東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「斤斤計較」(きんきんけいかく〈こう〉) 

 かつて「斤斤」は名王の明察が細やかなようすにいいました(『詩経「周頌」』など)が、のちになって小利や小事に細かくかかわることを「斤斤計較」(魯迅『彷徨「弟兄」』など)というようになって、庶民もがさまざまな場面でよく用います。

お金に細かいことでは、まずしい村民なら三毛五毛をどうするかのつましい表現になりますし、大金持ちならドケチになります。心配りでは、男性が「斤斤計較」でないことが女性に好まれます。糖尿病の人なら飲食の細部にこだわることに。アメリカが中国に「斤斤計較」で細かい要求を出すのは衰落の証になります。

わが国では、「斤」は印刷用紙の厚さや競馬の負担重量として斤量が残っていますし、食パンの1斤(340g)も親しい。中国では1斤は10両で、日常的に用いられていますが、はかりには電子はかり、卓上はかり、天秤はかりとあって、どれもがやや少なぎみの「欠斤短両」が、世界計量日(5月20日)に話題になります。

  • 2014年08月20日(水)
  • 自然

「夏雨雨人」 (かううじん)

 ほどよい「夏雨」は大地に潤いをもたらす天恵ですが、ことしは各地に豪雨の被害をもたらしました。本来は「春風風人、夏雨雨人」(劉向『説苑「貴徳」』から)と合わせて使われて、春風は人に温かさをつたえ、夏雨は人に潤いをもたらすということから、「春風夏雨」ともいいます。丁寧な教えを受けたり援助されて心から感謝したいときに用いられます。

斉の宰相管仲は「そうありたいのだが、できないことだ」といっていますから、軽くは使えないようですが、夏休暇を利用して農村に支援にいく学生の運動をそういうようですから、休みを利用して東北の被災地にはいり、こつこつと復旧事業の手伝いをしている学生の活動は「夏雨雨人」といっていいでしょう。

8月夏雨といえば、広島、長崎の「黒い雨」が思い浮かびます。直後の雨による放射能被曝は福島へも継続している問題です。

「目迷五色」(もくめいごしき)

 色や香は五感を刺激し脳を活性化しますと有名化粧品の宣伝にありましたが、先人は逆に「目は五色に迷う」(沈徳符『万暦野獲編「国師閲文偶誤」』など)といいます。老子は「五色は人の目を盲ならしむ」、荘子も「五色は目を乱す」といいます。

人為的に目立つ色に迷わされていると、色を失っていく夕暮れの風景が目にやさしく、モノクロ写真や映画の情感に深い味があるのに気づきます。小津安二郎の映画『東京物語』もいいですし、アラーキー(荒木経惟)が見撮った愛猫チロ(22歳)の写真は、けっして失われないもののあることを伝えていました。

古来、伝統の五色は青・赤(朱)・白・黒・黄で、これがいわゆる正色です。正色の朱に対して間色の紅や紫が際立つことを「紅紫は朱を乱す」といいます。たしかに朱の衣よりも紫の袈裟や紅裙(紅いもすそ)のほうが目立ちます。しかし正統というものはワンポイント目立たないところにあることを伝えています。 

「一以貫之」(いちいかんし)

 一貫した態度でひとつの道を歩むことをいいます。「吾道一以貫之」といったのは孔子です。弟子の曾参がそれを聞きました。あとで門人たちが「先生の一を以って之を貫くとは」と問うたのに対して、曾参は「忠恕のみ」と答えています(『論語「里仁」』より)。「忠」は心に素直であること、「恕」は思いやりです。

現代中国での孔子の復権とともに、このことばも復活しています。李克強首相が内外記者との会見の席で、改革を説明するに当たって「古人説(いう)」として用いてインパクトがありましたが、わが国では古くから知られて、政治家はいうに及ばず、すぐれた業績を残した経済人やスポーツ選手などが座右の銘としています。

やや頑なに独断専行でわが意を通す成語に「一意孤行」(『史記「酷吏列伝」』など)があって、最近はこちらのほうが目立ちます。ウクライナ問題でのプーチン大統領や軍国化に進む安倍首相の言動にも、もちろん用いられています。

| 1/1PAGES |
webサイトはこちら

堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      
<< August 2014 >>

月別アーカイブ