東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2013年12月25日(水)
  • 鉱物

「掩耳盗鈴」 (えんじとうれい)

「漢語盤点2013」(中国版「流行語大賞」)には、字は国内が「房」(部屋)、国際に「争」、詞は国内が「正能量」(前向きエネルギー、積極的な思いやり)、国際に「曼徳拉(マンデラ)」が選ばれました。昨年の詞は「釣魚島」でした。

「釣魚島(尖閣諸島)」は「カイロ宣言」(1943年12月1日。ことし70年目)で返還されたとする中国の立場は固い。そこで日本政府(安倍政権)の手法を「掩耳盗鈴」(沈徳符『万暦野穫編二』など。耳を掩いて鈴を盗む)といって譲りません。

盗もうとした鈴(鐘)が音をたてたので、聞かれるのを恐れて自分の耳をふさいで実行したというのが原意。F15の緊急発進もそう。中国側から「掩耳盗鈴」と呼ばれるかぎり、このままでは首脳会談など開けるわけがありません。

悪いと知りながら自分を欺く。わが国の有名ホテルの食材偽装などもそれ。中国でも事例にこと欠かず、よく使われます。古くは盗鐘だったのが、いまは盗鈴に。

 

  • 2013年12月18日(水)
  • 自然

「陽春白雪」(ようしゅんはくせつ)

 北陸に大雪。ことしも本格的な冬のおとずれ。昨年の一二月一〇日には、山中伸弥教授の隣に文学賞の莫言氏と、雪のストックホルムのノーベル賞晩さん会会場には日中ふたりの名士が並びました。

 莫言氏は「陽春白雪」というこの美しい四字熟語がお好きなようです。恒例のストックホルム大学でのスピーチで、中国文学の現状を問われて、「陽春白雪と下里巴人」(楚辞「宋玉対楚王問」から)といって会場の笑声と掌声を誘っています。通訳には意味が分からず、自ら「高級な白酒を好む人もいれば普通の白酒を好む人もいる。それぞれに味わいがある」と受容の多様化を補足していました。

「陽春白雪」は高尚な楚の音曲の名で、一方の卑俗な音曲が「下里巴人」(巴蜀のひなびた里人)。「下里巴人」のほうは数千人が和して歌うのに「陽春白雪」は数十人。作品がどちらにも受け入れられている現状へのとまどいもみられます。

  • 2013年12月11日(水)
  • 植物

「松柏之茂」(しょうはくのも)

 中国の「柏」は日本のカシワではなく和名「コノテガシワ」(児の手柏)のことで常緑樹です。カシワは落葉するので一見すれば違いがわかりますが、なぜか先人は「柏」の字にカシワを当ててきました。

他の植物が葉を落として新年を待つのに、松と柏は寒中にも葉を緑に繁らせて長寿であることから、「松柏の茂」(『詩経「小雅・天保」』など)は衰微せずに不変であることに例えられます。中国の旅行先で「古老柏」に出会うと実感します。

中岳嵩山の嵩陽書院内には漢の武帝によって将軍に封じられた「将軍柏」がいまも傾きながら雄姿をみせていますし、山西省太原市の晋祠や高平市には三千年柏もあります。実は南京の老樹「六朝松」が柏であるなど、中国でも松と柏をわけずに用いてきた例をみかけます。わが国に「柏」の老樹は多くありませんが、東京・国分寺市の祥應寺で樹齢六〇〇年を超える大樹をみることができます。

「三更半夜」 (さんこうはんや)

 旧暦では日暮れから日の出までを五つの刻みにわけて、初更〜五更と呼んでいます。そうすると「三更」が真夜中であり「半夜」でもあることから「三更半夜」(『宋史「趙昌言伝」』)というのは、いわゆる午前さまです。

宋都の東京開封(「清明上河図」に画かれる)は、平和を謳歌して深夜まで夜市で賑わいました。いまにその伝統はつづいています。塩鉄税の徴収官であった陳象輿と財政官であった董儼らは、夕方から深更まで熱心に税談議をしていたといいます。そこで都の連中からは「陳三更、董半夜」といわれました。能吏に三更まで税徴収の談議などされたら、夜市を楽しめない者もあったことでしょう。

冬の夜の東京は明るい。とくに霞が関界隈は、官僚の残業で明るい一角です。かつては国土発展の予算配分で深更までしごとをしている明かりでしたが、いまや増税による予算づくり。その「三更半夜」の明かりとなると寒さがつのります。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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