東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「安歩当車」(あんぽとうしゃ) 

「安歩」はゆっくりと歩行すること、「当車」は車で行くのに相当するということ。古代の貴族は外出にあたって車を用いましたが、貧賎の者はそれができずに”従容として歩く”ことで負け惜しみとともにその楽しみを享受しました。「安歩当車」(『戦国策「斉策四」』など)は貧富にかかわりなく移動はゆっくり歩くことが最良であることを自得したことばです。「緩歩代車」ともいいます。車が変わっても「安歩当車」に変わりがありません。
 マイカーを自粛して公共交通機関を利用しようというのが日本の「ノーカーデー」です。フランスで始まって、いまやEUの支援プロジェクトとしてヨーロッパ各都市が参加するのが、9月22日の「カーフリーデー」(世界無車日)。大気汚染や交通渋滞でガソリン車への批判が高まるなかで、その日一日の移動を歩行・自転車・公共交通機関に限ってクルマ社会を見直そうというもの。EV(電気自動車)化対策も急ですが、部品3万個といわれる自動車産業への影響を考えると日本経済への影響は測り知れません。
 

  • 2017年12月20日(水)
  • 鉱物

「漱石枕流」(そうせきちんりゅう)

 夏目金之助が文筆名を漱石とするもととなった「漱石枕流」(『世説新語「排調」』・『晋書「孫楚伝」』から)をとりあげておきましょう。晋で才藻卓絶と称された孫子荊(孫楚)は年少のころに隠居したいと欲して、友人の王武之(王済)に高潔の士が山林に隠居する「枕石漱流」(曹操「秋胡行」など)というところを「漱石枕流」といってしまいます。王が、「流れを枕にできるのかね、石で漱(くちそそ)ぐことができるのかね」と問うと、孫は「枕流というのは耳を洗うため、漱石というのは歯を砥ぐためだよ」と応じます。世俗にまみれたことを聞いてくれた耳を洗ってやり、余計なことをいわないように歯を砥いで鍛えるのだというところなのでしょう。流俗に従わない意志を示すことばになりました。
 徂徠に傾倒し漢詩文に熱中した少年は、25歳のとき正岡子規の「七草集」の批評で当座の間にあわせといって漱石を用いています。のち文筆で立つ構えを示して。漱石は大正五(1916)年、50歳で「則天去私」を自作の四字熟語として残して去りました。
 

柔之勝剛(じゅうししょうごう) 

柔よく剛を制す」は日本の国技柔道の説明によく用いられます。この「柔能制剛」は兵法書『三略「上略」』からで、その基になっているのが「柔之勝剛」(『老子「七八章」』から)です。「天下に水より柔弱なるはなし」と、水のありようにその実質をみています。
 柔道創始者の嘉納治五郎は、大きく強い者に勝つため柔術をはじめたということで、老子とのつながりを言いません。門弟でのち『大漢和辞典』(大修館書店)の編者になる諸橋轍次(号止軒は『荘子「徳充符篇」』の「鑑於止水」から)が直接に「柔は剛に勝つという老子のことばがあり、後漢書に光武帝は柔道をもって之を行わんと欲すといっていますが」と聞いています。これに対して嘉納は「むかし柔(やわら)という術があり柔術ということばがあった。その柔術をもとにしたもので、術だけではない道だから柔道と名づけた」と答えています。古流柔術の伝書に老子の「柔」が散見されますが、嘉納師範の四字熟語はむしろ儒学的な「精力善用」「自他共栄」(灘高校校是にも)でした。
 

「浪子回頭」(ろうしかいとう)

 放蕩息子が悔い改めて立ち直ることを「浪子回頭」(欧陽山『三家巷「六七」』など)といいます。「狼子野心」の狼子ではなく浪子です。回頭は船首の向きを変えること。

『新約聖書「ルカによる福音書15」』 に有名な放蕩息子が悔い改めるたとえ話があって、「浪子回頭」の事例としてよく知られています。悔い改めた子どもを迎え入れる親の立場を説いています。近代の西欧文明が生んだ浪子(放蕩息子)の代表が独裁的共産主義国家(朝鮮民主主義人民共和国=金王朝)だとすれば、大群衆の前で“BY THE GOD”と宣誓して就任するアメリカ大統領が救済の手をさしのべることは理にかなったこと。トランプ大統領と金正恩委員長の出会いは、放蕩息子の改心の歴史的シーンを演出することができるでしょう。さらに深刻な事例はイスラム国の存在ですが

 少年院で日々子どもの矯正にあたる教官の方々のご苦労はそれとして、いまや放蕩息子でなくとも「改邪帰正」のできごとにひろく用いられています。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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