東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2019年03月27日(水)
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「臥薪嘗胆」(がしんしょうたん)

 平成最後の新大関となった貴景勝が3月27日の昇進伝達式での口上に「四字熟語」をつかうかどうかが話題になりました。親方だった貴乃花は大関昇進のとき「不撓不屈」を、横綱のとき「不惜身命」で心境をのべていますし、若乃花は大関のとき「一意専心」、横綱のとき「堅忍不抜」でした。同部屋の貴ノ浪が「勇往邁進」でした。貴景勝には胸に刻んできた四字熟語があって、それが父親の一哉さんからいわれつづけて大事にしてきた「臥薪嘗胆」でしたが、口上では「武士道精神」にとどめたのでした。
 いわれは春秋時代の呉越の争いで、敗れた呉の夫差が三年薪の上に臥して忘れず「会稽山」の戦で越の勾践を破ったこと、敗れた勾践が二〇年胆を嘗めて忘れず「会稽之恥」をそそいだことから。復讐を成就するため刻苦したことからでしたが、のちに刻苦自励する四字熟語として「臥薪嘗胆」(蘇軾「擬孫権答曹操書」など)が広く用いられるようになりました。いわれのきびしさを知って貴景勝が避けたように推察されます。
 

  • 2019年03月20日(水)
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「大材小用」(だいざいしょうよう)

 大きな器材を小さな用途に使うことが「大材小用」(『剣南詩稿「送辛幼安殿撰造朝」』など)で、才能ある人物を低い職務に用いる人材の不当な扱いでよく用います。出典に引いた南宋の陸游の詩では辛棄疾(字が幼安)を取り上げています。『三国演義』では「鳳雛・龐統」の大材ぶりを見誤って小用に扱った劉備の失敗談が語られます。
 最近の例では、北京大学博士課程を卒業した学生が高校教師になったことが「大材小用」として話題になりました。8歳で小学校に入学して6年、初中3年、高中3年、大学4年、碩士(修士)3年、そして博士が3年で、本人の学術への専心さ、掛けた時間も費用も並みではありません。科学研究部門という当然のルートを選ばず人材を育成する高中の教師の道を選んだことに一般の支持が得られず、「大材小用」とされているようです。日本が自衛を超えた能力のある世界最強のイージス艦を自衛のため投入したという意味でも「大材小用」がいわれます。批判のない「大材小用」は盆栽でしょうか。
 

  • 2019年03月13日(水)
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「千羊之皮」(せんようしひ)

「千羊之皮は一狐之腋に如かず」(『史記「商君列伝」』など)といわれます。厳冬の寒気を防ぐ羊毛の外着「千羊之皮」に勝る「一狐之腋」というのは、狐の腋の下の白毛皮でつくった「狐裘」(こきゅう)のこと。白く美しくやわらかで最高の暖衣とされていました。この珍貴な衣服は「一狐之腋」という四字熟語を残して絶えてしまったようです。

 このことばが帝王から発せられると「千人の諾諾は一士の諤諤に如かず」の意味となり、諾々と従う千人の臣下は諤々と直言する一人の賢臣に及ばないという嘆きになります。その上でさらに「千金之裘は一狐之腋に非ず」と用いられて、国を治めるには優れた人物が数多く必要なのだという要望にもなるのです。諤々の論議も成果につながるからで、わが『太平記「一六」』には楠木正成が兵庫で出会った新田義貞にこぼした「衆愚の諤々たるは、一賢の唯々には如かず」とあり、これもまた機に臨んでの至言というべきでしょう。毛を刈られ丸裸にされた羊たちに配慮して「百羊之皮」もいわれます。

  • 2019年03月06日(水)
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「開源節流」 (かいげんせつりゅう)

 初めての超100兆円新年度予算案が衆議院を通過しました。健全な財政のためには、『荀子「富国篇」』の説く、明主は「養其和、節其流、開其源」から「開源節流」がいわれます。財源を開拓して収入を増し、支出を抑えて節約するというのは千古不易の富国のための要諦です。国家も企業も家庭も個人もそれぞれ「開源節流」に努めて事業や暮らしを安定させ、その上での協調「和」が平和な社会をつくっているのです。
 企業では、鴻海とシャープ(夏普)が連携するに当たって、鴻海側が力説して求めたのが「開源節流」でした。4年余のあいだ粘り強く協調しながら交渉をし大功を立てたのが戴正呉社長で、鴻海の「徳川家康」と呼ばれているようです。政府が1月から導入した「国際観光旅客税」は、出国時に1000円を徴収するもので、27年ぶりの新税。渡航条件をゆるくしておいて、「雁過抜毛」(『児女英雄伝「第三一回」』など)をねらった財源探しの「開源節流」ですが、日本政府はここまでやるのかという評も聞こえます
 

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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