にかかわらず、ひたすら主人のために吠えかかることから。「鷹犬塞途(鷹犬途を塞ぐ)」(魯迅「偽自由書・文章と題目」など)も同じ。鷹と犬はともに狩猟のために飼い馴らされ、主人のために死力を尽くすことから。孫文は死の前年一九二四年に神戸で、日本はアジアの一国として「西方覇道の鷹犬となるのか、東方王道の干城(守り手)となるのか」の選択を誤らないようにとの願いを込めた講演を残しました。戌年のはじめに犬(狗)に因む四字熟語から。
 

  • 2017年11月15日(水)
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「作繭自縛」(さくけんじばく)

 蚕が糸を吐いて繭をつくって自分を閉じ込めてしまうことから、自分がしたことで結果として自分が困難に陥ってしまうことを「作繭自縛」(茅盾『腐蝕「九月十九日」』など)といいます。自縛は自纏にもつくります。南陸游『剣南詩稿「書嘆」』には「人生如春蚕、作繭自纏裏」とあって、人生が思うに任せない例えとしています。
 蚕も家畜ですから1頭2頭と数えるのですが、養蚕研究といえば蚕の習性を知って少しでも多くの糸を吐かせて収穫を増やす工夫がなされてきました。が、最近の日中での研究は「平面繭」なのだそうです。蚕の習性を使って繭をつくらせない。その上で人為的に染料で染めた糸を吐かせたりします。蚕は約40時間休まず糸を吐きつづけて蛹になります。自縛して繭になる本来の姿を奪って芸術的絹布をつくるのですから、この成語の意味合いを失いかねません。それでもトランプ米大統領のアメリカファースト政策は「作繭自縛」と呼ばれています。こんなに大きな繭は他にないでしょう。
 
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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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