東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2016年01月27日(水)
  • 鉱物

「掌上明珠」(しょうじょうめいじゅ)

 手中に収めて掌の上にある美しい明珠・珍珠すなわち「掌上明珠」(『元遺山詩集箋注「一二」』など)といえば、男性ならば最愛の女性のことを、父や母ならば寵愛する子女とくに女の子を指します。女の子が生まれたことをよろこんで「明珠入掌」(郭応祥「鷓鴣天」など)といいます。略した「掌中之珠(玉)」はよく使う親しいいい方です。求めて得た珍珠だったのに失ってしまうことの悲哀の例も多くあって、「掌中明珠去る」(辛棄疾「永遇楽」)や「掌中の珠砕ける」(庾信「傷心賦」)という表現も知られます。

掌中にできない明珠としては美しい夜のまちが例えられ、「東方明珠」といえば上海の呼称です。浦東地区に建てられたテレビ塔が「東方明珠電視塔」(四六八メートル)で、上海の観光スポットになっています。白居易の「大珠小珠玉盤に落つ」(「琵琶行」)から想を得て大小11個の明珠を連ねて設計されています。

  • 2016年01月20日(水)
  • 自然

「雪中送炭」(せっちゅうそうたん)

「雪中送炭」(雪中に炭を送る。徳行禅師『四字経「甲乙」』など)といえば、困っている人に救済の手を差し伸べること。雪の中を車に載せた炭が行く情景は色の対比も鮮やかで、すなおに人の気持ちを温かくしてくれます。骨炭と豆炭が子どもたちのこしらえる雪ダルマの目と鼻と口になった時代がありました。生活感のある頼りがいのある顔つきでした。いまも雪が降れば子どもたちは雪ダルマをつくるのでしょうが、炭や豆炭が手に入らなくなって目鼻立ちはどうなったのでしょう。

「雪中高士」(高啓「梅花詩」から)といえば、梅の木を君子に見たてたもの。雪中の梅はたたずまいよく寒に耐えていて、節を保持する高士と呼ぶにふさわしい。

「3・11大震災」直後のTVニュースで、混乱する事務室の壁に墨も鮮やかな「雪中送炭」の張り紙があったことを思い出します。「雪中送炭」と「雪中高士」とは、雪国が生んだ品格のある心強い四字熟語です。

「斗酒百篇」(としゅひゃっぺん)

 成人の日(1月第二月曜・11日)の成人式の二次会で、酒量に自信をもった新成人もいたことでしょう。文人と酒にかんする四字熟語となれば、この「斗酒百篇」(杜甫「飲中八仙歌」から)に勝るものはありません。

李白は酒を一斗飲んで詩を百篇つくったという杜甫の詩句「李白一斗詩百篇、長安市上酒家眠」からですが、市内の酒家で眠ったばかりか天子のお呼びにも応じずに「自称臣是酒中仙」というありさま。ですから玄宗の支えはあったものの宦官の高力士と楊貴妃にうとまれて長安を追われ、東都(洛陽)にきます。李白はここで科挙に受からず故郷で鬱々としていた杜甫と出会って意気投合、酒を飲み詩を詠じ、後に被(掛け布団)をともにする旅をしました。李杜の出会いは李白四四歳、杜甫三三歳のことでした。杜甫の「斗酒百篇」は実感からで、酒の詩三百では酒仙李白に勝りますが、呑みっぷりも詩作の量も李白には敵わなかったのでしょう。

  • 2016年01月06日(水)
  • 動物

「窮猿投林」(きゅうえんとうりん)

 平成28年・2016年の干支は丙申(かのえ・さる)で、賀状にも多様な表情の猿が新年のごあいさつに参加しています。ここでは逆に追い詰められて窮地におちいった猿は、木を択んで跳んでなんかいられない、林に逃げ込んでしまうという「窮猿投林」(『晋書「李充伝」』から)についての新たな理解に触れたいと思います。

王羲之と同時代人の李充が、記室参軍(軍の文書起草や記録表彰)では“家貧しい”ゆえに「窮猿投林」といって地方官(県令)を選んで出たことから、進退の処し方として用いられています。李充の母()は王羲之が若き日に書法を学んだことで知られる衞夫人です。中央でのしごとの不満が母子にあったのでしょう。李充はのち「文義冠世」の仲間とともに王羲之の蘭亭の宴に連なっています。

内閣府は女性管理職30%を掲げていますが、70%もの女性が管理職になりたくないといいます。このあたりの実情が新たな理解の助けになりました。

| 1/1PAGES |
webサイトはこちら

堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930
31      
<< January 2016 >>

月別アーカイブ