東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「一塵不染」(いちじんふせん)

「一塵不染」(馮夢龍『喩世明言』など)は仏教で欲念を払う修行のことばから。官人として清廉であること、品格に汚点がなく高尚なこと。環境が清潔であることやものがきれいことなどにも広く用いられています。

「政冷経冷」とまでいわれながらも、中国からの観光客は回復しています。東京は浅草寺、天空樹(スカイツリー)、秋葉原、銀座。富士山は忍野八海、五合目ツアー。京都は清水寺、祇園。大阪は大阪城、心斎橋、道頓堀など。そして食はスシと日本ラーメン。伝統と現代をあわせ楽しんでいます。秋には紅葉が加わって7日2000元(3万円余)は安いです。観光客が一様に驚いたのは、公園やトイレなど公共施設が「一塵不染」なこと。その清掃員に中国人アルバイトがいることでした。

格差の広がった中国で、民衆の模範である公務員は勤倹節約、克己奉公につとめて「一塵不染」が求められていますが、生活での規律の緩みは深刻のようです。

  • 2014年10月22日(水)
  • 自然

「天涯海角」(てんがいかいかく)

 中国の「土中」には「土のなか」だけでなく「四方の土地の中央」の意味があります。周公旦が洛邑(いまの洛陽市)を「土中」として京師(都)に立て諸侯を四方に封じたことから地勢的・歴史的な中国の版図が意識されてきました。都が長安(西安)、南京、北京、東京(開封)と移っても、皇帝は常に「中原逐鹿」の勝者。ですから「天涯海角」(曾鞏『北帰三首「其一」』など)は版図の果ての地でした。

南方では海南島が「天涯海角」の地で、宋代に海南島に左遷された蘇軾は、戻るときに「天容海色」と詠じています。雲散って月明るい清澄な「天容」も「海色」も、ともに潔白であることの証しになっています。いま海南島に「天涯海角遊覧区」があって観光地になっています。突兀として立ち並ぶ巨石のうちに天涯と海角と呼ばれる巨石があって、仇敵だった家族の反対を押し切ったふたりの愛が化したと伝えられています。さて東方はどこが「天涯海角」なのでしょうか

「天下為公」(てんかいこう)

『礼記「礼運」』にあるこの成語は、歴代の政治家が目標としてきました。孫文がよく揮毫したことで知られ、雄渾な直筆が南京・中山陵正門に掲げられ、原筆を所蔵する台湾の故宮博物院にも掲げられています。「辛亥革命100年」を記念する行事が各地で行われ、封建制(一族の権力)を打破した民主革命に評価がありました。あとは優れた将相名賢が出て、「天下為公」の政治をどう展開するかです。「大道の行われるや、天下を公と為し、賢を選び能を与し・・故に外戸をして閉じず、是を大同と謂う」と。セキュリティのいらない社会ならわが国で実現していた記憶があります。

一方に「上下こもごも利をとれば国危し」(『孟子「梁恵王章句」』より)が知られます。みなが利をむさぼりとるとき、国は危うくなる。とくに上位のものが大きく奪うとき、国はいっそう危うくなる。麻生副総理の政策集団「為公会」は、公(格差を容認しない)「大同」より「利」によって社会を動かそうとしているようです。

「無価之宝」(むかじほう)

 金銭では測れない稀有珍貴なものを「無価之宝」(劉克荘『後村全集「宿山中十首」』など)といいます。婚約時に贈られた0.3カラット(30万円)のダイヤの指輪は、ご本人にとっては「無価之宝」でしょう。1905年に南アで採掘された3106.75カラットのダイヤ原石は、ご存じ英王室の王笏(530.2カラット)や王冠(317.4カラット)など9個にカットされています。最近同じ鉱山で採掘された232カラット原石が1000万ポンド(17.7億円)といいますから、ダイヤなら値が測れないことはないようです。

7月に東京の「特別展 台北故宮博物院 神品至宝」に特別展示された「翠玉白菜」(高さ19センチ)は、清・光緒帝に嫁いだ瑾妃が持参した翡翠の細密な彫刻で、白菜は純潔をバッタとキリギリスは多産を象徴しているといわれて、見て納得の「無価之宝」です。一方で、詩人は山中の「月色と泉声」を「無価之宝」と詠っています。

「文不加点」 (ぶんふかてん)

 もっとも優れた文章が一気呵成に記されていることが「文不加点」(祢衡『鸚鵡賦「序」』など)です。それは文思にも修改の要のないことを示しています。至宝とされている書の名品の筆づかいは、どれもがそういうきびしい姿をしています。

王羲之(「羲之頓首」ではじまる「喪乱帖」)や王献之のもの、唐に渡った空海(書状の「風信帖」)や伝橘逸成のもの。顔真卿が心を鎮めて一行にしたためた「嗚呼哀哉」(ああ哀しいかな。「祭姪文稿」)は、文字は人なり(文如其人)の極みを教えてくれます。「顔体」は職人を通じて明朝体に採り入れられているといいます。

印刷されても原稿の一気呵成ぶりはおよそ理解できます。三島由紀夫や丹羽文雄が有名で、一方に大江健三郎の原稿は一字一字ていねいに記して、途中での修正は後ろに添えたり張ったりして繕って、欄外に吹き出しをつくらないようですから「文不加行」。一気呵成とは異質の幅と含みのある文体をつくっています。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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