東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「百折不撓」 (ひゃくせつふとう) 

 なにがなんでも頑強に「不不屈」をとおして譲らないというのは格好いいが成果はどうでしょう。複雑な要件に対処しつつ、ときには多少の挫折はあっても、本筋では意志堅固にして人品においては屈服しないこと。乱世の後漢末期に、蔡邕は「太尉橋玄碑」にみずからの立場を重ねて「百折不」と記しています。その娘蔡琰(文姫)ものちに生涯を翻弄されつづけた時代を曹操は「清平の奸賊、乱世の英雄」(許劭「月旦評」から)として生きています。毛沢東は「孫中山先生は広大な人民を領導し、不断の闘争を百折不撓のうちに進行した」(「中国人民大団結万歳」から)と讃えています。
 都市もまた「百折不」をめざします。重慶市は6月5日10時30分〜42分まで防空警報を発します。前事不忘、後事之師としての「重慶大轟炸(爆撃)記念日」です。日本軍は中華民国臨時首都だった重慶に1938年2月〜43年8月まで5年半爆撃を加えました。今の自衛隊の議論はアジアの平和の「百折不」とかかわっているのです。
 

「破釜沈舟」(はふちんしゅう) 

 自分よりも力のある相手に対して必死の覚悟で戦いに臨むこと、そして勝利したときに「破釜沈舟」(『史記「項羽本紀」』から)がいわれます。楚軍を率いた項羽にちなむもので、渡河した舟を沈めて退路を断ち、飯を炊く釜をこわして兵には三日分の食料を与えて「無一還心」(行ったきり)の覚悟で章邯の秦軍に決戦を挑んで勝利したことから(鉅鹿の戦)。『孫子「九地篇」』では「焚舟破釜」といいます。
 スポーツの試合でよく使われ、FIFAワールドカップで八強まで進んだことのあるコロンビアに勝利した日本チームについてもいわれます。中国の自動車業界では、第一汽車集団がトヨタ・マツダ・アウディとの合資製品に対して自主製品の収益がのびない状況を打開するのにいわれます。日本の電子産業では、ソニー、シャープ、東芝などの世界戦略の遅れが指摘されるなか、パナソニックの体質改善でのV字回復がおもに社員みずからの「破釜沈舟」によることを見落としてはいけないでしょう。
 

「知法犯法」(ちほうはんぽう)

「知法犯法」(法を知りて法を犯す。『儒林外史「四回」』など)というのは、文字づらからも明らかなように、法を理解していながら故意に法を犯してしまうこと。知らずに犯してしまうことに比べれば、罪一等を加えられてもしかたがありません。
 ルールを守ったフェアプレーが前提とされるスポーツの世界では反則は許されないのですが、ハイレベルのサッカー試合をみていると、巧みな「反則の犯しあい」が勝敗を左右する場面に出くわします。観客も「イエローカード」や「レッドカード」のプレーを了解しているのですから紳士的なスポーツといえるのかどうか。日大アメフト部の悪質タックル問題が大学のガバナンスにまで拡大していることが根の深さを示しています。
 神戸製鋼では品質の製品データを改ざんしていた「知法犯法」で経営トップが謝罪し家宅捜査が行われて、日本企業への信頼をゆるがす問題になっています。庶民もまたスピード違反や優先席無視やらで日ごろから「知法犯法」に慣らされているのです。
 

「急功近利」(きゅうこうきんり)

 成功を急いで利益に近づくのが「急功近利」(董仲舒『春秋繁露「巻九」』など)です。眼前の功利に動かされると失敗してしまいます。これは世の常のことですから歴代に事例を欠きませんし、よく使われる四字熟語です。「急功小利」とも。反義語は「深謀遠慮」。
「助長」の元になった「抜苗助長」(『孟子「公孫丑章句」』から 2014・2・19)は古代宋国の農夫が苗を早く成長させようと毎日引き伸ばして枯らしてしまったこと。ですから「助長」はいい意味では使いません。宋代の王安石の筆下にいた方仲永は五歳で詩を能くしましたが、ある人が親子をもてなしおカネを出して題詩を求めました。それがきっかけで郷里の人を訪ねては詩をつくった結果、十二歳のころには才を失い普通の人に。
 現代の中国でも子育てに「助長」がみられます。中国のTV漫画がアメリカや日本に追いつこうと功を急ぐあまり、「童心」を失っているとの指摘があります。また人工知能の導入には国家戦略が優先しますが、アメリカ企業の投資には「急功近利」がいわれます。

「高人一等」(こうじんいっとう)

 人より一段すぐれていることを「高人一等」(魯迅『阿Q正伝「三章」』など)といいます。この意味合いですでに『礼記「檀弓上」』に「加人一等」として表われますから、古今を通じて良し悪しで用いられてきたのでしょう。北京在住のバスケットボール選手の孫明明さんは身長が2・37mあって、これは文字通りコートでは「高人一等」です。
 有名なものに郭沫若が怪異小説『聊斎志異』を書き残した蒲松齢の故居のためしたためた「写鬼写妖高人一等 刺貪刺虐入骨三分」があります。貪虐は貪婪・暴虐な旧封建統治時代の貪官汚吏のこと。「入骨三分」は深く骨髄まで筆鋒が達していること。
 昨年暮れに安倍首相が韓国野党・自由韓国党の洪準杓代表の表敬訪問を受けたとき、陪席していた河野外相と同じ一段低いイスに座らせたと韓国メディアが騒いだのも、逆の立場からの「高人一等」の事例ということになります。モノの例ならトヨタ製ランドクルーザーの堅牢さやソニー製TVの明るさなら「高人一等」です。価格もですが。
 

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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