東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2014年01月29日(水)
  • 自然

「歳寒三友」 (さいかんさんゆう)

NHKの連続ドラマ「梅ちゃん先生」で有名になったのが、松子、竹夫、梅子の三人きょうだいの名前。寒期に松と竹は枯れず梅は寒中に花を咲かせる、その「歳寒三友」(王質『雪山集「送鄭徳帰呉中」』など)の姿から、父の建造が付けた名前であると知らされて、得心するシーンがありました。雪中の梅を高潔の士に見立てた「雪中高士」は昨年の余寒のころに紹介しました。

人生の厳しい時期に頼れる友人、唐の白居易は「琴・詩・酒」を三友としています。その詩を読んだ菅原道真は、琴と酒は「交情浅し好去(さよなら)だ」といい、詩だけが「独り留まる真の死友」(読楽天「北窓三友」詩)と詠じて、生涯の友としています。主の道真を慕って京から太宰府へ飛んだ「飛梅」が、天満宮に残されていて、春先になって東風が吹くと白い花を咲かせています。

松竹梅は「歳寒三友」、桃李杏は「春風一家」、ことしの春節は1月31日です。

濫竽充数(らんうじゅうすう)

「竽」(竹製の管楽器)の合奏者の中にうまく吹けない者が混じっていることをいう「濫竽充数」(『韓非子「内儲説上」』から)は、さまざまな意味合いでよく使われます。無能なのにいい地位にいる、実力以上の待遇や声価をえている、全員のレベルを乱している・・手ぬき品やブランド品のなかのニセモノにもいわれます。

竽の合奏を聞くのを好んだ斉の宣王は、吹き手を集めて合奏させました。そこで南郭先生が三百人の吹き手を集めて演奏したところ、王は喜んで国費で楽員を抱えたといいます。問題は宣王が死んで湣王が立ち、個人の演奏を好んだことにあります。演奏者として実力のない南郭先生が去ったのはいうまでもありません。

楽団がいい演奏をするには、全体の調整を図る指揮者やコンサートマスターが必要です。後者は演奏の名手ですが、中心にいて必要な指示を出していた南郭先生は指揮者に近い役割をしていたという解釈もあっていいようです。

「哀哀父母」 (あいあいふぼ)

 生み養い育ててくれた亡き父母の恩を思う「哀哀父母」(哀哀たる父母、『詩経「小雅」』)は古くから伝え継がれてきた成語です。みずからがその労苦を知るころには父母はすでにいなかった。ところがいま史上まれな長寿時代になって、高齢期をすごす父母に、生きているうちに親の恩に報いることが可能になっています。

そこで「哀哀父母」をふまえて「愛愛父母」という成語が生まれる。生きているうちに孝行をしようという明快さが「愛愛」にあります。時代とともに新たな味わいを付加しながら「四字熟語」も生き延びていくようです。

年初の『日本経済新聞「NIKKEIプラス1」』(111日付)で、「今年の抱負、四字熟語で」という読者応募の企画の発表があって、選者のひとりとして「人間関係」編に寄せられた中から「傑作」として推薦しました。1位になり、わたしのコメントが付けられています。愛愛への展開もよく、世相をとらえてユニークです。

「堂堂正正」(どうどうせいせい)

「山珍海味」はいかにも中国ふうな表現の四字熟語です。盛大なようすに「堂堂正正」がよく使われます。日中の「四字熟語」には典故や経緯の違いから内容は同じで語順の異なるものがあるのに気づきます。左が中国で右が日本の用法。

山珍海味・山海珍味  雲消霧散・雲散霧消  灯紅酒緑・紅灯緑酒

賢妻良母・良妻賢母  粉身砕骨・粉骨砕身  異曲同工・同工異曲

不屈不撓・不撓不屈  堂堂正正・正々堂々  奪胎換骨・換骨奪胎

一部の文字が異なる「四字熟語」も挙げておきましょう。

安身立命・安心立命  異口同声・異口同音  異想天開・奇想天外

金科玉律・金科玉条  虎頭蛇尾・竜頭蛇尾  善男信女・善男善女

朝令夕改・朝令暮改  日新月異・日進月歩  燃眉之急・焦眉之急

中国には「一年一相」を止めた安倍政権を「虎頭蛇尾」と評する向きもあります。

 

「老馬識途」 (ろうばしきと)

 2014年・平成26年は甲午(きのえうま)。「馬」にかんする四字熟語には、すでに本稿にも「龍馬精神」「走馬看花」があり、「馬耳東風」「塞翁之馬」「伯楽相馬」「快馬加鞭」「害群之馬」など親しいものも数多くあります。

馬は路をよく覚えていて、帰りには主人が疲れたり泥酔したりして馬上で寝込んでしまっても間違えずにもどってきます。だから酒酔い運転の心配もない。「老馬識途」(『児女英雄伝「一三回」』ほか)といい、こんな史話が残されています。

春秋時代に、斉の桓公の軍が春に遠征をし冬に帰国する行軍で道に迷った時のこと。臣の管仲が「老馬の智は用いるべきなり」(老馬之智)と提案して老馬を放ち、その後に従って国に戻れたといいます。知識や経験の豊かな高齢者を大いに用いようということです。ちなみに60歳を迎える甲午生まれは、中畑清、松任谷由実、林真理子、清家篤、檀ふみ、志位和夫、安倍晋三、古舘伊知郎、片岡鶴太郎さんなど。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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