- 2018年10月31日(水)
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「雁過留声」(がんかりゅうせい)
秋の空高く南に渡る雁の群れが一列やカギ形になって飛び去っていきます。あとに鳴き声を残して。また深まる秋の夜に孤雁の悲傷にも似た鳴き声を聞いて、去り行きし人を想うことも。実景としての「雁過留声」がそれで、馬致遠の元曲『漢宮秋「第四折」』では、元帝が匈奴単于に送ってしまった王昭君を想い出す場面で用いられています。
それは「人過留名、雁過留声」(『児女英雄伝「第三二回」』など)と連ねて、比喩としてこの世を去った人びとの思い出や業績や名声などについていわれるようになります。中国における死生観が「いまだ生を知らず、いずくんぞ死を知らん」(『論語「先進篇」』から)であることからして、死の意味は生の中に残りつづけているのです。
雁といえば天竺まで旅した玄奘三蔵にちなむ西安の慈恩寺大雁塔が知られます。雁の群れから一羽が落ちてきて菩薩の化身として埋葬し塔を建てたことから。唐代には進士に及第したエリートがここで名を留めたことから「雁塔題名」がいわれました。