東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2013年01月30日(水)
  • 動物

「画龍点睛」(がりょうてんせい)

 金陵(いま南京)の安楽寺の障壁に四龍を画いたとき、張僧繇(ちょうそうよう・南朝梁の画家)は睛(ひとみ)を入れませんでした。「点睛即飛去」が理由です。人をたぶらかすな、睛を入れろと急かされて、墨を落とすことにします。二龍まで睛を点じたところで、二龍は雷電とともに壁を破って飛び去り、睛を点じなかった二龍だけが存在したと、唐の張彦遠は『歴代名画記』に記しています。

こんな話が伝わるのは、最後の一筆である点睛が画龍の生き死にかかわるからで、「画龍点睛」はしごとの正否にかかわる最後の一点を仕上げることにいい、「画龍点睛を欠く」は、その逆を意味します。最近は車やパソコンのモデルチェンジによって一部の変更で機能が格段によくなったところを「画龍点睛」といったりします。そのパソコンでは「てんせい」とうつと「点睛」と出ますから校正の労がなくなりましたが、今でも目と日の違いに気づかず、美しい字で「点晴」と書いて「画龍点睛」といわれたりします。

「天衣無縫」(てんいむほう)

 天女や仙女が着けている「天衣」には縫い目がないことを「天衣無縫」(牛嶠『霊怪録「郭翰」』など)といいます。たしかに飛天や仙女像をみると、身にまとっている衣装に縫い目(人為のあと)がありません。内に秘められた美(神性ある存在)の表出には人為(ファッション)を排したのびやかで自然な衣がふさわしいようです。本屋さんの雑誌コーナーで、「女性ファッション」誌のあまりの多さに出会うと、「お気に入り」に収めてあるこの成語を思うことがあります。

 そこから言行が自然で障りのないようす、詩文や書画が技巧の跡を感じさせずに造形されていること、事物のありように一点の破綻もないことなどにひろく用いられています。年初の北京で、ズービン・メータ指揮のイスラエル・フィル新年音楽会があり、演奏に合わせて書家の李斌権が龍蛇走る草書で毛沢東と李白の詩を揮毫しましたが、この芸術合作を「完美無欠、天衣無縫」と伝えています。

「疾風勁草」(しっぷうけいそう)

「勁草」はしなやかに勁(つよ)い草のこと。平時は知られることがないのですが、猛烈な嵐が吹き荒れたあとに、折れたり吹き飛ばされたりしなかった勁い草が知られるということ。思いもよらぬ困難な事情に遭遇したあとに、しっかりした立場を保って意志堅固に過ごしていた人が知られることにいわれます。

後漢王朝を建てた劉秀(光武帝)は、兵を率いて黄河を渡って河北に攻め入ったとき、故郷の頴川から従ってきた数十人の者がみな去ってしまったのに王覇ひとりが残っているのを知ります。そこで「子独り留まる。努力せよ、疾風は勁草を知らしめん」といって励ましました。劉秀はのち皇帝となり、王覇はのち北辺を平定して淮陵公に封じられています。「疾風勁草」(『後漢書「王覇伝」』から)の典故です。

勁草書房の名はここから。未曾有の嵐だった先の戦争のあと、「信念をもって良書の出版を」との願いをこめて、安倍能成学習院院長が命名したものです。

「百齢眉寿」(ひゃくれいびじゅ)

 今年は大正二年(一九一三)生まれの人が百歳に達します。大正生まれの人びとは、母が歌う優しい童謡・唱歌をたくさん聞いて育った優しい心根の長寿者です。大正二年には「早春譜」「海」「鯉のぼり」が、そのあと「朧月夜」「浜辺の歌」「宵待草」「背くらべ」「叱られて」「七つの子」「赤とんぼ」などが次々に発表されています。これらの童謡・唱歌も歌い継がれて百歳に。わが国は百寿期の人が五万人を超えて、史上に稀な長寿国を現出しようとしています。

「眉寿」は老齢になると白い長毛の眉(眉雪)が特徴となることから、長寿の証にいわれます。初唐の書家虞世南は「願うこと百齢眉寿」(「琵琶賦」より)と記して百歳を願いましたが、八〇歳を天寿として去りました。「人生七十古来希なり」(「曲江」より)と詠った杜甫は「古希」には遠く五九歳で亡くなっています。いまや稀でない「七十古希」に達したら、次は「百齢眉寿」が目標です。

  • 2013年01月02日(水)
  • 動物

「筆走龍蛇」(ひつそうりょうだ)

 おだやかに迎える年初の行事といえば、元旦の初詣、2日の書き初め。書は知識と技能の芸術ですから奥が深く、とくに草書の筆勢の洒脱で非凡なことを「筆走龍蛇」(李白「草書歌行」など)といいます。ことしの干支は癸巳(みずのと・み)。まずは龍蛇走るといった筆勢で、「筆走龍蛇」を書いてみてください。

「一龍一蛇」は顕れたり隠れたりすること。「蛇欲吞象」は蛇が象を呑みこもうと思うことで貪欲であること。「蛇行斗折」は蛇行して延びたり北斗七星のように曲折すること。蛇は形状の異様さや有毒であることで親和性にとぼしく、十二支の「巳」は、年賀状の賀辞や縁起図としての表現に工夫がいるところです。

「筆走」には金石に刻んできた中国の書と帖紙から始まった日本の書には美意識に違いがあるようです。両国の子どもの書を合わせ見ると、その特徴がわかります。

| 1/1PAGES |
webサイトはこちら

堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

S M T W T F S
  12345
6789101112
13141516171819
20212223242526
2728293031  
<< January 2013 >>

月別アーカイブ