東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「得意門生」(とくいもんせい)

 師がみずからその才能を納得して認めた弟子を「得意門生」(『児女英雄伝「第二回」』など)といいます。多くの学術や芸能はそうして世代を越えて引き継がれていくことになります。よく引かれる例が孔子門下で、七二賢とも十哲ともいわれますが、「得意門生」となれば徳行の顔回(子淵)と政事の仲由(子路)です。

孔家から遠くない陋巷に住んで、つましく「一箪一瓢」で暮らした顔回は「聞一知十」といわれた俊才でした。いまに曲阜の孔廟には孔宅の井戸が残り、すぐに駆けつけられる距離にある顔廟には顔回が用いたという陋巷井が残されています。

2009年に孔子は2560年記念祭を、師と30歳違う顔回は生誕2530年を祝いました。顔回は病により早世し、子路は政治家として義に殉じています。どちらも師より先に離世しています。子路の末裔も73代の仲偉堅氏などが健在です。曲阜を訪ねた折に、人口60万余の市民のうち20%が孔姓だと聞いて驚きました。

「挙世無双」(きょせいむそう)

 世にふたつとないまれにして貴ぶべきものが「挙世無双」(魯迅『故事新編「鋳剣」』など)です。史跡では唐代の長安城もそうですが、その名のとおり「莫高窟」は挙世無双の仏教遺跡です。世界を相手にこれから盛時へとむかう現代中国がどれほどの優れた作品を生み出すかは想像もできませんが、その越えるべき作品の数々が日本に渡来して国宝として所蔵されていることは確かです。

「曜変天目茶碗」(静嘉堂文庫)、「湘卧游図」(東博)、「王羲之の喪乱帖(摸本)」(宮内庁)、「観音猿鶴図」(京都大徳寺)、「紅白芙蓉図」(東博)、「菩薩処胎経」(京都知恩院)など、いずれも日本の国宝であり「挙世無双」の神品です。

「挙世」の熟語のうちには「挙世皆濁」(「漁父辞」から)があります。国家の将来に絶望して世俗の塵埃を避けて去った楚の屈原が残したことばです。韓国の大学教授600人余が選んだ2012年の世相を示す「今年の漢字」でした。

  • 2015年03月11日(水)
  • 自然

「風花雪月」(ふうかせつげつ) 

 「雪月花(せつげつか)」あるいは「月雪花(つきゆきはな)」は日本人の美意識の底に息づく三つの自然風物で、大伴家持や清少納言いらい歴代の詩歌人が文采を競って表現してきた素材です。ノーベル文学賞の受賞記念講演で、川端康成が「美しい日本の私」と題して紹介して話題になりましたし、筝曲や歌謡曲のタイトルにもなりますし、宝塚歌劇団の組名でも親しいもの。

中国ではもうひとつ「風」が存在として意識されて、「風花雪月」(邵雍『伊川撃壌集「序」』など)が四季変化を伝える風物として詩文に織り込まれています。といってわが国の風流人が風雲、風刺、風情を知らないわけではありませんが。

円安で中国からのパック旅行客が増えていますが、厳選極上の優雅な旅もあって、名湯、名宿の名物料理に、春は桜、夏は祭、秋は楓(ここに風が)、冬は雪の季節絶景。そして名宿では和倉温泉の加賀屋雪月花館が総合日本一に選ばれています。

「胆大包天」(たんだいほうてん)

 キモが大きいことには際限がありません。「胆大包天」(欧陽予倩『荊軻「第四幕」』など)ともなれば何ごとも恐れず、大胆極まりないということで、いまは悪事など困ったことに使われます。白昼堂々と脱獄したり(米)、赤の広場のレーニン廟に酒をかけたり(露)、34年間無免許運転していたり(日)、派出所を狙って車を盗んだり(中)・・。
 魯迅は若い人の作品に「胆大心細」を求めていますから、新しいことをするに際しては「胆大心細」あるいは「胆大心雄」であってはじめて成就することは確かです。何かを恐れて「胆小如鼠」というのでは、社会も人生も変わらないどころか萎縮(デフレーション)していきます。

歴史上では「胆如斗大」が知られます。三国時代の蜀の武将姜維が死んで腹を開いたところ、胆が斗大(斗は10升)あったということから、万夫といえども恐れず闘うという武勇の人にいわれます。

| 1/1PAGES |
webサイトはこちら

堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
293031    
<< March 2015 >>

月別アーカイブ