東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2018年12月26日(水)
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「迷途知返」(めいとちへん)

 途に迷ってしまったら知っている途に返ればよいというのが「迷途知返」(『梁書「陳伯之伝」』など)です。過ちを犯したと察したならば正しい途に改めればよいということは屈原(離騒)もいい、陶淵明(帰去来辞)もいい、朱憙(集注)もいう。時代を越えて先哲がいい、「過ちては則ち改むるに憚ることなかれ」(『論語「学而」』)はだれでも知っているし、世に言いならわされているのですが、過ちは繰り返されているのです。
 アメリカの中国に対する経済制裁が貿易戦争といわれています。トランプ大統領が米国経済を悪化させることに気づいても国民の選択ですからもはや元の途に返れません。これに対する中国側の主張が「迷途知返」で正しい途に返れというのです。第二次世界大戦の経験から国際協調がつづいて70年、ここで反転してまた米国一国主義が台頭しました。かつて第一次世界大戦後の国際協調を破ってアメリカが一国主義をとり、それが原因で大不況に陥った経緯を再現する過ちを改めることができないのです。
 

  • 2018年12月19日(水)
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「握手言歓」(あくしゅげんかん)

 反目しあったのちに和解し、親密さをこめて握手をしことばを交わすことを「握手言歓」(巴金『懺悔「両個孩子」』など)といいます。「握手言和」も日常的につかわれ、よくあることですからよく用いられています。南北朝鮮の金正恩・文在寅両首脳の出会いは典型的な事例です。米中両大国の首脳の握手は固いですがことばは少ない。特朗普(トランプ)・普京(プーチン)の「双普会」となると、親交と悪化が混在しているので印象は複雑です。安倍・プーチン、安倍訪中は「握手言和?」といったところ。
 スポーツのサッカーなどではライバル同士が戦う前に双方のキャプテンが握手してゲームがはじまるとき、あるいは接戦のすえ1−1で勝ち負けなしの引き分けでおわったときに、握手とかかわりなく「握手言歓」がいわれます。伝統芸術と現代芸術の出合い、京都と西安、名古屋と南京といった時代を越えた友好都市の活動、かつて仇敵だった毛沢東と蒋介石の孫同士が台北で会って歓談するというのも「握手言歓」です。
 

  • 2018年12月12日(水)
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『双喜臨門』(そうきりんもん)

 ふたつの喜びごとが同時にやってくることが「双喜臨門」(『三侠五義「九二回」』など)です。新年や結婚のお祝の場に「喜」が並んだ図柄を見かけます。これが吉祥文様の「双喜臨門」です。民間流伝によれば、宋代に王安石が二三歳のとき、科挙考試のために赴いた都の開封で結婚相手と考試トップである状元を得たことからといいます。
「双喜臨門」のまちといえば、異論なく双重慶祝のまち重慶のこと。また「双喜臨門」はお茶のなかに開いた花を楽しむ工芸花茶としても知られています。明るいイメージから連続TVドラマのタイトルにもなっています。
 誕生日と合わせて喜びの重なる「双喜臨門」があります。12月10日に横浜アリーナで行われた女子バレーボール世界選手権決勝ラウンドで、郎平率いる中国チームがオランダを破って3位になりました。当日は郎平監督の58歳の誕生日。郎平を現役時代に目標にした日本の大林素子さんはそれを知っていてお祝をしたといいます。
 
  • 2018年12月05日(水)
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「知者不言」(ちしゃふげん)

「知者不言、言者不知」(知る者は言わず、言う者は知らず。『老子「五六章」』)は知者である老子が残した信言です。真意を理解している者が言わず、言う者の論旨は時代の要請から遠くズレている。老子はそれを知る者として言わずに、衰亡の淵にある周都洛陽を離れて隠遁の旅に出ます。函谷関の関令尹喜に懇請されて残した『道徳経(老子)』の最終章には「信言は美ならず、美言は信ならず」(2014・2・26)と記して。
 唐の詩人白居易は、「知者であり黙するのなら、なんで五千文字もの著を残したのか」(『読老子「五章」』)といい、老君(老子)は自らを知者としていないという見方。「わたしは知者ではない。そう言うあなたと同じだ」という老子の声が聞こえます。
 世紀初めのこの国の政界に世代交代の嵐が吹き荒れました。その後に国会に呼集されたチルドレンやガールズによる議論は時代の要請の深みに届かないレベルに終始していると「知る者」は言わず、「言う者」は知らずに衰亡の淵に近づいていきます。
 

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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