- 2012年12月26日(水)
- ひと・個人(ふるまい)
「声振林木」(せいしんりんぼく)
「声は林木を振るわす」(『列子「湯問」』など)というのは、歌声があたりに響きわたると同時に聴く者の心を振るわせるようすをいいます。暮歳の「声振林木」といえば、電飾並木の聖歌、「第九」の大合唱、大晦日のカウントダウン・ライブ、除夜の鐘の声。どれもが来る年に期待を寄せる人の心に響く音声です。
秦の声楽家であった薛譚(せつたん)は、師の秦青から技能を学び尽くしたと思い、辞し去ることを申し出たことがありました。そのとき秦青は、ことばでは止めずに街はずれまで送っていき、手拍子をうち心をこめて別れの歌を聴かせます。「声は林木を振るわせ」、響きは行く雲をとどめたといいます。類なき絶唱を聴いた薛譚はあやまちを知り、留まることを求め、そのあと終身、師のもとを去ることがなかったといいます。人の心を深く打つ歌の力を伝えることばです。
そう、由紀さおりさんのスキャットは、世界中の林木を振るわせています。