東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2018年11月28日(水)
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「名利双収」(めいりそうしゅう)

「名を捨てて」とか「利を度外視して」ということで成功を収めるのがふつうですが、時代が大きく変貌するときには、名誉も利益も双方をともに収得する「名利双収」(『官場現形記「三四回」』など)を求めることが可能なようです。「名利兼収」ともいいます。
 現代中国がまさにそういう時期で、「名利双収」でなければ成功とはいえないようです。まずは名を得るために有名大学を出て、のち官吏になって「昇官発財」の路線に乗ります。高官が名も利も多く得るしくみなのです。国民とかかわる高官自身は質素ですが、それにつながる親族や企業家が「名利双収」の実現者です。幹部の子は外国とくにアメリカの大学に留学します。習主席の娘明沢さんもハーバード大学出です。
 庶民は姓名の画数で「名利双収」になれることに期待し、2022年寅年の夏生まれの子が「名利双収」の人生を送れるというので気にかけています。対比して禅(道元)の教えでは「名利(みょうり)共に休す」で、名利という欲望を断つことを説いています。
 

  • 2018年11月21日(水)
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「遮天蔽日」(しゃてんへいじつ)

 広々とした天空に太陽が明るく輝いているところに、それを遮蔽する自然現象が起こり人間の営為が展開されることを「遮天蔽日」(『水滸伝「八三回」』など)といいます。
 自然現象としては、エトナ火山やキラウエア火山などの噴火では天高く噴煙がのぼり、マダガスカルでは異常気象でイナゴが大発生して空を蔽いつくすという情景も現出しています。なかには楊朔の『香山紅葉』に描かれる古松古柏の山路「前人栽樹」によって繁茂する古樹の下で涼をとるといった穏やかな「遮天蔽日」もありますが
 人為的な「遮天蔽日」では、『水滸伝』では遼兵の襲来ですが、現代の北京のスモッグ、ロシア戦勝記念日のモスクワ上空の編隊飛行などが存在感を示しています。日本社会では権勢が天下を蔽って世の中に欺瞞を生み、経営破綻、株の下落、大災害、領土問題、事故・事件・・社会不安がつのる兆候をみせています。「遮天」が国際協調の暗雲をいい「蔽日」が日本を蔽うと読めば、将来を警告する「四字熟語」といえます。
 

  • 2018年11月14日(水)
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「楓林如火」(ふうりんじょか)

 満山紅葉で火の海に踏み込んだような「楓林如火」を、前回の「玉露生寒」の項で紹介しましたが、種々の特徴があって四大賞楓地だけでは言い尽くせないようです。
 たとえば江西省石城村では特色の黒瓦白壁の家々の上に高さ35mもある古楓の樹林が連なってあたかも一幅の長尺古画を見るようだといいますし、吉林市長白山の紅葉谷では延々100kmの紅葉や黄葉でさながら画巻のようだといいますし、浙江省温州市には元明時代から修復して村々をつなぐ70余条の紅楓古道が保存されています。そしてアジアで最も美しい紅葉観賞地というのが四川省米亜羅。中国最大の紅葉風景区で北京香山の180倍、品種も多く色彩も層をなして広がっているといいます。
 フランスに「楓丹白露」(朱自清『欧游雑記』から)という優雅な漢訳地名で呼ばれる宮殿があります。パリにある「フォンテンブロー」です。2015年3月に、楓丹白露宮中国館から清朝末に北京の圓明園から流失した展示品が盗まれて話題になりました。

  • 2018年11月07日(水)
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「玉露生寒」(ぎょくろせいかん)

 秋の深まりを一点に凝縮した成語に「玉露生寒」(『李群玉集「秋怨」』など)があります。夏至から冬至にいたる日々を穏やかにすすむ秋は、「金風が暑を去り玉露が涼を生ずる」(『水滸伝「三〇回」』)ことでその訪れを感知することになります。二四節気の秋分を挟んで白露と寒露とがあります。玉露は中国では美酒の例えにいわれますが、日本でのお茶の玉露は茶葉を露のように丸くして煎ったことからがいわれのようです。
 移ろいながら人の目を驚かせる「秋色迷人」のきわみが「楓林如火」。満山紅葉で火の海に踏み込んだような秋との出会いは鮮烈です。中国には四大賞楓地があって南京棲霞山、北京香山、蘇州天平山、長沙岳麓山がそれ。その中でも「深秋棲霞、楓林如火」といわれる南京の棲霞山が甲天下の名所です。山中にある棲霞精舎は南斉時代からのもので、ここから日本へ渡った鑑真の記念堂もあります。わが国では京都嵐山をはじめ各地での「紅葉狩り」。季節は霜降から小雪へと移ろっていきます。
 

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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