東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「美意延年」(びいえんねん)

 情意がのびやかであれば、みずからの人生を楽しみ、みんなの歓びも合わせることができ、寿命を延ばすことができるというのが「美意延年」(『荀子「致仕」』など)です。芸術の秋に、どこかで「美意延年」にふさわしい作品と出会えたでしょうか。四季折り折りの美しい風物との出会いも長寿の源に違いありません。

作家が短命で画家が長寿といわれるのも納得がいきます。小倉遊亀105歳、片岡球子103歳、奥村土牛101歳・・90歳まで生きた『広辞苑』産みの親新村出の追悼文集が「美意延年」として出ていますが、学者は長命のようです。

この成語は書道家に人気で、いろいろな人が書いていますし、落款でも見かけます。美酒もまたというので、江戸以来の白酒で知られる豊島屋の大吟醸酒に「美意延年」があります。のびやかな音楽もまた美意の源泉、ことしは中国合唱百年ということで「美意延年―記念中国合唱百年」(杭州市)も開かれました。

「半部論語」 (はんぶろんご) 

 わが国でも銀行の暴力団貸付、有名ホテルの食品偽称など、経済人の倫理性の低落が目立ちます。いま中国でも経済人の倫理性が問われていて、高級管理職の間で「半部論語」型の論語読みが盛んになっているといいます。

北宋草創期の宰相であった趙普は、『論語』しか読まない人物といわれ、政治リーダーとして学問の狭さを云々されていました。そのことを太宗趙匡義に聞かれたとき、「その半を以って太祖(趙匡胤)を輔けて天下を定め(定天下)、いまその半を以って陛下を輔けて太平を致さん(致天下)」と答えました(羅大経『鶴林玉露巻七』)。その後、「半部論語治天下」として広く用いられています。

近代日本でこの「半部論語」の読み方をしたのが実業家の渋沢栄一でした。実業に就くことを嘆く友人に、「半部で身を修め、半部で実業界の弊風を正す」(『論語と算盤』)と説明しています。経済人は、「半部論語」に学ぶときのようです。

 

「可歌可泣」(かかかきゅう)

 人の泣き方にもいろいろあって、「号」や「哭」は大声をあげるのに対し、「泣」は喜びも悲しみもともに極まって涙を流すことにいうようです。泣を歌によって開放するのが、「可歌可泣」(歌うべし泣くべし。趙執信『談龍録「二四」』など)です。だれもがそういう場面に出会うことが多いので、いまでもよく使われます。

美空ひばりは「悲しい酒」を歌うとき、きまって涙を流しました。涙のむこうに戦後の哀切な時代を思いおこして、共に涙した人も多かったのでしょう。「喜びにつけ悲しみにつけ、人は歌い泣く。そして手足を知らず鼓舞するものだ」と欧陽修はいいます。和歌や唐詩の多くは詠われたものですし、「人生白露」の憂愁を刹那に開放してみせる曹操の「対酒当歌」(酒に対せよ、歌に当たれ。短歌行)は圧巻です。

「可歌可泣」の極みは、他の命を救った殉身行為や戦場の悲壮な事跡は愛唱歌や軍歌として伝えられ、国民や時代を動かしたそれは「国歌」のなかに込められています。

「左右逢源」 (さゆうほうげん)

 同じ最終目標さえしっかりしていれば、意見や手法の違いから生じる左右の対立があっても、どんな激論をかわしても、ともに最終目標に達する成果が得られるというのが「左右逢源」(『孟子「離婁章句」』など)の考え方です。川の左岸をいっても右岸をいっても、いずれ同じ水源へ到達できるというのです。

安倍総理は、靖国神社の秋季例大祭に参拝せず、神前に「真榊」の奉納ですませました。「国のために戦い、命を落とした英霊に尊崇の念を示す」としながら、一方で「外交問題化している中で行く行かないをいうのは控える」という立場です。中韓両国はA級戦犯を合祀する靖国神社への閣僚参拝は、「歴史から学ばない」ルール違反として中止を求めています。この安倍総理の参拝態度について、中国側からは「左右逢源」がいわれます。同じ源に向かわないことは明解で、いずれ国内では保守派の信任を失い、隣国関係の修復にも利さないことになるという結果をみています。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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