東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「走投無路」(そうとうむろ)

 なす術がなくなり行き詰まること、窮地に陥って出口がないことを「走投無路」(『水滸伝「五六回」』など)といいます。人生のさまざまな場面で出合いますからよく使われる成語です。魯迅は、当時は読書して科挙を受けるのが正路なのに、日本へいって洋務を学んで霊魂を鬼に売るような「走投無路」の人にならないでおくれと母親から泣いてたしなめられたと『吶喊「自序」』で述懐しています。
 いま八方ふさがりの「走投無路」にある首脳といえば、ロシアのプーチン大統領と金正恩首相でしょう。プーチン大統領はシリア国境での衝突やウクライナ問題、石油危機まで内外の難題にせめられていて、その中での安倍訪露は多いに歓迎されたのでした。しかし懸案の北方領土問題は新しい方途でといいながら「無路」のまま。一方の金正恩首相の「走投無路」は、いまさらいうまでもなく行き着くところは中国に救援を求める路しかないといわれます。
 

「歪打正着」(わいだせいちゃく)

 手法や手段が本来のものではなかったのに、幸いにも満足すべき結果が得られたときに「歪打正着」(『醒世姻縁伝「二」』など)といいます。結果オーライといったところ。野球でバントすべきところを強振したらホームランになったなどは経験があるでしょう。碁や将棋では「正打歪着」やら「歪打正着」がしきりです。競馬の万馬券は「歪打正着」そのものです。本田圭佑のアシストのボールなどは本人は「正打正着」でしょうが観客には「歪打正着」に見えます。そこが魅力なのでしょう。美人とはいえない年上の奥さまにそういうのは失礼ですが、ほんとです。
 史上に残る「歪打正着」では、秦の始皇帝が不老長寿の元として水銀を用いたこと。陵墓にも大量の水銀を使って池を構築したことで、水銀の防腐作用で遺体は腐乱を免れている可能性があるうえ、有毒だったことで盗掘も免れてきたというのです。始皇帝は「歪打正着」の水銀の池に浮いていまも「長生不老の夢」を見ているというのです。
 

「一文不名」(いちもんふめい)

 ここの「名」は占有すること。おカネを持っていないこと、一文無しであることを「一文不名」(楊沫『青春之歌「二部・二七章」』など)といいます。『史記「佞幸列伝」』から)には「不得名一銭」とあり、「一銭不名」ともいいます。紛れやすいことばに「一文不値」があります。こちらは値打ちがないということですから、低い地位のことや人を軽くみたりすることに用います。

 さて「一文不名」から「資産百万」へのほうでは、『ハリー・ポッター』シリーズを書いたJ・K・ローリング(英)をあげておきましょう。70か国以上に翻訳され、4億5000万冊以上といいますからすごい。逆に「千万富豪」から「一文不名」へでは19歳で起業、女性ジョブスといわれた医療会社「セラノス」のCEOエリザベス・ホームズ(米)でしょうか。注射で採血せず指先からの血液で検査する特許業務の禁止で会社は超1兆円の資産からホームレスに。小保方さんの手法を思わせます。

「先声奪人」(せんせいだつじん)

 まず先に力の籠った“声威”によって相手を圧倒すること、内容もさることながら、勢いで先んじることを「先声奪人」(姚雪垠『李自成「二巻二十章」』など)といいます。戦いの鬨の声はその最たるものでしょう。双方が声をあげつつ敵陣に殺到する姿は壮絶です。京劇には主役が舞台に登場する前に舞台裏から劇場を圧する素晴らしい美声の“聞かせ場”があって、それだけで劇場が湧くそうです。
 コンピューターはさまざまな「先声奪人」のシーンをつくりだしています。人間とコンピューターの対決は将棋やチェスでは終わっていて、人知の最後の砦だった囲碁対決でも、コンピュータ・ソフト「アルファ囲碁AlphaGo」が韓国の李世石九段を4勝1敗で破ったことが話題になりました。これは文字どおりの「奪人」です。人間と同じ誤った手は打つようですが、人類が思いおよばない手を打ってきたと人類代表の李九段は漏らしています。
 
  • 2016年06月01日(水)
  • 植物

「独木難支」(どくぼくなんし)

 個人的にはどんなにすぐれた能力をもつ人であっても、当面する時代の趨勢や難局に個人では対応しきれないことを「独木難支」(許仲琳『封神演義「九三回」』など)といいます。国はもちろんのこと企業や組織などでも、個人では局面をいかんともしがたい場面があって、とくに企業の場合は倒産の危機を「独木支え難し」といって経営者は退く理由とします。ですから能力を大きく超える事業への参画を求められて対応に苦慮するようなときには、「独木難支」といって控える場合に用いられることになります。大きな建物が崩れようとする時、一本の木では支えられないという意味合いで「一木難支」ともいいます。
「独樹一幟」は、他にまぎれずに自立している樹木のように一家一派をなしているようすにいうことばですし、「独具慧眼」となると他に求められない独特の見解をもつことの形容で、どちらも「独」にかんするカッコいい誉めことばです。
 
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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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