東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2019年02月27日(水)
  • -

「政出多門」(せいしゅつたもん)

「政出多門」はいろいろな部門が政策を出すことですから、民主主義の社会なら良い意味で用いられるところですが、「除く、避ける」ものとされていて事情は逆。理由は原意になった「政多門」(『左伝「襄公三十年」』から)が、大国にはさまれた陳国の君主が卿大夫らから出された政(政令)を領導できずに国を滅ぼしてしまった故事からのため。一方に「政由己出」があって、己は項羽のこと。「政はおのれより出づ」として独断専行。章炳鱗も『民報』を発禁にした内務大臣平田東助のやり方をこう評しています。

 すでに採り上げた「群龍無首」(2018・8・15)は無首のために困った状態が想定されますが、これも逆。原意になった『周易「乾」』の「群龍無首」は、天徳による治世がおこなわれていたころには、優れた能力をもつ人物(龍)がたくさんいても互いに補いあってしごとをしていたので、とりたてて「首」とする人物を置く必要がなかったというのです。                                          政治は常に表裏があるようです。さてこの国の「政」はどのあたりにあるのでしょう。

  • 2019年02月20日(水)
  • -

「遊手好閑」(ゆうしゅこうかん)

 近ごろのテレビ番組にお笑いや料理・食べ歩きが多いことに気づきます。手を遊ばせて生産的なしごとから離れて安逸にすごすことが「遊手好閑」(『紅楼夢「六五回」』など)です。用いるのは口ばかり。口の用はしゃべることとたべること。それを見て一日を「遊手好閑」にすごすのは褒めたことではないようです、年季のはいった技術を巧みに使いこなす器用な人をいう「手八丁」は褒めことばで、「口八丁手八丁」となるとけなしの意味合いが強まるのですが、ここから先のことわざ探索は本項の手に余ります。
 原稿を見ながら手を休(閑)めずに鉛字を拾う「検字」(植字)は、停電でも「盲検」ができる神業として最高の「手芸」であり、「手芸人」として尊敬を受けてきました。が、電脳(コンピューター)の出現で一夜にして鉛字が廃れてしまい、「用武之地」を失った技術者は少年でもできる電脳検字に関われず、複雑な思いで「遊手好閑」の日々を受け入れています。あれこれと労苦して身につける「手芸」の伝承が失われていきます。
 

  • 2019年02月13日(水)
  • -

「冬日暖陽」(とうじつだんよう)

 晩年を自在に過ごした唐の白居易は、その「自在」詩に「杲杲(こうこう)冬日光 明暖真可愛」と初句に述べて、ながいすを陽のあたるところに移して日だまりで一人語りをしています。が、「冬日之陽」は長く君王の人民に対する恩恵として専用されてきたために、自然のぬくもりを失っていました。解放された「冬日之陽」は、春節のころから本格的な「春暖花香」の訪れまでをつなぐ「冬日暖陽」で語られるようになっています。 
 春節を迎えて郷里に帰る人びとを輸送する春運をスムーズにするために、中国標準規格の高速鉄道復興号が各地でフル運転されていますが、広州市では「冬日暖陽、花城有愛」をかかげて、志願の若者たちが駅の整理に当たっています。同じころ南方の昆明では「冬日暖陽」の日々がつづいて、菜の花をはじめ月季(中国バラ)や冬桜花や万寿菊などの花々が咲きそろい、艶を争う「冬日春景」を現出しています。しかし北方ではまだ「春回大地」には遠く、「冬日暖陽」を求める日々がつづくのです。
 

  • 2019年02月06日(水)
  • -

「春満人間」(しゅんまんじんかん)

「春満人間」(曽恐『元豊類稿「班春亭」』など)は、生き生きとした春の気配が人びとの間に満ち溢れるようす。春の気が足りないうちは、「筆下春風」や「筆頭生花」や「筆底春風」でもりたてます。そうこうするうちに「春暖花香」の季節がやってくるのです。

 今年の「春節」は2月5日で立春の翌日になりました。ですから3日の節分に恵方巻を食べ、4日の立春(除夕)には年夜飯を食べて「春晩」(CCTV春節聯歓晩会)を見て、餃子を食べて祝った国際派の人もいたでしょう。「亥(猪・ブタ)年」の春節に食品ロスの恵方巻を飼料としてたっぷり満喫した「春満猪間」の日本ブタたちもいたことでしょう。

「春節」は農暦の正月初一ですが、なお大気は春めいてはおりません。新月で月影はなく星明かりだけの夜をすごして、農民は新しい年に豊作を祈り、無病息災を祈り、家族そろって「吉祥如意」をねがってきたのです。七連休を利用し海外旅行に出る人も多く日本各地は人気スポットです。景気減速で消費に変化がみられるようですが。

| 1/1PAGES |
webサイトはこちら

堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

S M T W T F S
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
2425262728  
<< February 2019 >>

月別アーカイブ