東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「尺幅千里」(しゃくふくせんり)

 扇に画いた山水画のように、わずか1尺の画幅のうちに千里の景象を画くことができること、外形は小さくとも大きな内容をもっていることを「尺幅千里」(何紹基「与汪菊士論詩」など)といいます。わずか20字の詩のうちに、前の10字で大意を尽くし、あとの10字に「尺幅千里」の勢いがあるというものです。

中国では春節(今年は2月19日)を前に「春聯」を書く風習があります。邪気を払って「吉祥如意」であるように、赤い紙に縁起のいい詩文を書いて門柱の左右や入り口の扉に貼るものです。印刷から伝統を守ろうと、天津市では書家が市民のために春聯を書く「辞旧迎新、尺幅千里」という活動をおこなっています。

日本ではクリスマスが終わって、12月27日(土)からの9連休にはいりましたが、中国では元旦は休みですが1月4日(日)は振り替え出勤です。春節には、大みそか(除夕)の2月18日(水)から24日までの7連休がお正月休みとなります。

「山珍海味」(さんちんかいみ)

 わが国では「山海珍味」がふつうですが、中国では「山珍海味」(『紅楼夢「三九」』など)といいます。「山珍」と「海味」が合わさった形で、重慶や成都の「山珍」がいわれ、「海味」は香港の「海味街」が知られます。

「山海の珍味」といわれて、なにを思いますか。山珍ならマツタケ、スッポンの縁側、シカのアキレス腱・・とか、海味ならアワビ、フカヒレ、サメの唇・・とか。

珍しい山の幸、海の幸とそのおいしそうな盛り合わせは料理の精華として珍重されます。身近なコンビニに並んだおにぎりも、山珍(南高梅・きのこ)や海味(こんぶ・明太子)を巧みに取り合わせた和食の芸を感じさせます。

年末恒例の「おせち料理」は、世界遺産の和食の「山珍海味」の見せ場です。老舗料亭の京料理はもちろん、中華風おせちや和洋折衷おせちなども加わって、40品から50品が三段重や五段重に盛りつけされています。見るだけで満腹です。

「手舞足踏」(しゅぶそくとう)

 両手で舞いながら足を踏みならし跳びはねる。歓喜の極まったようすを「手舞足踏」(『詩経「周南・関雎」』など)といいます。時には興奮のあまり狂態に近い姿を示すこともあります。『水滸伝「三九」』で、宋江が狂蕩の思いにかられて「手舞足踏」し、筆をとって「西江月」の詞を白壁に書きつける場面などはその極みでしょう。

身近な例では、よさこい連とか、スペイン舞踊とか、はたまたEXILEを思う人もいるでしょう。親しいのは桜花の下で催す酔余のはての舞い踊り。女子バレーボールで接戦の末に勝利した瞬間のコートの舞、サッカーでむずかしいゴールを決めた歓喜の瞬間は、さまざまな「手舞足踏」をつくり出しています。

心のうちの静かな表現にもなります。微妙なところでは、「リムパック」(環太平洋合同演習)に今年初めて中国海軍が参加して、船上でお互いの軍官が歓迎しあうようすにもそれが垣間見えました。 

「一本万利」(いっぽんまんり)

 わずかな元手で大きな利潤を得ることを「一本万利」(李海観『岐路灯「三四回」』など)といいます。控えめに「一本十利」もありますが、万利に勢いがあります。

「一本万利」が得られる事業として結婚式とお葬式の請負があげられます。一生に一度の機会ということで、結婚するふたりは会場、衣装、料理、引き出物などにムリをしますし、逝去の人への外聞を気にして喪主がムリをするからです。お金持ちを願うなら「一本万利招財進宝」と刻んだ古銅銭を懐中にするのもいいでしょう。

歴史上では、一本どころか全財産をかけて人質だった子楚を「奇貨」として買い取って、秦の相国になった呂不韋のような豪快な「奇貨可居」もあります。現代中国では、一本どころか「無本万利」で、職権と利権を用いて巨額(兆円レベル)の蓄財をした規律違反の罪で、周永康前政治局常務委員が11月に党籍剥奪、送検されましたが、中国社会での公職と私利つまり汚職の根は深いようです。

  • 2014年12月03日(水)
  • 自然

「五光十色」(ごこうじっしょく)

 南朝梁の江淹の「五光十色」(「麗色賦」から)は、初見の麗人の姿を、あたかも崖から彩雲が輝いて湧いて出たよう・・と描写したものですが、五と十の数字を合わせ用いることで、存在の鮮やかさ豊かさを巧みに伝えています。目を奪う情景です。

国際映画祭の開幕式に、レッドカーペットの上を色とりどりの衣装で次々に通過する女優たちは「五光十色」に輝いています。
 
山の木々の葉が明るい日差しを浴びてさまざまな色に染まった「秋山如粧」のようすは、目を奪う「五光十色」の風景というにふさわしい。都市水辺の夜景はいうまでもありません。上海の黄浦江両岸はその代表でしょうが、広西チワン族自治区の南寧(体操の内村航平選手が個人男子総合で5連覇をはたした第45回世界体操選手権の開催地)の南湖では「五光十色慶佳節」で祝ってくれました。
もちろんモノばかりでなく、心の輝きの表現にも用いられます。
 

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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