東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2012年11月28日(水)
  • 自然

「気呑山河」(きどんさんが)

 意気さかんにして山河をも呑むほどの勢いがあることを「気は山河を呑む」(金仁傑「蕭何月下追韓信」など)といいます。意気さかんな度合いはさまざまで限りがありません。
 大きいところでは雲夢(うんぼう、楚の大沢)を呑んでやろうという「気呑雲夢」となったり、はては牛斗(牽牛星と北斗星)を呑む「気呑牛斗」や宇宙まで呑んでしまう「気呑宇宙」となったりします。中国史上で稀有の意気さかんな人物として知られる楚の英傑、項羽は、「抜山蓋世」(力は山を抜き、気は世を蓋う)と伝えられています。
 平成不況が長引いている上に「消費税増税」では国民の気勢はあがりようがありません。景気も気のうちですから「気呑山河」の勢いがほしいところ。景気をよくするのは国民ひとりひとりの気力だとすれば、みなさんの「気吞・・」がなにを吞むかによります。力づよい・・を呑んでみずからの気勢をさかんにし、景気をよくしてください。

「一葉知秋」(いちようちしゅう)

  秋が深まるとこの四字熟語を思います。ひとひらの落葉をみて静かにすすむ秋の深まりを知ることを「一葉知秋」(魏慶之『詩人玉屑』など)といいます。有名なのは唐人の詩としての「一葉落ちて天下の秋を知る」で、微細な事象から大勢や結末を感知することに例えられます。片々重なって金黄色のじゅうたんになったイチョウの樹下のようすも「一葉知秋」で、こちらは風に舞い車に舞い、子どもたちが戯れる晩秋の明るい情景です。
 一葉には「一葉蔽目」があって、一枚で視界を蔽ってしまうことから、「一葉目を蔽いて、泰山を見ず」となり、局部や少時の現象に惑わされ全局や本質を見誤ることにいいます。
 樋口一葉(本名奈津)の「一葉」(別説あり)は、長江を「葦一葉」に乗ってわたった達磨が、「面壁九年」の修行で「おあし(足)」の用をなくしたいわれから。おかねに縁のなかった自分に重ねた一葉が、ひとひらの五千円札になった感想を知りたいところです。

「明眸皓歯」(めいぼうこうし)

 明るく澄んだひとみと白く美しい歯。むかしから美人をいうのに「明眸皓歯」は広く用いられてきました。明眸皓歯でも美人とは限らないという屁理屈はやめにして、そういう女性を想像してみてください。身の回りにそれに近い美人がいる人は幸せです。
 杜甫は「哀江頭」で、「明眸皓歯いまいずくにか在る」と、長安を追われて玄宗皇帝と蜀へ落ちのびる途中に死を賜わった楊貴妃の姿を追います。美しい女性のほほえみを「一笑百媚」と評しますが、これも楊貴妃にちなみます。白居易は「長恨歌」に、貴妃が「眸を回らして一笑すれば百媚生じ」て後宮三千の女たちは色あせてしまったと詠っています。
 中国の「四大美人」といえば西施、虞美人、貂蝉(ちょうせん)、楊貴妃で、貂蝉が実在した人物でないことから王昭君とすることもあるようです。唐代の楊貴妃以来、千年余ものあいだ次の美人が現れないのはどうしたことなのでしょう。
  • 2012年11月14日(水)
  • 自然

「楽天知命」(らくてんちめい)

 「天」は自然のすがたで、「楽天」は自然のすがたに素直にしたがうこと。「命」は生きる筋道で、「知命」は生きる筋道を知ること。自然のうちに見えてくる良き筋道に率直にしたがって生きることが「楽天知命」(『周易「系辞上」』など)です。
 後漢を興した光武帝劉秀(りゅうしゅう)は、晩年を「楽此不疲」(これを楽しんで疲れず)として過ごしました。はたから見るとたいへんな事業でも、当人が愛好してすることであれば疲れないということ。なすべき道を知った人の「楽天知命」のすがたです。よく磨きあげた鏡は何度使っても損なわれることがないというのが「明鏡不疲」(明鏡は疲れず)です。磨かれた叡知をもつ優れた師匠や先輩はどしどし使おうというところ。
 楽天的というのは、作為にとらわれずに自然のままに過ごすこと。とはいえプロ野球の試合ともなればそれだけでは勝てないようです。
  • 2012年11月14日(水)
  • 自然

「円水礼賛」(えんすいらいさん)

 みなさんは「円水」から何を思うでしょうか。木の葉の先からまあるくなって落ちてゆく小さな雨雫でしょうか。あるいは水面に見渡すかぎり重なって広がる水玉模様でしょうか。滝つぼや谷合いの池、それとも大きな火口湖。一転して画かれた水色の円。
 わたしの「円水」は水玉模様です。ひとつひとつの中心にだれかがいて、まわりにだれかれがいて、さまざまなテーマで語り合う文化の形。円水社のホ−ムページのデザインを担当したmograのメイさん、ゆひさんは、パソコンの方形の画面に水色の円を配してシンプルでやさしく柔らかく「円水」を構成しています。老子は「上善若水」(上善は水のごとし。『老子「八章」』から)といい、「水の善は万物を利して争わず」と説きます。水には争わずおだやかに地をうるおす高い理想が託されています。そこで「円水礼賛」ですが、辞書にはありません。じつは漢字四字で自分の世界をこしらえるのも愉しみのひとつなのです。
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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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