東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2014年11月26日(水)
  • 鉱物

「小家碧玉」(しょうかへきぎょく)

 碧玉は人名です。大家名門ではない普通の家の出の美貌の娘のことを「小家碧玉」(郭茂倩『楽府詩集「碧玉歌二」』など)といいます。「大家閨秀」(名門の娘)は、教育を受け、しつけを教えられ、しとやかで喜怒哀楽を表に出さず、おとなから称賛をうけ、仲間の評判もいい。一方の「小家碧玉」は、ことばづかいがかわいくて、性格は柔和で活発で、両目は輝いて喜びを露わにする。動作は楚々として男性に「護花」の気持ちを起こさせます。どちらも「時代の花」であることに違いはありません。
 例えとしては、アメリカ車やドイツ車が「大家閨秀」なのに対して、日本車が「小家碧玉」といわれます。実際にそういう宣伝をして売っています。ケイタイなら仔細な用途を巧みに埋め込んだものに。お寿司の盛り合わせや念を入れて醸造したお酒も。さらには丁寧に手入れされている庭のたたずまいもそのひとつ。最近はやりの内輪でコンパクトな結婚式にもいわれますが、やはり花束を抱えた「小家碧玉」が主役です。

「忍辱負重」(にんじょく(にく)ふじゅう)

 俳優の高倉健さんが11月10日に亡くなりました。中国では文革のあと最初の外国映画となった「君よ憤怒の河を渉れ」(中国名「追捕」)の主演者として知られ、主人公の検事が着たコートは半月で10万着も売れたといいます。その後、「幸福の黄色いハンカチ」(「幸福的黄手帕」)や「遥かなる山の呼び声」(「遠山的呼喚」)があり、2005年には中国の張芸謀監督による合作「単騎、千里を走る」(「千里走単騎」)が撮影されています。張監督は、その公開にあたって、高倉さんは眼ではなく心で泣く(心在哭泣)演技者だったと紹介しています。

離世に当たっての「往く道は精進にして、忍びて終わり悔いなし」は、数多く演じた「忍辱負重」(辱めを忍んで重責を担う。『三国志・呉書「陸遜伝」』など)を思わせます。「不器用ですから・・どうぞお幸せに」(コマーシャル)といって去っていく姿を残して。健さん、天堂でどうぞお幸せに(幸福開心)。享年83歳でした。

「優哉遊哉」(ゆうさいゆうさい)

「優哉遊哉」(『詩経「小雅」』など)は、何ものにも煩わされず、悠々自適であることをいいます。日々をおだやかに迎えて一年を過ごすことを「優遊卒歳」といいます。後漢を興した劉秀に、皇太子の荘が勤労の過ぎるのをみて「優遊自寧」を求めています。「優遊」はあくせく暮らす自らのありようを省みて、悠々であること、のんびりした生活を楽しむために、心に留めることばとしていいことばです。

さて日々しごとに追われている現代人は、どんなときにこのことばの意味合いを感じているのでしょう。「遊」に引かれてやはり旅行のようです。北欧にいってオーロラをみる。寒山寺へいって除夜の鐘をつく。トコトコ列車に乗って山間を走って放牧のようすを眺める。筏で川下りをする。キャンピングカーで家族で自在な旅をする。はては高層マンションの最上階に住んで下界を見下ろして暮らす。

なんともあわただしい「優哉遊哉」の情景です。

「日理万機」(にちりばんき)

 日ごと一万件の事務を処理することが「日理万機」(余継登『典故紀聞「三」』など)で、政務が繁忙である国家リーダーに対する敬意と慰労をこめた褒めことばです。近くは周恩来首相がその対象になっていました。反羲語は「無所事事」。

 繁忙といっても閑を偸んで映画やテレビ番組をみて息抜きはしているようです。毛沢東、習近平主席はアメリカ映画ですが、温家宝元首相は日本映画をみています。中国公開の最初の外国映画となった「追捕(君よ憤怒の河を渉れ)」(高倉健・中野好子主演)から「三丁目の夕日」や「入殮師(おくりびと)」までみています。戦後日本の大衆の暮らしや共有する死生観を映画から理解しています。

世界一の「日理万機」の人といえば米国オバマ大統領でしょうか。ゴルフと家族旅行と休暇での息抜きが、歴史上もっとも豪華で高価な大統領であるということで、国家リーダーの「日理万機」の違いとして指摘されています。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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