東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「小国寡民」(しょうこくかみん)

 新たな大国が前王朝を夷平した大地に現われるとき、民衆はその恩恵を受けたことでしょう。王朝が衰亡を迎えるとき、民衆はその影響を受けて災禍に苦しんだことでしょう。大国がもたらす禍福を離れて、おのおのがその食を甘(うま)しとし、その服を美(うま)しとし、その居を安んじ、その俗を楽しむ「小国寡民」(『老子「八〇章」』から)を意識して暮らす人生を、老子は理想としました。

ヒマラヤ山地のブータンは「国民総幸福量(GNHGross National Happiness)」を基本理念として掲げる「世外桃源」(シャングリラ)といわれる小国です。仏教国ですから老子の理想をそのまま重ねるわけにはいかないでしょうが、大国の民が失ってしまった素朴で満ち足りたうまし(甘・美)ものを伝えています。

桃源郷は世外のこととして、民衆にとっては世情が安定して将来に不安がなく、おのおのがその居に安んじ、その業を楽しむ「安居楽業」が願いです。

「平起平坐」(へいきへいざ)

 旧時代には地位の同じものが同時に起ち、同時に坐したことから、地位や権力などが等しいことを「平起平坐」(呉敬梓『儒林外史「三回」』など)といいます。

習近平主席と奥巴馬大統領の米中両首脳の「平起平坐」は、習主席の初訪米(2013年)の折りには赤いベンチに座って(平坐)話はしましたが、それは形だけ。2014年の北京APECの際には9時を延長して夜11時まで同座しましたが、別れは闇の中。そして今回の9月訪米のホワイトハウス内での私的ディナーで、親しく園内を肩を並べて散策したことで、ふたりの「平起平坐」が示されたといいます。

武器輸出の件では、経済活況の裏でインドや東南アジア諸国が輸入をふやしており、米、露、ドイツに次いで、英、仏と中国が「平起平坐」となり、日本は焦慮という情報もあります。政治向きの話だけでなく、サッカーのリオネル・メッシがFIFA3度優勝をもたらしたペレと「平起平坐」したというシーンもあります。

「物是人非」(ぶつぜじんぴ)

 ものごとや風物はもとのままなのに、関わった人はもとのままでないことを「物是人非」(曹丕「与呉質書」など)といいます。境遇が変わってしまったり、故人を懐かしむ場合もあります。同じ思いは、すでに「年年歳歳花相似たり、歳歳年年人同じからず」でみていますが、四字熟語としては、こちらが明解で、今でもよく用いられています。「物是人非、事事休す」としても使われ、この場合は元の詞が「語ろうとしてまず涙が流れてしまう」とつづくので、思いはいっそう深くなります。

中国東北の長春には中国残留孤児の養父母のための中日友好楼がありますが、戦後70年、はじめ29戸が住んでいましたが次々に亡くなり、いまは3人になって、「物是人非」もひっそり語られているようです。必ずしも悲しい例ばかりでなく、うれしい「物是人非」もあります。ヤクルト・スワローズが2001年以来14年ぶりにセ・リーグ優勝を決めましたが、真中選手が監督となり「物是人非」の成果でした。

「就地取材」(しゅうちしゅざい)

 外部の力に頼ることなく、必要とする素材や人材を現地で調達することを「就地取材」(李漁『笠翁偶集「三・手足」』など)といいます。最近よくいわれる地産地消はそれに当たるでしょう。全国の津々浦々(中国では五湖四海)どこででも可能であるところに意味合いがあります。ですからよく使われる四字熟語のひとつです。

途上国に進出した日本企業が、現地で最良の素材や人材を得てうまくしごとができているのは、本国で消費者の利益のために品質のよい製品(モノ)を提供することに努めてきた品格の優れた企業人(ヒト)が、現地で信頼をえているからに相違ありません。それこそ最良の輸出品です。新聞記者の場合には出張した現地(取材先)で意に適った伴侶を得ることにもいわれます。華道の師範が訪れた地の草花を素材にしてみごとな作品に仕立てるのがわかりやすい例といえます。スポーツの国際大会で、本番前に現地入りして練習試合をしたり情報を得ることも「就地取材」です。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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