東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2013年06月26日(水)
  • 自然

「旧雨新知」 (きゅううしんち)

 遠い日の雨と近ごろの雨とが「旧雨今雨」(杜甫「秋述」から)です。といって雨そのもののことではなく、かつては秋の雨の日といえば車馬絶えず友人がよく訪れてくれたのに、いま長安への旅の途次、貧しく病に臥している身を雨を冒して訪ねてくれる友人もないと、詩人杜甫は述懐しています。連綿と降りつづく雨、来ない友人を待つ杜甫の晩年の哀切さをかみしめるのも味のうちですが。

新しい知己を加えて、「旧雨新知」(張集馨「道咸宦海見聞録」など)ということになれば、新旧の友人が一堂に会するにぎわいの場となります。うっとうしい雨の日、待たずに出かけて歓談するのもまた人生の味のうち。人の出会いばかりでなく、大家枯淡の労作と新進気鋭の力作とが並ぶ書画展もまた「旧雨新知」の出会いの場。

わが国特有の「梅雨(つゆ)」。関東甲信越では「梅雨入り」が6月8日ころ、「梅雨明け」は7月21日ころ。稲の生育には恵みの雨の季節です。

「買空売空」(ばいくうばいくう)

 「コンクリートから人へ」の引き継ぎは「人からカネへ」であるかのように、安倍総理は億兆円の「金融緩和」や「財政出動」を繰り出して「デフレーション(萎縮)」脱却の「アベノミクス」を強行しています。都心の億ションが即日完売したり、高級車や宝石が売れたり、10年後には国民の「家計を潤す」と約束して放った「三本目の矢・成長戦略」の講演のさなかから東証株価が518円も下落したり。

「空を買い空を売る」(「大清宣宗成皇帝聖訓」など)というのは、実態としての現物の介在がないまま期待値の価格変動から差益を得るためにおこなう投機行為にいいますが、株式による「買空売空」には少なからぬ国民も一喜一憂しているようです。“前払い”の億兆円をかざす首相に「行動なくして成長なし」といわれて働くことを強いられるのも国民。「粒粒辛苦」して働く実業の人びとからすれば「それが人生か」ということになります。国を動かすのは、毎日を労苦して働いている国民の共感です。

「同舟共済」(どうしゅうきょうさい)

「呉人と越人は互いに憎みあっていても、同じ舟で済(わた)っていて風に遇えば左右の手のように助け合う」(『孫子「九地」』)から、同じ課題を持つ者同士として協力し合いましょうというのが「同舟共済」です。中国の要人が外国との交渉に当たってよく使います。李克強首相が5月最初のインド訪問の折りにも用いました。クリントン米国務長官が訪中した際にも米中協調の呼びかけにこの成語を引用しました。2011年に在日中国人のみなさんが選んだキーワードも「同舟共済」でした。

日本では同じ『孫子』を原典とした「呉越同舟」を用いています。呉人と越人という歴史的に知られた敵同士が同じ災難に遭遇して助け合う意味合いは鮮明ですが、現代の中国では見かけません。尖閣列島(釣魚島)領有権問題で、中国船の領海侵犯がつづく日中間では使いづらい成語です。助け合って互いに益を得る「同道相益」(欧陽修『朋党論』など)でいきたいものです。

「挙棋不定」 きょきふてい

 将棋の駒を手にして打とうして挙げたものの、その瞬間に迷いが生じて決めかねている。よく見かける「挙棋不定」(『左伝「襄公二五年」』など)の情景です。しかし挙げた駒は打たねばなりません。プロ棋士の場合は持ち時間が決められていますから、最後は「秒読み」によって急かされることになります。

盤上が戦場であり駒が戦力である将棋・象棋・チェスは、インド発祥の同じ戦場ゲームですが、「闘い方」は違います。何よりの違いは象棋・チェスの駒は次ぎ次ぎに盤上から消えますが、日本将棋の駒は相手方の持ち駒になって残ります。この戦場での「人道主義」は日本将棋の特徴です。といって「A級戦犯」を「英霊」として合祀した靖国神社に閣僚が参拝することは、チェスや象棋の盤上に取った駒を使うような「ルール違反」で、欧米や中国での常識に反する行為なのです。さて参院選では自民優勢ですが、「挙棋不定」の有権者が多くおり、国民の次の一手はわからないのです。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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