東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「一字一泪」(いちじいちれい)

 漢字はその成り立ちからいって、一字がそれぞれの意味をもつことから、文中のひとつの文字に感極まってなみだするという「一字一泪」(李贄『焚書「書答」』など)には実感があります。「一言一泪」なら日本語の詩文にもありうるでしょう。
 また文章が一字の増減も許さないほど達意で、一字に千金の値打ちがあることを誇示する「一字千金」もあります。秦の呂不韋は『呂氏春秋』を撰して都の咸陽の市門に掲げた時おおいに誇りとし、一字でも増減しうる者があれば千金を与えると豪語しました。「一字千鈞」のほうは重さ(「一言九鼎」は前出)ではなく、魂を揺するほどの詩品の高さをいいます。
 また「一字一珠」はすばらしい詩文や歌声の円潤なことにいい、「一字見心」は書き手の思いは一字に読みとることができることにいいます。一字が「千金」「千鈞」「一珠」「見心」「一泪」とくれば、やはり「一字」は「一泪」に極まります。

「交口称賛」(こうこうしょうさん)

 口をそろえてだれもがほめたたえることが「交口称賛」(姚雪垠『李自成』「第一卷二十章」』など)です。みなが口をそろえるだけなら、「異口同声」や「衆口一詞」などがよく用いられますが、称賛する明るい話題となると、昨今あまり多くはありません。昨年12月11日のノーベル物理学賞の授賞式が思い出されます。世代が異なる赤崎勇(85)さん、中村修二(60)さん、天野浩(54)さんの3人がそれぞれ異なった場で研究した成果である青色発光ダイオードでの同時受賞は、「交口称賛」の好例といえるでしょう。

北京のスモッグは現代の大都市の課題です。北京を避けて家族連れで訪れた秦皇島北戴河(かつて幹部の避暑地でいまはリゾート地に)の海岸で、子どもたちは清新で湿潤な空気を胸いっぱい吸って喜ぶそうです。秦皇島市の大気汚染対策を「交口称賛」する情景は、環境への市民の「衆口一詞」の願いの表現でもあるようです。

  • 2015年01月14日(水)
  • 自然

「春回大地」 しゅんかいだいち

 新年を迎えて人も企業も団体も思い新たに一年の活動を始めますが、春がめぐってきて大地が温まる「春回大地」(李昭玘『楽静居士集「道中書懐三首」』など)には、陽暦一月にはまだ実感がありません。ですから1月15日も小正月と呼ばれて「成人の日」の祝日に当てられていましたが、これもハッピーマンデーに移って、いまや何事もない日となっています。正月飾りをまとめて焼却日とする所はあるようですが。

少なくはなりましたが、15日を豊作を祈る祭事として、とんど焼き(どんと焼き)や左義長が各地に残されていて、関東では大磯(ことしは111日)が有名です。

陰暦では新年の初日が春節(月齢零、2月19日)で、それから迎える最初の満月に農家が明かりをともして豊作を祈る。それが元宵節(ことしは3月5日)で、陰暦での農作業はじめの大切な行事です。台湾ではランタン・フェスティバルが盛んで、「平渓天燈節」は満月の夜のランタン飛ばしが幻想的で人気になっています。

  • 2015年01月07日(水)
  • 動物

「羊続懸魚」(ようぞくけんぎょ)

 今年の干支は乙未(おつび・きのとひつじ)。羊にちなむ四字熟語としては「羊頭狗肉」「羊腸九曲」「亡羊補牢」「多岐亡羊」などが知られますが、ここでは「羊続懸魚」(『後漢書「羊続伝」』より)を取り上げておきます。

羊続というのは後漢時代の官吏の名です。彼が南陽の太守になったばかりのころ、属下の者が当地の特産ですといって白河でとれた鯉を献じてきました。羊続が断ったのにむりやり置いていったので、屋外の柱に懸けておきました。この人物がさらに大きな鯉を持ってやってきたとき、羊続は屋外の柱で干し魚になった鯉を見せて、持って帰るよういったというのです。この話が伝わって「懸魚太守」と呼ばれ、以降だれも礼品を持ってこなくなり、羊家の蔵の中はふとんと破れた衣類と少量の塩麦だけだったといいます。「羊続懸魚」は賄賂を受けない清廉な官吏のこと。反腐敗闘争のつづく中国では、未年を迎えてこの成語を思い出したくない官吏もいるのでしょう。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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