東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2018年09月26日(水)
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「牝鶏無晨」(ひんけいむしん) 

 新しい朝は高らかに晨(あした)を告げるオンドリの声から始まり、ややあって朝方の鐘の音(晨鐘暮鼓)が響く。村の一日が穏やかに始まる風景です。「牝鶏無晨」は「牝鶏が晨を告げることはない」というもの。この周の武王のことばは、「牝鶏が晨を告げるときは、家が索(つ)きるときである」(牝鶏之晨、惟家之索。『尚書「周書牧誓」』)とつづきます。古人言える有りとあり、民間にいいならわされてきたようです。

 この「牧誓」は殷(商)の紂王を倒すための戦いに臨んだ武王の雄叫びとして発せられたもので、「牝鶏」というのは悪姫妲己(だつき)のことですし、家は殷(商)のこと。しかしその後ながく封建制での男子優先のしくみを支えることばになりました。いまや「ダイバーシティ」(多様性)が叫ばれる「牝鶏司晨」の時代。さすがに表だってこういえる男性(雄鶏)はいなくなりました。が、しごとのできない女性上司には陰の声が消えないようです。実力をつけての社会参加が求められているのです。

  • 2018年09月19日(水)
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「勝友如雲」(しょうゆうじょうん)

 良き友がひとところに集まっているようすを「勝友如雲」(王渤「滕王閣序」から)といいます。文字通りの「勝友如雲」といえば、先の総選挙大勝の自民党本部がそうでしたし、合格発表日の有名高校の教員室や大学の入学式や企業の入社式はそのもの。
 典拠となる唐の王渤の「滕王閣序」には、秋の旬休(十日に一日の休み)に滕王閣(江南の南昌にある名楼)に登った「勝友如雲、高朋満座」のようすが画かれています。高いレベルの仲間が同座していますから事情が異なります。秋の全国展で優れた仲間の入選作をおさえて特選をえた人は、そんな感慨にひたることができるでしょう。
 嵩山小林寺のひざもと鄭州でおこなわれる太極拳国際大会にはまさしく世界各地から代表が集まり「勝友如雲、高朋満座」といった会場で競技が展開されますし、2019年の「中国建博会」(中国国際建築貿易博覧会・上海虹橋)では理念として「勝友如雲、高朋満座」を掲げています。1300年前のこの成語の活用はナウイようです。
 

  • 2018年09月12日(水)
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「和而不同」(わじふどう)

 日中平和(中日和平)友好条約締結40周年にちなんで、「“和而不同”国際書画展」(4月・東京)や「“和而不同”中日芸術家作品展」(8月・名古屋)が開かれています。東京展を訪れた村山富市元首相は中国の少年たちの作品に驚いたようです。
「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」(君子和而不同、小人同而不和。『論語「子路」』からと孔子はいいます調和はする同調はしないというのが「和」のありようで、お互いに相手の主体的な意見や立場を認めあうこと。「同じて和せずというのは「雷同一律」のことで、確固とした意見や立場をもたず相手に同調すること。吸い物は素材や調味料の持ち味を活かし、音楽は楽器の要素を引き出して成り立ちます
「和」の文化の遠源にふれ「和而不同の社会観」の涵養を習主席も求めています。わが国はもとより「和」を尊しとする国。政治はむろんのこと、あらゆる分野で主体性をもちつつ外国との「和」をどう築いてゆくかが今後の課題になるでしょう。
 

  • 2018年09月05日(水)
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「笑容可掬」(しょうようかきく)

 掬は両手ですくうこと。両手ですくうような満面の笑みが「笑容可掬」(『警世通言「二巻」』など)です。ジャカルタ・アジア大会で6個の金メダルを取って最優秀選手にも選ばれた池江璃花子さんの笑み、表彰台もいいが、ゴールしたあと振りかえって電光掲示板で勝利を確認して思わずはじけ飛んだ笑みが「笑容可掬」にふさわしい。

「笑容可掬、焚香操琴」というのは、孔明が城楼の上に座し、香を焚き琴を操りながら笑みを浮かべている姿をみて、司馬懿が攻めあぐねるという場面が『三国演義「九五回」』」に描かれています。「面目可辨、笑容可掬」というのは、乾隆皇帝の妃魏佳氏孝儀純皇后の東陵が1928年に盗掘に遭い、皇帝溥儀が精査させたとき、153年を経て黄色龍袍につつまれた皇后の表情の艶やかさに驚いた官員の記したもの。TVドラマ「延禧攻略」の主役珞がその人です。トランプ大統領が習近平主席に北朝鮮問題で感謝して用いられましたが、「可掬」にそぐわない。こちらは「笑容満面」でいい。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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