東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2018年04月25日(水)
  • 自然

「滄海横流」 (そうかいおうりゅう) 

「滄海」は大海原、「横流」は水が四方に揺れ動きあふれること。「滄海横流」(『晋書「王尼伝」』など)は政情が混乱して社会が不安定に揺れ動くようすをいいます。「王尼伝」では滄海横流、処処不安と記して時局の悪化を例えています。明代に書かれた『三国演義では滄海横流英雄本色と記して、混乱ののちに曹操、劉備、孫権等の英雄を輩出したように滄海横流」のときこそ本物の英雄が現れるという意味で用いています。郭沫若も「紅江江」で同様の意味合いで詠っています。1945年の蒋介石・毛沢東による重慶談判はまさに滄海横流、英雄本色の場面だったといえるのでしょう。

 反義語は「歌舞昇平」(宋・曾鞏『元豊類藁「六」』など)で、宋代に民心の穏やかな太平の世を現出したことを伝えています。わが国の大戦後に、歌舞が世情を沸かせる「歌舞昇平」が達成された1980年代の歌謡への関心が、「滄海横流」へ傾く政情と交錯しているようです。すでに長淵剛の「とんぼ」は“政界横流”の世を予感しています。

 

 

  • 2018年04月18日(水)
  • 自然

「閉月羞花」(へいげつしゅうか) 

 今年も4月にテレビ各局に入社した美人アナが話題になっています。ミス日本やモデルや乃木坂46やAKB48や気象キャスターですでに人気の人も新人アナとして入社。局別女子アナカレンダー・人気ランキングまで用意されて。競争率1000倍とか。
 さて古今の美人を表現するにはこの「閉月羞花」(王実甫『西廂記「第一本第四折」』など)と「沈魚落雁」(『水滸伝「三二回」』など)が知られます。絶世の美人をみて、月は雲に隠れ、花は恥じいってしぼみ、魚は泳ぐのを止めて沈み、雁は飛ぶのを忘れて落ちてしまうというのです。中国の四大美人はご存じのように西施(春秋時代。芭蕉に「象潟や雨に西施がねぶの花」がある)、虞美人(秦末)、王昭君(前漢)、楊貴妃(唐)。貂蝉(後漢末)を加えて王昭君を除く場合もあるようです。腋臭だったとか、足が大きかったとか、片方の肩が釣り合わなかったとか、口さがない陰の声があるようです。みんな避けてしまったのですから、評価は男性文筆家の美文によるしかないのでしょう。
 

「一衣帯水」 (いちいたいすい) 

「日中平和友好条約締結40周年」のささやかな記念として『日中友好文温の絆 四字熟語』を本稿をもとにしてまとめたい。そこになくてはならない一語がこの「一衣帯水」(『南史「陳後主紀」』から)です。一条の帯ほどの水流というので京都の鴨川ほどの帯を思い浮かべる人も多いのですが、実はこの川は対岸が霞んで見えない「長江」なのです。かつて隋の文帝楊堅が、全土統一の兵を率いて長江北岸に達したとき、「あに一衣帯水を限りて之(陳の民)を拯(すく)わざるべけんや」と臣下にいい渡河します。
 海を隔てた日本と中国との交流の場で双方でよく使われます行き来に困難は想定されるけれども展望をもって対処しようという覚悟の表現なのです。「日中両国は、一衣帯水の間にある隣国であり、長い伝統的友好の歴史を有する」(日中共同声明)のです。「いちい・たいすい」と切ると雨にでも濡れて水気を帯びた衣装を着ていることになってしまいますから、「いち・いたいすい」あるいは「いちいたい・すい」と読むこと

 
  • 2018年04月04日(水)
  • 動物

「噤若寒蝉」 (きんじゃくかんぜん) 

 蝉噪といわれるほどに夏秋を謳歌したセミも秋が深まり寒冷のときを迎えると黙して死に備えます。権力者におびえて真正面から反論して正論を述べることをせず、寒蝉のように口をつぐんで自己保身にもっぱらな官人を「噤若寒蝉」(『後漢書「杜密伝」』から)と呼びます。官界がそうなってしまったとき社会正義の風潮は衰えざるをえません。
 後漢時代の清官であった杜密は、宦官の子弟の違法行為を有罪としたことで故郷の頴川に移されます。同罪で故郷に帰っていた高官の劉勝が「閉門謝客」して世事を聞かず問わずにいることを知った杜密が、鳴かなくなった寒蝉と同じで官人としては社会的罪人であると責めたことから。身近にも実例の存在を感じますし、金正恩独裁政権の北朝鮮には常態としてあると想定されます。歴史上ではすべての官人が「噤若寒蝉」のなかでひとり李陵を擁護して宮刑を受けた司馬遷の例をあげておきましょう。
 政治向きでなく唐突ですが、歌麿の春画のやりとりにも「噤若寒蝉」は必要でしょう。
 

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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