東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「愛莫能助」(あいばくのうじょ)

 東京駅コンコースで人だかりに出合いました。天皇ご夫妻が新幹線を降りて構内を通って皇居への車寄せに向かうわずかな区間でしたが、国民に近く親しく会釈されながら寄りそうお二人の姿には「相思相愛」がふさわしい四字熟語です。

愛は溢れるほどあっても、力が足りないとか条件がきびしくて助けることができないことが「愛莫能助」(『聊齋志異「鍾生」』など)で、『詩経「大雅」』では「愛莫助之」といっています。

ご成婚のあと「テニスコートの愛」などともてはやされた美智子妃が、平民であるゆえの皇室内での孤立について、皇太子は「愛莫能助」であったようです。

「千年樹」が手入れの甲斐もなく枯れてしまったとか、泳げないので溺れる子どもを見ながらどうしようもなかったとか、子どもの自立を見守る母親とか。見るに忍びない情景もありますが、こういう事例はいつの世にも多いのでよく使われます。

「敬老慈幼」(けいろうじよう)

 心から老人を尊敬し、子どもを愛護することが「敬老慈幼」(『孟子「告子下」』など)で、老幼はともに賓客と同等の扱いを受けます。「敬上愛下」も同じです。

毎年の9月第3月曜日が祝日の「敬老の日」(今年は9月15日)、9月15日が「老人の日」で、今年は同日です。中国では旧暦「重陽」の9月9日(今年は10月2日)が「老年節」、「国際高齢者デー」は10月1日です。9月を「敬老月間」「老人月間」「高齢者保健福祉月間」としている自治体もみられます。

いくつから「お年寄り」? 新聞社の調査では一般的には70歳からがいちばん多いようです。国際基準には65歳以上があって、その人口比率が「高齢化率」。わが国は25・9%で世界最速・最高です。毎年、新聞各紙とも「何の祝日?」というほど関連記事が少なくて、昨年はホームラン記録をつくった「バレンティン・デー」でした。今年は山口淑子(李香蘭、94歳)さんの死を伝えています。

「以訛伝訛」(いかでんか)

 ここの「訛」は、なまりでなくあやまりです。あやまってものごとを伝えることが「以訛伝訛」(『紅楼夢「51回」』など)で、古今にその事例には事欠きません。むしろ真実をありのまま伝える「以真伝真」(伝真機はファックス)が機械的で味けないので、人命にかかわらなければ胸に収まりやすいほうでいいともいえます。人命に多大な影響を及ぼしかねなかった福島原発事故にかんする吉田昌郎所長と外部とのやりとりは、「以訛伝訛」が話題になりました。

中国とのかかわりで「以訛伝訛」といえば植物の「柏」で、これはすでに述べました。「小心」(気をつけて)も身近です。日本では「生サケ(サーモン・三文魚)を食べない」というのも中国では長くいわれてきました。寄生虫による重症の原因として江戸前のスシでサケを避けていたことはたしかです。いまはサーモンの登場で、イカと同じ並ネタになって「以訛伝訛」のひとつが消えたようです。


  • 2014年09月03日(水)
  • 動物

「虎落平川」(こらくへいせん)

 平川は山中ではなく平坦な土地のことで、「一馬平川」ならごくありふれた風景です。ところが平時なら山中深くにいるはずの虎が、人里近くに現れる「虎落平川」(『説岳全伝「四〇」』など)となると、山中での実権を失って流浪の旅に出た姿です。犬に囲まれて立ち往生ということになります。朝鮮での加藤清正の虎退治も、山深くの虎かこんな平川での虎との出合いかによって評価は変わることになります。

一方に「放虎山林」(『三国志「蜀書・劉巴伝」』から)があります将来は危害を及ぼすかもしれない人物と知りながら、放って山に帰すこと。三国時代には益州の劉璋による劉備の処遇についていわれます。わが国では池禅尼のはからいで、命ながらえて伊豆に流された源頼朝が、平家を滅ぼすなどがいい例でしょう。

英国サッカーの雄マンチェスター・Uが「虎落平川」の趣のなかで香川真司を放出しましたが、彼は古巣ドルトムントへ戻って輝きを戻すことになるでしょう。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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