東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「比比皆是」(ひひかいぜ)

「老人の日」は9月15日・「敬老の日」は9月18日(第三火曜日)で、中国の「老人節」は重陽の日(旧暦9月9日・ことしは10月28日)、「国際高齢者デー」は10月1日です。総務省の発表では高齢者(65歳以上)が3514万人、27・7%に達し、90歳以上も200万人を超えました。高齢者を讃える「敬老尊賢」について、魯迅と対比される国民政府側の文学者梁実秋は『雅舎小品「敬老」』に、「敬老尊賢」は常に連用されるが、老は必ずしも皆賢ではないし、賢は必ずしも皆老ではない。老にして賢である人が尊敬に値すると指摘していますが、加齢は価値であり「比比皆是」でいいのです
「比比皆是」は『紅楼夢「二回」』」では「上は朝廷より下は草野に至るまで比比皆是」と二者の比較ですが、いまはどこにでも見られる「触目皆是」の意味で用いられています。昨年の暮れに翻訳刊行された村上春樹の『職業としての小説家(我的職業是小説家)』に「わたしは比比皆是の普通人」と記されていることに関心が持たれたようです。
 

「荘周夢蝶」(そうしゅうむちょう)

 
「むかし荘周は夢の中で胡蝶になった。栩栩然(くくぜん、のびのび)として舞う胡蝶である。心から愉しんで舞っていて周であることを忘れていた」。自由に飛翔し、高くホバリングする姿は自由そのものです。「周の夢に胡蝶たるか、胡蝶の夢に周たるかを知らず」。これが「荘周夢蝶」(「斉物論篇」)です。荘子はこれを物化といっています。
 みなさんは夢で空を飛んでもせいぜい木々の梢の上くらいまでで、身は軽くなく、落ちないように必死で羽を動かしているでしょう。蝶は自由のシンボルなのです。
 これまでみてきた荘子にちなむ「四字熟語」に生きものが多く扱われていたことにお気づきでしょう。「濠梁観魚」「螳臂当車」「白駒過隙」「朝三暮四」(サル)、「曳尾塗中」(カメ)、「木雁之間」「鵬程万里」「害群之馬」それに「白馬非馬」「庖丁解牛」「熊経鳥申」「蝸牛之争」「井底之蛙」「虚与委蛇」「涸轍之鮒」「沈魚落雁」「呑舟之魚」そして「荘周夢蝶」。生命の斉同は地上が人間だけの営みの場でないことをいっているのです。
 
  • 2017年09月13日(水)
  • 動物

「濠梁観魚」(ごうりょうかんぎょ)

 あるとき荘子は恵子(恵施)と濠水の橋の上から魚(ハヤ)を見ながらこんな議論をします。「魚がゆったりと泳いでいるが、あれは魚の楽しみだね」。すると恵子は「あなたは魚でないのだから魚の楽しみがわかるわけがない」と議論をしかけます。そこで荘子は「あなたはわたしではない。どうして知る知らないをいえるのかね」。恵子はいいます「わたしはあなたでない。だからあなたを知らない。あなたは魚でない。だから魚の楽しみを知らないのはいうまでもない」。荘子がいいます「話をもとにもどそう。あなたはわたしが魚の楽しみがわかると知ったうえで問いかけたではないか」

「濠梁観魚」あるいは「濠梁之弁」(秋水篇)として、二人の立場の違いを伝える話として記されています。恵施は名家(論理学派)を代表する人物で、「就事論事」の立場で事実をもとに理性的に思考をします。それに対して荘子は、自己の感知した情をもって他を理解し自己の哀楽を転移することができるとします。魚もまた楽しいのです。

「虚舟飄瓦」(きょしゅうひょうが)

「虚舟」(『荘子「山木篇」』)は人の乗っていない舟で、「飄瓦」(『荘子「達生篇」』)は風に飛ばされた瓦のこと。人がつくったものであっても人が乗っていない空舟が接触して航路をふさいだりしても舟を怒ったり罵ったりしてもしかたがないし、風で飛ばされて落ちてきた瓦でけがをしてもそれで瓦を恨んだりしてもしかたがありません。
 たしかに人為なのだけれども人為によらないなりゆきであることを、のちに合わせて「虚舟飄瓦」(宋・祖慶『拈八方珠玉集』や明・湯顕祖『牡丹亭還魂記』など)として用いています。世の中に目立とうとせず、人為を廃しておのれをむなしくして事に当たって世に認められることにいうようになります。その後はなんという理由もなく加害を受けた人や後追いする手がかりのない事物をいい、さらには実用価値がないものの意味で用いられるようになりました。こうなってしまうと、もはや荘子が託した人為にして人為にあらざるものの持つ意味合いとは遠く、本来持っていたニュアンスは消し去られてしまっています。
 

 

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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