東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「事半功倍」 (じはんこうばい)

 事半なら功半が当たり前なのに、想定外の金融緩和で「功倍」の成果を得ている人がいます。事半功倍」(『孟子「公孫丑上」』など)です。見えない先人・後人から借りたり、他者から得たりするから可能で、得て知っておくべきところでしょう。

一方で必ず「事倍功半」(白居易「為人上宰相書」など)が生じて、こちらは力を尽くしても収益が半分。「ワーキング・プア」といった現象が起きています。そのぶんだれかがどこかで「事半功倍」であることを喜んでいることになります。

亜聖孟子がなんでこんな効率的な話をしたのでしょう。原典では古人の営為と今とを比較しての成果のことで、力半分で得ということではないようです。

得をすることばとしてよく使われます。朝やれば「事半功倍」というのは清々しい。化粧品の効能や塾の学習効果の宣伝はわかりやすい。釣魚島の奪回に、台湾と大陸(両岸)が手をむすんで船を出そうとなると何やらぶっそうな功倍です。

  • 2014年04月23日(水)
  • 植物

「狂花病葉」 (きょうかびょうよう)

 桜前線も北上して、満開の花の下での酒宴も同時に北上して、消費税増税のウサ晴らしに酒量もおおいに度を越してつい痛飲となります。「狂花病葉」(皇甫松「酔郷日月」など)といっても空を見上げて見えるものではありません。宴たけなわに酒呑みが示す際立った二様の酔いざまなのですから。

「狂花」のほうは、酔いにつれて大声を発して悪態を並べて騒ぐ者。一方の「病葉」のほうは、酔うほどに暗鬱になり静かになりついには寝入ってしまう者。ほどほどのところならよいのですが、ふたりして酔ってそれぞれに「狂花」と「病葉」に極まってしまうと、周りの手に負えません。

桜花爛漫の宴席に興を添えるつもりで、「酒令」(罰酒)の趣向をこらして煽りたてた末に、「狂花」なり「病葉」なりを次々に招いてしまっては、仕切る者(令官)としては、みなの「狂花病葉」の度合いに通じていなかったことになります。

「三顧茅廬」 (さんこぼうろ)

 新年度を迎えて、わが国の企業では「入社式」をおこない、社長が新入社員に、誇りと覚悟をもって社業に当たるよう要望を述べるのが通例です。事業を達成するために人材を求める真情の厚いことを「三顧茅(草)廬」といいます。

三国時代に、劉備が遠路を三度たずねて臥龍諸葛亮を得た故事からですが、いま経済発展のさなかにある中国の企業が、人材を確保するかまえとして用いています。求められる側も、それに応えて能力を高めて対応することになります。
 
人材を求める故事としては、口にしていた食物を吐いて応対した「周公吐哺」や䔥何の「月下に韓信を追う」などがありますが、やはり劉備なきあと孔明がしたためた「出師表」に、「臣を草廬の中に三顧し、臣に諮るに当世の事を以ってす」という三顧の真情が、求められる側の胸を打つのでしょう。佳話に納得していたら、故地襄陽の「三顧茅廬」像の孔明の顔にマジックでいたずらをした事件が報道されました。

「十全十美」(じゅうぜんじゅうび)

 この上なくすべてよし、「十全十美」(『警世通言「巻二一」』など)は、まさにこの上なく心地のよい四字熟語です。「十全」は古くから病が癒えて良くなる「十治十癒」の意味でつかわれてきましたが、「十全十美」という完全無欠の意味となって、かえって実例が出づらくなりました。毛沢東がマルクス・レーニン主義は「十全十美」といっていますが、そのレベルとなるとそう多くはありません。

はじめから及ばない「十全十美」を避けて、一つ欠ける「十全九美」が生き生きとして使われています。北京オリンピックのころに封切られた映画「十全九美」は3000万枚ものチケットが売れたといいますし、北京の最高級マンションのウリことばになっています。緑の多い環境のなかで、交通が便利で医院やゴルフ場が近くて、150平米以上の広さをもち、内部設計も品質もよく・・。そこで価格もいいでしょうが、買い手にとって九美なのはこの点なのでしょう。

「両敗倶傷」(りょうはいぐしょう)

 ともに正義を掲げて争ったものの、双方が傷ついてともに敗者となる「両敗倶傷」(汪応辰『文定集・一五』など)の事例は数知れません。さわやかな勝利はスポーツならではのことで、ロシアの「ソチ・冬季オリンピック」でも勝者となることの感動シーンが見られました。その同じソチで6月に開催予定であったG8が、ウクライナ・クリミヤ共和国のロシアへの強行編入によって中止され、欧米側の経済制裁が加わって「両敗倶傷」の実例となろうとしています。強行したことで支持率が70%を越えたといいますからプーチン大統領は勝利者といえるのでしょう。

魚釣島国有化や首相の靖国神社参拝で悪化しつづける日中間の対立が軍事衝突にでもなれば「両敗倶傷」といっていたのは米国でした。いま米国に対して対露経済制裁は「両敗倶傷」というのが中国側の論調です。そんなおおげさな話を例に持ち出すまでもなく、夫婦喧嘩というのも「両敗倶傷」で、さわやかな勝利者はないようです。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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