- 2019年03月13日(水)
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「千羊之皮」(せんようしひ)
「千羊之皮は一狐之腋に如かず」(『史記「商君列伝」』など)といわれます。厳冬の寒気を防ぐ羊毛の外着「千羊之皮」に勝る「一狐之腋」というのは、狐の腋の下の白毛皮でつくった「狐裘」(こきゅう)のこと。白く美しくやわらかで最高の暖衣とされていました。この珍貴な衣服は「一狐之腋」という四字熟語を残して絶えてしまったようです。
このことばが帝王から発せられると「千人の諾諾は一士の諤諤に如かず」の意味となり、諾々と従う千人の臣下は諤々と直言する一人の賢臣に及ばないという嘆きになります。その上でさらに「千金之裘は一狐之腋に非ず」と用いられて、国を治めるには優れた人物が数多く必要なのだという要望にもなるのです。諤々の論議も成果につながるからで、わが『太平記「一六」』には楠木正成が兵庫で出会った新田義貞にこぼした「衆愚の諤々たるは、一賢の唯々には如かず」とあり、これもまた機に臨んでの至言というべきでしょう。毛を刈られ丸裸にされた羊たちに配慮して「百羊之皮」もいわれます。