東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「口蜜腹剣」(こうみつふくけん)

 口先では甘く優しいことをいいながら腹の中では裏腹に相手を陥れる策を講じていることを「口蜜腹剣」(『資治通鑑・唐紀「唐玄宗天宝元年」』から)といいます。唐の玄宗のころの宰相であった李林甫は、宋代の司馬光によって編まれた『資治通鑑』で「口有蜜、腹有剣」と評されました。陰険な人物だというのです。こういう「心口如一」ではない表裏のある人物が政治の現場に現れる時代があるようです。
「心口不一」であっても「口剣腹蜜」であればまだしもですが。母が魯迅と知り合いであったという画家・詩人の木心先生(孫璞)が魯迅を評した「口剣腹蜜」に触発された女性検察官たちがことば厳しく心優しく子どもや弱者を守る活動には同感できますが。
 台湾の蔡英文総統は、朝鮮半島での「文金合意」から「対等、尊重、政治的前提を設けず」といいだしたため、大陸側から「九二共識」(1992年の「一つの中国」合意)を退けた「対等対話」は両岸関係を緊張させる「口蜜腹剣」だという非難を受けています。
 

「赤身露体」(せきしんろたい)

 全身を露わにして一糸もまとわないことが「赤身露体」(『野叟曝言「五一回」』など)ですが、ご存じのように「儒教は裸を厭う」ので用例は多くありません。西欧では神が人をつくったときアダムとイブは「赤身露体」でしたが、へびがすすめた木の実を食べてそれを知り、いちじくの葉でお互いを隠します(『旧約聖書創生記「第三章七節」』)。
 全裸は恥ではなく自由と平等の証であることで、シドニー・オペラハウスの屋外で、秋三月の夕方の冷しい風にさらされて同性愛者5000人の裸体の集いが開かれたりします。わが国では、神に近づく無垢の信仰心を裸と白フンドシに託して、9000人の裸の男たちが「宝木」を奪い合う岡山西大寺の「はだか祭り」がおこなわれます。中国の人びとには奇観でしょう。韓国はもっと儒教的で、司馬遼太郎の『耽羅紀行』に済州島の海女(ヘニョ)の「赤身露体」の姿が描かれますが、乳房を隠した伝統水着を付けています。日本に旅行にきた中国女性は、温泉に裸で入ることに抵抗があるといいます。
 

「救死扶傷」(きゅうしふしょう)

 戦場や地震、大事故の現場で、瀕死の傷を負った人びとの救護に当たることを「救死扶傷」(司馬遷「報仁少卿書」など)といいます。よく知られているのは、革命時に戦場で生死をともにした医師「白求恩(ベチュ−ン)」を追悼する毛主席の「救死扶傷、実行革命的人道主義」でしょう。白求恩は中国の「十大国際友人」のトップに選ばれています。
 日ごろから天職としてその任に当たっている医療従事者の無私奉献の精神にもいわれます。生涯を僻地で患者の病痛の解除、介助に向きあう医師・看護師を支えている職業本能といえます。「国際看護師の日」が設けられてから100年(1912年。5月12日はナイチンゲールの誕生日)。どれほどの人びとが、その献身的な活動に支えられ救われてきたでしょうか。患者の個人的な献体、献血もそこに通じます。
 また「救困扶危」(『三国演義「第一回」』から)は、国家に報じ民を安んずることで、劉備、関羽、張飛の三人が兄弟とし、同心として立ち上がったときのスローガンです。
 

「立雪断臂」(りつせつだんぴ)

 雪と炭の対比が明解な「雪中送炭」に対してこの「紅雪」の伝承も色あざやかです。拳法のふるさと、禅宗の祖庭といわれる中岳嵩山の少林寺でのこと。降り積もる雪の中で師の菩提達磨から示された「天降紅雪」という問いに、神光(のち慧可)は、みずからの臂を断つという答えを引き出しました。「求法の志」の強く固い姿を答えとして示すことで、のち達磨から衣鉢を相伝されることになったという慧可の「立雪断臂」に関する伝承です。「慧可断臂」ともいいます。

雪中で断ったのが右臂だったのか左臂だったのか。雪舟の「慧可断臂図」は達磨に左腕を差し出していますし、後世の絵画は左臂を断つ姿を伝えますが、法のため師に献じたとすれば右臂だったかもしれません。『菩提達摩伝記』(呉洪激)では神光は跪いて左手で右の断臂をささげる姿を記し、少林寺の塑像は右腕を衣に隠して左手を見せているからです。

「十指連心」(じっしれんしん)

 働いても働いても楽にならなかったとき、石川啄木は「じっと手をみる」と詠っていますが、中医や気功術では「十指」は五臓六腑に通じているとされていて、中医は仔細に手指の変化をみます。指先の色の変化やしびれなどは疾病の前兆だからです。十本の指が心臓に連なっているということから、一指が痛めば全身が痛みを感じることを「十指連心の痛み」(湯顕祖『南柯記「情尽」』など)といいます。

肉親はもちろんのこと企業の同僚や組織・団体の同志の親密なつながりを強く意識して、それぞれが持つ能力を出し合って困難を乗り越えようと呼びかける場面で用いられます。固い握手でお互いの心を通じ合うのもそのうちでしょうし、「十指連心慈善音楽会」なども開かれますし、連続TVドラマのタイトルにもなっています。

「十指繊繊」(張裕「題宋州田大夫家楽丘家筝」など)は、女性の繊細な十指が筝の弦を爪弾いているようすをいいます。音も優美ですが指の動きも美しい。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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