東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2018年07月11日(水)
  • 自然

「水落石出」(すいらくせきしゅつ)

 渇水期に水底の石が露出する情景が「水落石出」(欧陽修『酔翁亭記』など)で、もとは季節の山間に見られる自然景観として詠われてきました。近年では貯水ダムの水が引いて石どころかかつてあった村が現われる「水落」のようすが話題になったりします。
 見えないものが次第に現れることから、後になって比喩として真相があきらかになること(『紅楼夢「七三」』など)にいわれるようになります。
 FIFAワールドカップでいうと、地域予選を勝ち抜いた代表32チームが本大会に参加します。本大会ではグループリーグを経てベスト16が決勝トーナメントをおこないますが、そこで2勝したフランス・ベルギー・クロアチア・イングランドの四強あたりが「誇らかな石出」といったところでしょうか。製品の品質への信頼を誇ってきた日本企業では、なぜか神戸を露出させています。神戸製鋼は品質データ改ざんで、品質を厳選したはずの神戸牛に但馬牛が紛れていたりと「憂いある水落石出」の現場になっています。

  • 2018年04月25日(水)
  • 自然

「滄海横流」 (そうかいおうりゅう) 

「滄海」は大海原、「横流」は水が四方に揺れ動きあふれること。「滄海横流」(『晋書「王尼伝」』など)は政情が混乱して社会が不安定に揺れ動くようすをいいます。「王尼伝」では滄海横流、処処不安と記して時局の悪化を例えています。明代に書かれた『三国演義では滄海横流英雄本色と記して、混乱ののちに曹操、劉備、孫権等の英雄を輩出したように滄海横流」のときこそ本物の英雄が現れるという意味で用いています。郭沫若も「紅江江」で同様の意味合いで詠っています。1945年の蒋介石・毛沢東による重慶談判はまさに滄海横流、英雄本色の場面だったといえるのでしょう。

 反義語は「歌舞昇平」(宋・曾鞏『元豊類藁「六」』など)で、宋代に民心の穏やかな太平の世を現出したことを伝えています。わが国の大戦後に、歌舞が世情を沸かせる「歌舞昇平」が達成された1980年代の歌謡への関心が、「滄海横流」へ傾く政情と交錯しているようです。すでに長淵剛の「とんぼ」は“政界横流”の世を予感しています。

 

 

  • 2018年04月18日(水)
  • 自然

「閉月羞花」(へいげつしゅうか) 

 今年も4月にテレビ各局に入社した美人アナが話題になっています。ミス日本やモデルや乃木坂46やAKB48や気象キャスターですでに人気の人も新人アナとして入社。局別女子アナカレンダー・人気ランキングまで用意されて。競争率1000倍とか。
 さて古今の美人を表現するにはこの「閉月羞花」(王実甫『西廂記「第一本第四折」』など)と「沈魚落雁」(『水滸伝「三二回」』など)が知られます。絶世の美人をみて、月は雲に隠れ、花は恥じいってしぼみ、魚は泳ぐのを止めて沈み、雁は飛ぶのを忘れて落ちてしまうというのです。中国の四大美人はご存じのように西施(春秋時代。芭蕉に「象潟や雨に西施がねぶの花」がある)、虞美人(秦末)、王昭君(前漢)、楊貴妃(唐)。貂蝉(後漢末)を加えて王昭君を除く場合もあるようです。腋臭だったとか、足が大きかったとか、片方の肩が釣り合わなかったとか、口さがない陰の声があるようです。みんな避けてしまったのですから、評価は男性文筆家の美文によるしかないのでしょう。
 

  • 2018年03月21日(水)
  • 自然

「五湖四海」(ごこしかい)

 日本ではふつうに使われているけれど中国では難しいとされる四字熟語20項を『人民網』が取り上げています。全国各地をいう「津津浦浦」は海に囲まれている日本でこその言い方で、中国では「五湖四海」(唐・呂岩「絶句」)といいます。五湖は一般的には洞庭湖、鄱陽湖、太湖、巣湖、洪沢湖で、四海は東海、南海、黄海、渤海を指します。『論語「顔渕」』には「四海之内、皆兄弟也」とあります。また「岡(傍)目八目」(当事者は迷、傍観者は清)や「一言居士」(仏教にちなむ)は中国では難しい事情がわかります。
「切磋琢磨」(『詩経「衞風・淇奥」』から)は衞の武公が生涯精進を怠らなかったことを骨・象(牙)・玉・石を加工する切磋琢磨に託したことから。いま青少年の教育や「工匠精神」が叫ばれており日中で同程度の用いられ方と推察されます。「魑魅魍魎」「臥薪嘗胆」「乾坤一擲」「切歯扼腕」などはわが国ではパソコンでも一発で出ますからよく用いられるうち。カナのない中国では書けない成語として忌避されてきたのでしょう。

 

  • 2018年03月14日(水)
  • 自然

「天府之国」(てんぷしこく)

 パンダを飼育する四川省の成都大熊猫(ジャイアントパンダ)繁育研究基地に植樹した2000株の桜も開花の季節を迎えます。成都と友好都市の甲府市が2002年の日中国交回復30周年の折りに贈呈したものです。天然の要害の地で肥沃で物産が豊かな地方を「天府之国」(『史記「留侯世家」』など)といい、中国全土に九か所ほどありました。そのうち黄河上流の関中(西安を中心とした渭水盆地)をいうようになり、時代がくだって南の長江上流の成都を中心とした四川省をいうようになりました。
 成都は三国時代に劉備が拠って蜀漢をたてて「天府之土」としたことで知られます。甲斐に拠って天下をうかがったのが武田信玄。軍旗に掲げたのが「風林火山」。その「動かざること山の如し」の甲斐の山々が冬の睡りから覚めて動くのが春。詩作でも越後の上杉謙信と競った信玄に「春山如笑」と題する漢詩があります。新時代へ躍動する詩の結句は「一笑靄然として美人の如し」と穏やかな美女の容姿に託しています。
 

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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