東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「量体裁衣」(りょうたいさいい)

 体の大小長短をよくはかって衣装をこしらえるという意味から、実情にあわせて的確にことをおこなうことを「量体裁衣」(毛沢東「反対党八股」など)といいます。毛主席の好みのことばだったようで、情形をよく判断して行動する必要があることで「看菜吃飯、量体裁衣」を引いています。古くは「食」と「衣」のふたつが合わさって「量腹而食、度身而裁」(『墨子「魯問」』など)といわれて、王侯がみずから節制に努める意としていました。後には「裁衣」にあたっての「量体」の意で用いられ、測る対象に応じて「量体裁情」や「量体裁薬」としても使われまず。

身体障害者の方の体にあわせた補助器具づくりやファッションデザイナーの衣装づくりが実情を示しています。子どもたちの体形にあわせた通学用かばん(書包)も「量体裁衣」のひとつ。日本製ランドセルは丈夫で機能的ですが、画一的なことと高価なこともあって、中国ではもっと軽く柔らかい素材のものが好まれているようです。




「茶余飯後」(ちゃよはんご)

 空腹をいやしたあとのちょっとした穏やかで暇な時間が「茶余飯後」(梁啓超「世界最小之民主国」など)です。お酒がはいれば「茶余酒後」となります。これからの話題といえば「年終奨(年末ボーナス)」でしょうか。行政機関でも企業でも一年間の利益と業績を考慮して支給される一時金で、同工同酬が原則ですが、13月目の収入の手取りアップこそが働く者にとって経済成長の証なのですから。

話題は行政トップの汚職と摘発、VWなどドイツ車や新しいIT機器、TVの娯楽番組、スターのスキャンダル、富豪の裏話、サッカーのワールドカップなどスポーツももちろんです。軽い内容の談話や文章のタイトルでも見かけます。身近なレストランや釣り場情報といったことも話題になります。重慶にはこの名のレストランもあります。飯店での「茶余飯後」ではやや整いすぎたシ−ンですね。この時間帯をさまざまな話題で楽しめるのが、中産階級の証といえるのでしょう。

「無的放矢」(むてきほうし)

 明確なマトに向かって矢を放つ「有的放矢」でも的中するのはむずかしいのに、見定めがつかないままの「無的放矢」(梁啓超『中日交渉滙評』など)では目標を達することなどありえないという場面で用いられます。

経済動向の見定めのむずかしいことは、しっかりデータ分析をした「有的放矢」であっても、百人百様の推測があることや株価変動での大衆投資家の一喜一憂の姿からも知られます。中国経済の減速、株価の暴落があって、李克強首相の発言が注目されましたが、「有的放矢」としての判断は、微調整の局面であるということでした。

さて日本経済のほうですが、安倍首相が「新三本の矢」として、希望を生み出す強い経済(GDP600兆円)、夢を紡ぐ子育て支援(出生率1.8)、安心につながる社会保障(介護離職ゼロ)を放っても、デフレ脱却の成果がえられないのでは「無的放矢」どころか、「無的放言」といわれても仕方ありません。

「一波三折」(いっぱさんせつ)

「波乱に富む人生」というよりも、「一波三折の人生」というほうにメリハリがあります。というのも、「一波三折」(毎作一波、常三過折筆。王羲之「題衛夫人筆陣図」から)は、王羲之の書の筆鋒の転換と筆勢の変化を感じさせる表現だからです。王羲之の題字を得た衛夫人の字がメリハリを持つようになったことが想定されます。「一波三折」は書法上のことからさらに書かれた文章やできごとの経緯が起伏に富んでいる場合や意外な展開のある場合に用いられることとなりました。

最近でも、インドネシア高速鉄道の日本(新幹線方式)と中国との受注合戦に「一波三折」があって日本が敗れたこと、ロシアのプーチン大統領の訪日が「一波三折」の末に延期になったこと、中国の株式市場が「一波三折」のあと暴落する局面があってもなお上昇機運はつづくとする憶測など、「一帆風順」とはいかない世の中ですから、いまでもよくさまざまな場面で用いられています。

| 1/1PAGES |
webサイトはこちら

堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

S M T W T F S
1234567
891011121314
15161718192021
22232425262728
2930     
<< November 2015 >>

月別アーカイブ