東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「浮瓜沈李」(ふかちんり)

 瓜や李を冷水の中で冷やして食する「浮瓜沈李」(曹丕「与朝歌令呉質書」など)が、消夏遊楽の行事として伝えられています。魏の都、洛陽にいた曹丕は客人のもてなしのために「清泉に甘瓜を浮かべ、寒水に朱李を沈めて」と記していますし、宋の開封では孟元老の『東京夢華録』に巷の売り物として「雪檻に瓜を、冰盤に李を」と、いかにもすずしそうな風物を記しています。

 甘瓜はまくわうりの類です。いま主流のスイカ(西瓜)は名前からも知られるように、原産地のアフリカからエジプト、インド、シルクロードを経て中国へ入ったようです。大きくとも西瓜も浮かびます。桃はどんぶらこと浮沈するのでしょうか。

李と桃は同じ中国が原産地です。春先に咲く美しい花は「年年歳歳」でも取り上げましたが、夏の果実はこの「浮瓜沈李」が話題です。「投桃報李」(『詩経「大雅・抑」』から)があって、桃を贈られ李を贈って季節の心を通じていました。

「心服口服」(しんぷくこうふく)

「心服」は内心で納得し、「口服」は口頭で従うこと。したがって「心服口服」(『荘子「寓言篇」』から)となれば全幅の信頼であり、信服です。「口服」ばかりでなく、「心服して天下定まる」と荘子はいいますが、安保法案の衆議院での議論と採決をみていると、とても「天下定まる」ようには思えません。なかなか信服とはいかないことが多く、この成語はさまざまな場面で用いられることになります。

その点ではスポーツの世界は明解で、前日まで「口服」せずに「なでしこジャパン」のW杯連覇の夢を語っていたマスコミも、5−2という点差、身体能力、技術、戦術の差を見せつけられて、アメリカの強さには「心服口服」したうえに「甘拝下風」までせざるをえなかったようです。

といって、ドイツと日本を破ったアメリカのサポーターが、先の大戦の勝利と重ねて示す愛国主義には「心服口服」とはいかない思いを禁じえませんでしたが。

  • 2015年07月15日(水)
  • 植物

「出類抜萃」(しゅつるいばっすい)

類から出る、あるいは萃から抜けるというのが「出類抜萃」(『孟子「公孫丑章句」』など)で、「萃」には草が集まる(くさむら)という意がありますから「抜粋」と記すと実景への誤解を生じます。

書物の中から優れた部分を抜き出すことに「抜萃」はよく使われています。人物なら衆人から品格や才能が抜きん出ていることに。孟子は孔子がとくに秀れていることの表現としました。「三国志」では蜀の張松が魏の許都に出かけた折り、楊修に人物のことを問われて、「その類に出て、その萃を抜く者は記すにたえず、数え尽くす能わず」(『三国演義「六〇回」』から)と誇る場面があります。

ニコン(尼康)のカメラやソニー(索尼)のデジカメやトヨタ(豊田)車の「出類抜萃」の機能の紹介や宣伝とともに、村上春樹の短編集『女のいない男たち』没有女人的男人们)が「出類抜萃」ではないという批評に出くわしたりもします。


「美輪美奐」(びりんびかん)

「奐」はあきらか、あざやかなこと。「美輪美奐」(『礼記「檀弓下」』から)は古くは建築物が壮大で美しいことにいわれましたが、建物の配置や装飾さらに彫刻などの芸術品にもいわれて、時代の変化の中で意味を拡大しながら用いられてきた四字熟語の一つといえます。いまや衛星から送られてきた映像や、世界遺産の古跡や、数万匹のホタルの飛翔(武漢東湖)や、詩情をたたえて演じられるバレーにまでいわれ、名寄市立天文台が撮影した低緯度オーロラも「美輪美奐」と紹介されていました。

美輪にかかわることでは、たとえばフォルクスワーゲン傘下になりましたが、英ベントレーの高級車などなら中古車でも「美輪美奐」のうちですし、洛陽市恒例の「国際牡丹花節」では牡丹園内を30万隻という風車で飾る「風車展」が開かれて、七彩の花田を現出してこれも「美輪美奐」です。そういえば、われらが美輪明宏さんは、み仏からさずかったというお名前で「美輪美奐」の現代例を実現しています。

  • 2015年07月01日(水)
  • 自然

「高山流水」(こうざんりゅうすい)

 このおおらかな風物の四字熟語は、実景ではなく、とくに優れた古楽器演奏やかけがえのない友人をたたえる比として用いられています。先に記した「弦外之音」で、琴の名手だった伯牙が自分の曲想を深く理解してくれていた鐘子期が離世したと聞いたあと、琴を弾じなかったという故事「破琴絶弦」(『呂氏春秋「本味」』から)をみんながよく知っていて、「高山流水」(『列子「湯問」』から)は聞いて快いほめことばとして使われています。

筝(十三弦・有柱)と琴(七弦・無柱)との違いはそれとして、古琴十大名曲のひとつ「高山流水」が双方で演奏されています。琴筝の70%を制作している揚州市は、ことし4月「万花節」に合わせて歴史文化街区「古琴第一街」を開設しました。一方、古跡として「古琴台」(伯牙台)が残る武漢市では、「破琴」の物語「高山流水」の映画化を発表し、この8月にクランクインするといいます。




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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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