東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「衆矢之的」(しゅうししてき)

 四方から集中攻撃のマトになることを「衆矢之的」(魯迅『朝花夕拾「琑記」』など)といいます。魯迅の引く例は、天津にできた漢学のほかに洋学や数学を教える中西学堂に対する旧守派からの攻撃でした。事情は異なるにせよ、森友学園騒動でのマスコミ攻撃はすさまじいもので、他に報道するできごとがないかのような過熱ぶりでした。

 googleでの検索数は「籠池」で1140万件、「トランプ大統領」が1180万件で、この似た数字をどう解釈したらいいのでしょう。(安倍晋三は2010万件、小池百合子は560万件です)。ここで指摘したいのは、その間に他のできごとが無視されてしまう片寄りについてです。民放ラジオの軒並みのプロ野球中継もただごとではありませんが。

 米軍の韓国へのサードTHAAD配備に対して中国の報復的反応がはじまり、その「衆矢之的」となっているのがロッテ(LOTTE、中国名は「楽天」)です。人気があった瀋陽店でも天津店でも客足が遠のいて、他の店舗とともに閉店に追い込まれています。

 

「赤身露体」(せきしんろたい)

 全身を露わにして一糸もまとわないことが「赤身露体」(『野叟曝言「五一回」』など)ですが、ご存じのように「儒教は裸を厭う」ので用例は多くありません。西欧では神が人をつくったときアダムとイブは「赤身露体」でしたが、へびがすすめた木の実を食べてそれを知り、いちじくの葉でお互いを隠します(『旧約聖書創生記「第三章七節」』)。
 全裸は恥ではなく自由と平等の証であることで、シドニー・オペラハウスの屋外で、秋三月の夕方の冷しい風にさらされて同性愛者5000人の裸体の集いが開かれたりします。わが国では、神に近づく無垢の信仰心を裸と白フンドシに託して、9000人の裸の男たちが「宝木」を奪い合う岡山西大寺の「はだか祭り」がおこなわれます。中国の人びとには奇観でしょう。韓国はもっと儒教的で、司馬遼太郎の『耽羅紀行』に済州島の海女(ヘニョ)の「赤身露体」の姿が描かれますが、乳房を隠した伝統水着を付けています。日本に旅行にきた中国女性は、温泉に裸で入ることに抵抗があるといいます。
 

「単刀赴会」(たんとうふかい)

「単刀」は一刀あるいは一人のこと。「単刀赴会」は単身で時には命がけで相手の陣営へ交渉に赴くこと。英傑が覇を競った三国時代にこの成語を生んだのは蜀の関羽です。『三国演義「六六回」』では「関」の紅旗をかかげた船で乗りこみ、腰刀を帯びた八、九人の大漢に護らせて呉の魯粛との交渉に臨んだ関羽を「単刀赴会」と記しています。
 アメリカへ乗り込んでトランプ大統領との会に臨んだ習近平主席もそうですが、全人代で国内の難題の討議を終えた3月15日、人民大会堂で待ち構える1000人近い内外のメディアに年1回の記者招待会で18問に応対した李克強総理の姿にもみることができます。日経新聞記者の中国語をほめて笑いを誘うなど余裕を見せていました。
 この一人ゆく「単刀赴会」や激痛に耐え「言笑自若」(2013・2・27)の関羽を思えば、少々のピンチにあわてることもないでしょう。一人でデータや資料をかかえて交渉に赴くとき支えてくれるにちがいありません。困難を克服して人生を愉しむ四字熟語です。
 

  • 2017年04月05日(水)
  • 自然

「露水夫妻」(ろすいふさい)

 夜につかの間むすばれて白昼には消えてしまう露のような男女の仲を「露水夫妻」(蘭陵笑笑生『金瓶梅詞話「十二回」』など)といいます。愛情のない一夜の性の意味につかわれては、自然のなかで露水のもつ清冽さが読み取れません。『詩経「鄭風・野有蔓草」』では、野の草のなかに露に濡れて美しい人がいる。清らかでたおやかに。邂逅して相遇子とともによろしからん(与子偕蔵)。この露水には自由で自然な愛情が託されています。『詩経「邶風・燕燕」』では、ふたたび会えない女性を、野に遠く見えなくなるまで送るシーンで眼から大粒の涙を落として離別の悲痛に耐える姿を「泣涕雨の如し」と伝えています。自然な愛情の発露に納得です。自然だけれども正式でない夫妻。故あってのそれは、時に反道徳という現実の圧力にさらされることになります。
 国家間のイギリスとEUのあいだが「露水夫妻」であったとする論調は、イギリスにはもはや帰り路はないとでもいいたいのでしょうか。

| 1/1PAGES |
webサイトはこちら

堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

S M T W T F S
      1
2345678
9101112131415
16171819202122
23242526272829
30      
<< April 2017 >>

月別アーカイブ