東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2017年07月26日(水)
  • 植物

「木雁之間」(もくがんしかん)

「木と雁の間にいる」といっても何のことやらわからない。荘子と弟子の話を聞きましょう。荘子が弟子と山中を歩いていたときのこと。よく枝葉が繁茂している良木なのに、きこりは伐るようすがない。「用いるところなし」という。悩む弟子に荘子は「不材を以って天年を得たり」といいます。求める材として不向きだったために伐られずにすんだというのです。そのあと知人のところに宿って家雁(ガチョウ)のごちそうになります。使用人が「よく鳴くのと鳴かないのがおりますが」と聞くと、主人は「鳴かないほうにしなさい」と命じます。悩む弟子に荘子は「良材と不材との間におることだよ」と答えます。
 能力が発揮できず弱者が救済されない時代には、才能を突出させずといって不要とされない中間あたりにいること、有用さが目立って成果主義に利用されて才能を涸れさせてしまわないことが人生で禍災をさけ安全をたもつ流儀だというのです。「直木先伐」「甘泉先竭」ともいいます。『荘子「山木篇」』から。
 

  • 2017年06月14日(水)
  • 植物

「水性楊花」(すいせいようか)

「水性楊花」は水面に浮いて、根も葉もなく、一本の茎からひとつひとつ小さな白い花を咲かせます。有名なのは四川・雲南省境にある草海とよばれる濾沽湖(淡水湖)の水性楊花。これを素材にした料理が「水性楊花」で、花と茎を食べます。
 そこで、水のように柔軟で、愛らしくて嬌艶で、だれに頼ることもなく、おのずから軽浮な女性を「水性楊花」(曹雪芹『紅楼夢「九二回」』など)と呼びます。女性角色(キャラクター)としては、梁山泊の面々が話題になる『水滸伝』(うち『金瓶梅』)の潘金蓮。ドラマ化にあたってのキャスティングで、当時新人だった甘婷婷が抜擢されて演じました。
 このコーナーには荷が余りますが、濾沽湖畔の小村出身でモデルで作家の楊二車娜姆(名は宝石仙女の意)がいます。四川自治州歌舞団から上海音楽学院に、さらに中央民族歌舞団へと進んだあと、天安門事件を契機にアメリカ人と結婚して出国、のち離婚してイタリアでモデルに。「水性楊花」どころか多彩で濃密な活躍をしています。
 

  • 2017年05月31日(水)
  • 植物

「眼花繚乱」(がんかりょうらん)

 わが国でいう種々の花がいっせいに咲き乱れる「百花繚乱」は、中国では「百花斉放」あるいは「百花争妍」で、この「眼花繚乱」(王実甫『西廂記「一本一折」』など)は事物や事情が煩雑で眼前の事象への判断に迷うこと。反義語は「一目瞭然」です。
 ですから魚市場移転での築地か豊州かについて、さまざまな事物や事情が錯綜しており、小池都知事がどう判断するかに迷うようすはこの「眼花繚乱」の事例のひとつといっていいでしょう。身近なところでは、発売10周年に因むアップル社製スマートフォンであるi Phone 8に関する発売日や型式情報はいま「眼花繚乱」といったところです。
 途上国だった中国の最大の「眼花繚乱」は、本当の大国になったのかという問でしょう。「一帯一路」構想など着々と地歩を築いているものの、人民元の国際通貨としての安定性や包囲する地縁世界である日米、ロシア、インドとの関係に懸念があり、強国になったが大国とはいえない、驕傲、自豪であるという抑制した意見に実感があります。
 

  • 2017年03月29日(水)
  • 植物

「火樹銀花」(かじゅぎんか)

 冬の夜を明るくする「火樹銀花」(唐・蘇味道「正月十五夜」など)は、なにやら現代の大都市の夜景を思わせることばです。「火樹」は紅い火の色をした樹で、樹上に灯火を掛けつないだ情景、「銀花」は光で銀色に輝く花。
 日月が同時に昇って沈む春節から月の出が遅れて夕暮れの三日月となり、半月となり凸月となり、十五夜を迎えます。元宵節です。「火樹銀花」は灯光や焔火に照らされて明るく輝く元宵節の夜景をいいます。農民は一年の幸いを満月に祈るのです。何より豊作であること、そして無事であること、子宝が得られること・・。唐の長安での一月十五日の「火樹銀花」は、そのための月への願いの明かりでした。それから農作業に精を出し、八月十五日には「中秋名月」にむかって収穫のお礼をし、月餅をいただくのが古くからの農民のならわしであったようです。いまや西安ばかりでなく、大都市の元宵節には花火をあげ、木々の枝を電飾で彩り、ビルの壁面や池の水面まで使って不夜天の世界を演出しています。一年の幸いを何に祈っているのでしょう。
 

  • 2017年03月15日(水)
  • 植物

「花開無声」(かかいむせい)

 春の訪れとともに人の心はおおらかに晴れやかに動きますし、木々はそれぞれにそれらしい花を開きます。「花開無声」は、花やぎながら特性を表現するその静かなたたずまいをとらえています。そこで人知れず世のため人のために静かに尽くすこと、例えば献血とか介護とかの活動に添えて用いられます。「花開無言」ともいいます。
 あとに「花開無声、落地有声」といささか世俗臭をまじえて製品を誇示する場合に用いたりしますが、「花開無声太匆匆、落花無言亦匆匆」(「花開花落両無言」から)が本筋で、開花も落花も無声無言であることに本来の味わいがあるといえるでしょう。春の訪れとともに花々が開いて五彩繽紛として人の心を昂らせ、落ちて凋零離散して人の情を傷める。そうして「春暖花開」のときは移ろっていきます。しかし「落花無言」については、唐代から司空図『二十四詩品「典雅」』の「落花無言、人淡如菊」が知られて、佳士たるものは花に淡泊であるべしとする鑑賞のほうに品格を見ています。 

 

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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