東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「痛心疾首」(つうしんしつしゅ)

 これ以上ないというレベルでの痛恨の嘆きを「痛心疾首」(『左伝「成公十三年」』など)といいます。歴史上の転換期に罪を負うことになった為政者はこういう思いで対処してきたようです。いま中国で職権乱用や違法蓄財で裁かれる被告も、裁判で有罪判決を受けて、「痛心疾首」といって代表して罪を背負う嘆きを伝えています。法をまもる立場にある弁護士が飲酒運転(知法犯法)で事故をおこして拘束1か月、1000元の処罰を受けて「痛心疾首」とするあたりには実感があります。

日本が伝統としている相撲、抹茶、畳、下駄などを、すべて中国起源ではないかといって「痛心疾首」する向きもあるようです。また気がかりなところでは、軍事戦略専門サイトが、近代に失った「十大領土」について、ロシア、蒙古、インドなどとの国境周辺とともに琉球、釣魚島を取り上げて「痛心疾首」としていることで、人民共和国(王朝)300年間での「蚕食鯨呑」の行方は想像もつきません。

「奔走相告」(ほんそうそうこく)

 非常時や重大時などの緊迫した場面に、走りまわって知らせ合うのが「奔走相告」(韓愈『昌黎集「二四」』など)です。古くから任務として「告奔走」(『国語「魯語下」』)が知られます。嬉しいことの場合なら「喜笑顔開」しながらの「奔走相告」となります。裁判で無罪判決が出て、その報告をみんなで「欣喜若狂」して喜び合う姿などがいい例でしょう。中国では4月3日〜5日が「清明節」の3連休でした。日本のサクラの評判を聞いてツアー客がどっと増えて、上野公園は昨年より40%も多い人出となり、どこでも中国語の歓声が聞かれたといいます。

肉声が届く口コミの範囲での喜びは共有できますが、いまやツイッター時代ですから電波が走ります。宮崎駿『天空の城ラピュタ』のTV放送時にTPS(1秒ツイート数)が14万回になり話題になりました。グーグル検索数の「女性」は時に4億2500万件、「男性」は時に2億2000万件。そのトップページ記事はにわかに共有しかねます。

「摩肩接踵」(まけんせっしょう)

 並んだ肩と肩をすり合わせ、踵に踵を接するほどに人が多く絶えないようすを「摩肩接踵」(黄庭堅『豫章先生遺文「三」』など)といいます。東京・浅草寺の仲見世や大阪・造幣局の桜の通り抜け(ことしは4月9〜15日)。桜の花見は中国にもあって、武漢大学キャンパス内の500mほどの桜花大道が有名です。一人20元の入場料は大学にとって大きな収入源になっています。「摩肩接踵」は訪問客が多いこと、博物館の展示が人気なこと、優れた人材が多く集まることにも用いられます。

最近では中国が主導して設立した「アジアインフラ投資銀行」(AIIB・亜洲基礎設施投資銀行)の申請期限であった3月31日までに、48カ国が参加を表明したことに「摩肩接踵」がいわれました。日本はアメリカとともに創設メンバーには加わりませんでした。リスクはあるものの開発途上国が資金を借りやすくなることで発展が見込まれ、国際金融の秩序を変えると推測されています。

  • 2015年04月08日(水)
  • 自然

「半晴半陰」(はんせいはんいん)

 春になって桜が咲きだすころ、薄曇りの空模様から晴れるのかあるいは小雨になるのか定まらない天候を「半晴半陰」(劉禹錫「洛中早春」など)といいます。繊細な桜の花は烈しい風や冷たい雨は苦手ですが、このあいまいでぼんやりしていて、暖かく湿りのある天気が好きで、花の命を長らえるようです。江戸時代の「季寄せ」にも「半晴半陰これを花曇といふ、養花天はこれに同じ」とあります。

「半陰半晴」もあって、薄曇りから日差しが戻る気配。永井荷風はこの成語が好きだったようで、『断腸亭日乗』によく出てきます。戦中の昭和二十年「四月初八 日曜日。半陰半晴。隣人より食麺麭(食パン)を買ふ。一斤六圓」、戦後の昭和二十二年「五月十四日は半陰半晴。帰途八百屋にて覆盆子(いちご)を買ふ。一箱四十粒にて金四拾圓なり」とあります。また景気の動向が、ある業種が上向きで、ある業種が低迷している模様見のときにも用いられます。

「済済一堂」(せいせいいちどう)

 目標を共にする多くの人がひとところに集まったようすを「済済一堂」(帰荘『静観楼講義「序」』など)といいます。

 フレッシュマンの新入生や新入社員を迎えた学校や企業の式典は、春にふさわしい華やぎの「済済一堂」でいいものです。が、一方の秋の重陽の日(旧暦9月9日)には、地元の何十人ものお元気な「百齢眉寿」のお年寄りの集い「百歳宴」というのがあって、人生の深い味わいを感じさせます。北京の人民大会堂の三層の席を埋めつくした3000人に近い全人代代表が、報告を聞き会議する光景は、まさしく世界最大規模の「済済一堂」の情景です。全員賛成の表決の場面などは圧巻です。

「人才済々」もいいですが、さまざまな新製品の展示会もまた「済済一堂」の晴れの舞台。新車の展示会には、家庭に二台目の需要も加わって、大衆車から高級車まで多彩な車種の展開が活発な経済活動のシンボルとなっています。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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