東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「多難興邦」(たなんこうほう)

 先の「温文爾雅」(201639)の稿で紹介した温家宝前首相の発言集成である『温文爾雅』の日本語版『温家宝の雅』が上梓されて、出版記念会が9月26日に東京でありました。とりあげられた103編の発言のうちでやはり2008年5月12日に四川省汶川で起こった大地震の次の日に被災地に入って、訪れた北川中学校で黒板に白墨で板書して、政府の対策を約束し子どもたちを激励した「多難興邦」(『左伝「昭公四年」』から)が鮮明な印象を残しています。黒板に書かれた「多難興邦」の文字は、消されずにそのまま大震災を記念するため残されたことでも。現場で難を乗り越えてこそ国は興ると訴える温首相の実践行動に感激して、多くの人が義捐金活動に参加しました。
 ところが5年後の2013年4月20日に起こった四川省雅安地震で、義捐金で立てた建物が損壊したり鉄筋不足が発覚して、政府側の対応が指摘されて、太夫の司馬侯が指導者晋平公に求めた本来の意味合いで改めて「多難興邦」がいわれました。

 

  • 2016年09月21日(水)
  • 植物

「錦上添花」(きんじょうてんか)

「錦」は絹糸を色染めして織った織物の総称で、美しく鮮やかなものを例えていいます。空には錦雲が浮かび、池には錦鯉が泳ぎ、さらに相撲取りの醜名(しこな)にもよく見かけます。花を添えた「桜錦」という名はことに美しい。プロテニスの錦織(にしこり)圭選手もまた華麗です。

「錦上に花を添える」(黄庭堅『豫章文集「了了庵頌」』など)は、美しい錦織の上にさらに美しい花たとえば牡丹などの刺繍を添えることをいいます。お祝いの宴で晴れやかに歌を歌ったり、美酒を献じたり、麗人が花束を捧げる、そんな美の上にさらに美を添える演出が「錦上添花」です。

「衣錦還郷」(錦を衣て郷へ還る。『梁書「劉慶遠伝」』など)となると、中央での栄達という錦で身を飾って故郷へ帰ること。古来から男子はこの錦を最良のものとし、芸術家ならみずからの作品を寄贈するなどして「錦上添花」が成立します。

「通商寛農」(つうしょうかんのう)

 中国のリーダーが優れた文人であろうとすることは、「経国大業」(201373)でみたとおりの長い伝統です。歴史的できごとを現代の問題として理解した上で、温家宝首相が演説や講演のときに古典からの故事成語を引用していたことを「温文爾雅」(201639)のところで述べました。
 もちろん習近平主席もそうですが、今回9月3日の「G20杭州サミット(峰会)」開会式の演説で、「知行合一」や「同舟共済」(2013・6・12)といった成語とまじえて、貿易を促進し農政にゆとりをもたせる意味で引用した「通商寛農(   が簡体字 」(『国語「晋語四」』から)を;通商    」と読みちがえてしまったことが話題になりました。複数の担当官が意見を接ぎ合わせた文体だったこととともに一時期、学問の場を離れた下放世代の知的弱点が指摘されています。次世代の国際派リーダーの登場(「虚位以待」2015・9・23)までにはまだ間があるようです。

  • 2016年09月07日(水)
  • 自然

「披星戴月」(ひせいたいげつ)

 星の光に身をさらし月を頭上に戴く「披星戴月」(『喩世明言「巻一八」』など)といえば、朝は暗いうちに出て夜遅くなって帰ること。昼夜分かたず外で辛苦して働く姿をいいました。農民なら日のあるうちは働くことでしたし、商人なら家郷を離れて「餐風宿水」で過ごすことでした。今やどちらか片方ならともかく「披星戴月」で辛苦して働く姿は見かけません。といってこのニュアンスの豊かな四字熟語はしっかり別の場面で使われています。
 長距離夜行列車やバスやキャンピングカーでの旅、仏像や彫刻など時代を越えて生きる野外の芸術品、世界文化遺産、老舗の商品や店がまえ。来年の超難関の大学受験をめざす学生、4年後の東京五輪を目標にトレーニングをはじめたスポーツ選手。中国少数民族納世族の女性が着ける羊皮製の伝統衣装「披星戴月」は肩に日月を担い、背に星々を負って、彼女たちの日夜の勤労ぶりを象徴しています。
 
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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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