東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「立雪断臂」(りつせつだんぴ)

 雪と炭の対比が明解な「雪中送炭」に対してこの「紅雪」の伝承も色あざやかです。拳法のふるさと、禅宗の祖庭といわれる中岳嵩山の少林寺でのこと。降り積もる雪の中で師の菩提達磨から示された「天降紅雪」という問いに、神光(のち慧可)は、みずからの臂を断つという答えを引き出しました。「求法の志」の強く固い姿を答えとして示すことで、のち達磨から衣鉢を相伝されることになったという慧可の「立雪断臂」に関する伝承です。「慧可断臂」ともいいます。

雪中で断ったのが右臂だったのか左臂だったのか。雪舟の「慧可断臂図」は達磨に左腕を差し出していますし、後世の絵画は左臂を断つ姿を伝えますが、法のため師に献じたとすれば右臂だったかもしれません。『菩提達摩伝記』(呉洪激)では神光は跪いて左手で右の断臂をささげる姿を記し、少林寺の塑像は右腕を衣に隠して左手を見せているからです。

「温故知新」(おんこちしん)

「温故知新」(『論語「為政」』から)は「故きををたずね新しきを知る」という読み方でよく知られています。『論語』は孔子の死(前479年という)のあと、弟子たちがまとめたものですから、「子曰く・・」と記されていても、後人による仮の孔子の言であるとして習うことも「温故」のはじめです。「知新」は現在のありようを知ること。孔子は中原周遊の長い旅をして「知新」にもつとめています。

ですから一方で先人の知恵・古例に学びながら、一方で現実の動勢をしっかり把握する。この双方をきわめることによってはじめて全容を理解することができ、人の師(リーダー)ともなれる(以って師と為るべし)と説いています。

書斎にこもって文献を漁っていては本当の古いこともわからない、現実のみに執着していては正確に現実の姿をつかむことができない。「古い時代のことをたずねて今を知る手だてとする」と読むのは、書斎派の学者に都合のいい解釈なのです。

  • 2016年02月10日(水)
  • 自然

「吉星高照」(きっせいこうしょう)

「春節」(新月、ことしは2月8日)を祝うあいさつのなかに、「吉祥如意」とともに「吉星高照」(姚雪垠『李自成「三巻」』など)があります。まったく月の現われない夜、冴えかえった冬空に輝く三つの星を吉星(福禄寿)と呼んで、これから始まる一年の豊作と長寿(と子宝?)への願いを懸けた古人の思いには納得です。

冬空に輝く三つの星といってもオリオン座の三つ星や冬の大三角形の星ではないようです。全天で最も明るい「狼星」(シリウス)ははいるでしょう。「狼より地に近くに大星があって、これを南極老人星という。良く見えれば治安、見えないと兵乱が起きる」(『史記「天官書」』から)とされています。この日本から見えづらい全天で二番目に明るい「南極老人星」(カノープス)には健康な長寿を祈ったようです。

そんな古人の思いとは関わりなく、春節休暇(7日〜13日)を利用した中国からの観光客は東京都心で買い物(爆買い)を楽しんでいるようです。

「十指連心」(じっしれんしん)

 働いても働いても楽にならなかったとき、石川啄木は「じっと手をみる」と詠っていますが、中医や気功術では「十指」は五臓六腑に通じているとされていて、中医は仔細に手指の変化をみます。指先の色の変化やしびれなどは疾病の前兆だからです。十本の指が心臓に連なっているということから、一指が痛めば全身が痛みを感じることを「十指連心の痛み」(湯顕祖『南柯記「情尽」』など)といいます。

肉親はもちろんのこと企業の同僚や組織・団体の同志の親密なつながりを強く意識して、それぞれが持つ能力を出し合って困難を乗り越えようと呼びかける場面で用いられます。固い握手でお互いの心を通じ合うのもそのうちでしょうし、「十指連心慈善音楽会」なども開かれますし、連続TVドラマのタイトルにもなっています。

「十指繊繊」(張裕「題宋州田大夫家楽丘家筝」など)は、女性の繊細な十指が筝の弦を爪弾いているようすをいいます。音も優美ですが指の動きも美しい。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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