東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「扇枕温席」 (せんちんおんせき) 

  炎熱の夏には枕辺を涼しくするために扇であおぎ、厳寒の冬には冷たい寝床を身をもって温めて、親に孝敬を尽くすことを「扇枕温席」(『東観漢記「黄香伝」』など)といいます。典故になった黄香は、早く母を亡くし父親を大事にして暮らします。後に魏郡の太守になった黄香は、水災にあった人々のために奉禄と家産を出して救済活動をしています。人々は「天下無双、江夏黄香」と彼を称賛しました。「二十四孝」のひとりとして知られ、また『三字経』のなかの「香九齢、能温席」も黄香を指します。
 30年以上つづいた一人っ子政策の結果、中国では子どもが小皇帝の存在となり「扇枕温席」は逆に親が子のためになすべきことに。この環境で育った子どもは自己中心になり、親不幸な事件を引き起こし、習近平政権による官僚腐敗の根を取り除く政策の困難が予想されています。そこで誕生祝、毎週の電話、再婚支持といった具体的行動を掲げた「新“24孝”行動標準」によって孝文化を伝承し創新しようとしていますが。
 

「破釜沈舟」(はふちんしゅう) 

 自分よりも力のある相手に対して必死の覚悟で戦いに臨むこと、そして勝利したときに「破釜沈舟」(『史記「項羽本紀」』から)がいわれます。楚軍を率いた項羽にちなむもので、渡河した舟を沈めて退路を断ち、飯を炊く釜をこわして兵には三日分の食料を与えて「無一還心」(行ったきり)の覚悟で章邯の秦軍に決戦を挑んで勝利したことから(鉅鹿の戦)。『孫子「九地篇」』では「焚舟破釜」といいます。
 スポーツの試合でよく使われ、FIFAワールドカップで八強まで進んだことのあるコロンビアに勝利した日本チームについてもいわれます。中国の自動車業界では、第一汽車集団がトヨタ・マツダ・アウディとの合資製品に対して自主製品の収益がのびない状況を打開するのにいわれます。日本の電子産業では、ソニー、シャープ、東芝などの世界戦略の遅れが指摘されるなか、パナソニックの体質改善でのV字回復がおもに社員みずからの「破釜沈舟」によることを見落としてはいけないでしょう。
 

  • 2018年06月13日(水)
  • 動物

「馬到成功」(ばとうせいこう)

 馬が駆け付けたらただちに勝利する「馬到成功」(鄭廷為『楚昭公「第一折」』など)は、時代を越えていまも力のある人が着手すればすみやかに成功するという意味で用いられています。中国の大学統一入学試験「高考」が6月7・8日に全国でおこなわれ975万人が受験しましたが、激励もエスカレート。河北省のある中学校の門前には受験生の父親が乗った8頭の馬が登場、「馬到成功」で地元の受験生を激励しました。
 古来、武将が駿馬にまたがり出陣する姿は猛々しい。名馬は東西に多く記録されますが、有名なのは項羽の愛馬だった騅、三国時代に呂布と関羽が戦場を駆ったという赤兎馬、アレクサンダー王の遠征を支えたブケバロス、アルプス越えのナポレオンのマレンゴ、宇治川の先陣争いを演じた池月と磨墨、川中島で上杉謙信が騎乗した放生月毛など。馬といえば「日本ダービー」(一着賞金2億円)。ことしは5番人気の「ワグネリアン」(福永祐一騎乗)が優勝。騎手の福永家にとっては悲願の優勝だったようです。
 

「知法犯法」(ちほうはんぽう)

「知法犯法」(法を知りて法を犯す。『儒林外史「四回」』など)というのは、文字づらからも明らかなように、法を理解していながら故意に法を犯してしまうこと。知らずに犯してしまうことに比べれば、罪一等を加えられてもしかたがありません。
 ルールを守ったフェアプレーが前提とされるスポーツの世界では反則は許されないのですが、ハイレベルのサッカー試合をみていると、巧みな「反則の犯しあい」が勝敗を左右する場面に出くわします。観客も「イエローカード」や「レッドカード」のプレーを了解しているのですから紳士的なスポーツといえるのかどうか。日大アメフト部の悪質タックル問題が大学のガバナンスにまで拡大していることが根の深さを示しています。
 神戸製鋼では品質の製品データを改ざんしていた「知法犯法」で経営トップが謝罪し家宅捜査が行われて、日本企業への信頼をゆるがす問題になっています。庶民もまたスピード違反や優先席無視やらで日ごろから「知法犯法」に慣らされているのです。
 

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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