東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「声振林木」(せいしんりんぼく)

「声は林木を振るわす」(『列子「湯問」』など)というのは、歌声があたりに響きわたると同時に聴く者の心を振るわせるようすをいいます。暮歳の「声振林木」といえば、電飾並木の聖歌、「第九」の大合唱、大晦日のカウントダウン・ライブ、除夜の鐘の声。どれもが来る年に期待を寄せる人の心に響く音声です。

秦の声楽家であった薛譚(せつたん)は、師の秦青から技能を学び尽くしたと思い、辞し去ることを申し出たことがありました。そのとき秦青は、ことばでは止めずに街はずれまで送っていき、手拍子をうち心をこめて別れの歌を聴かせます。「声は林木を振るわせ」、響きは行く雲をとどめたといいます。類なき絶唱を聴いた薛譚はあやまちを知り、留まることを求め、そのあと終身、師のもとを去ることがなかったといいます。人の心を深く打つ歌の力を伝えることばです。

そう、由紀さおりさんのスキャットは、世界中の林木を振るわせています。

  • 2012年12月19日(水)
  • 自然

「一陽復始」(いちようふくし) 

四季のめぐりの中で、陰気が尽きる日が冬至(12月21日)で、それを過ぎると陽気がまた生じて春へとむかいます。「一陽復始」(李雨堂『万花楼楊包狄演義「巻三」』など)や「一陽来復」というのは、陰陽の二気が陰から陽へと返ることで、暗から明への転回をいいます。

この反対が「夏至」で、双方の中間に「春分」と「秋分」があって、その間を割って「立春・立夏・立秋・立冬」があって二至二分四立が八節。その間を3つに割って「二十四節季」としています。これは古代の黄河流域で成立したことから、わが国の季節感とずれたり実感のない呼び名も含まれています。そこで日本気象協会は、わが国にふさわしい「二十四節季」を提案するため「季節のことば」を募集(12月21日まで)しています。

また2012年12月21日はマヤ暦最後の日で、「人類滅亡」の予言の日とされてきましたが、「暦の循環における区切り」と科学的に解釈されて、無事に通過するようです。

「和顔悦色」(わがんえっしょく)

記憶や写真に残るいい表情の多くはこれ、「和顔悦色」(陶潜『庶人孝佳賛「江革」』など)です。悦はこころに生じたよろこび。喜悦、愉悦、満悦、法悦、悦欣(おおよろこび)など、悦びは全身で大小強弱をさまざまに表現できますし、顔色やことばではさらに微妙に仔細に発露することができます。人間の表現機能が豊かであることを心から悦びたいと思います。

そのなかでも顔をほころばせて悦びを表現する「和顔悦色」の持ち味は最たるものといえます。悦色の発露としての「眉開眼笑」(眉開き眼笑う)は、うれしくて気持が高ぶるようすにいいます。女性向きには「和容悦色」(『紅楼夢「六八」』など)というのも用意されていて、こちらはいっそう柔和に自然に喜びの気色を伝えるいいことばです。

仏教の無財七施に「和顔悦色施」(わげんえつじきせ)がありますが、施として意識された「和顔」はここではそっとご仏壇にお供えしておきましょう。

 

 

 

 

  • 2012年12月05日(水)
  • 動物

「龍馬精神」(りょうばせいしん)

 このたびの総選挙にあたって、「維新の会」は坂本龍馬(りょうま)の「船中八策」にちなんで政策をつくり、天駆ける龍馬がもつ奔騰、剛健といった属性にあやかって、大勝利に結びつけようとしています。幕末土佐の下級武士の子に、母親が夢に龍をみて名付けた思いは、志士となり時代の波に翻弄されて31歳で刺客に暗殺されるまで体内を熱く駆け廻っていたことでしょう。新しい時代を願う思いがいまの国民にあるかどうか。
 
典故とされる唐代の詩(李郢「上裴晋公」)には、老齢になった憂国の臣が「龍馬精神」なお健在、旺盛であったと詠われています。そのことから若年者よりむしろ壮年者が、国家安寧のために奮闘する姿が思われる頼もしいことばです。今年は辰年でしたから、中国では年初には航空会社や証券市場ばかりでなく公共機関からも、新年快楽、万事如意そして龍馬精神といった成長と発展を願う迎春の賀辞が目立ちました。
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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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