東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2019年09月25日(水)
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「良賈深蔵」 (りょうこしんぞう)

 新車が並びスマホが新製品で競う時代であっても、「吾聞く」としてだれもが知って自戒のことばとしているのが、この「良い商人は値打ちのあるものは深く蔵して見せないものだ」という「良賈深蔵」(『史記「老荘申韓列伝」』から)です。司馬遷は「良賈深蔵若虚、君子盛徳容貌若愚」とつづけて、徳のある者の容貌は「愚のごとし」といっています。これは司馬遷がいきいきと記録している老子が孔子に伝えたことばです。
 孔子と老子は活動の時代が異なるとするのが後世の学者の立場ですが、洛陽の古い街並みを残す老城区に「孔子入周問礼楽至此処」の碑文があって、いわれを説明する現地の人たちにもありありと実感されています。孔子が「周の礼楽」を問うために周都の洛陽を訪れたときに応対に出たのが守蔵室の史であった老子で、驕気と多欲の目立つ孔子をこう諭したとされています。老子は別れ際に「富貴なる者は人を送るに財を以ってし、仁人なる者は人を送るに言を以ってす」をはなむけとしています。
 

  • 2019年09月18日(水)
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「梨園弟子」(りえんていし)

梨園わが国では歌舞伎界のこと。ですから「李園の弟子」といえば伝統芸能である歌舞伎を継承する役者のことをいいます。この成語は唐の長安の宮中での玄宗皇帝の故事由来します。楊貴妃を寵愛した玄宗楽器を弾き音律に通じていましたが、若者の歌舞の技培うために弟子300人を選んで宮中にあった梨園でみずから訓育に当たりました。そのことから伝統の音曲戯芸を伝える演劇界を「梨園」といい、俳優を「梨園弟子」(白居易「長恨歌」など)と呼ぶようになりました
 中国では京劇の芸が子が父の業を継ぐ形で伝承されています。「梨園世家」である梅家の梅蘭芳は代々旦角を称し、遷家では代々老生を唱えています。一門の俳優たちが「梨園弟子」です。わが国で歌舞伎の芸を継ぐ役者は世襲で、主役の継承する御曹司には特段のきびしい修業が課せられています。名跡には市川團十郎や尾上菊五郎があり、その襲名披露は「梨園弟子」あげてのイベントとなっています。
 

  • 2019年09月11日(水)
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「陋巷箪瓢」 (ろうこうたんひょう)

「陋巷」は貧しい者が身を寄せ合って住む街。「箪」は竹作りの食器。「瓢」はひょうたんの中身をくり抜いた酒や水を入れる器。孔子の弟子である顔回は、陋巷をわが住む街と決めて終始変わらず、一箪の食、一瓢の飲という貧しい暮らしにも泰然としていました。そんな弟子を孔子は「賢なるかな回(顔回)や。一箪の食、一瓢の飲、陋巷にあり。人はその憂に堪えずも、回やその楽を改めず」(『論語「雍也」』から)とほめています。
 曲阜の「孔廟」を訪れたら、大成殿などの大建築はさておき、孔子故宅にある「孔宅故井」を見落とさないこと。そこから300mほどの顔回が住んだ陋巷にある「顔廟」には「陋巷井」が残っています。さほど遠くない二つの井戸を訪ねると、「賢なるかな回や」という弟子をほめる師の声や顔回の早死を嘆く「ああ天、われを喪ぼせり」(『論語「先進」』から)と孔子が天に向かって慟哭する姿が偲ばれます。「陋巷箪瓢」(袁枚『小倉山房文集「第二十六首」』など)にはそれぞれ達意の人生が示されているようです。
 

  • 2019年09月04日(水)
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「晏御揚揚」(あんぎょようよう)

 宰相が乗る四頭立て馬車となれば、いまなら超のつく高級車だったでしょう。春秋時代の斉の宰相晏子(晏嬰)が乗る馬車の御者「晏子之御」が、得意がって「意気揚揚」だったのも無理からぬこと。そのようすを見かねて妻がいいます。「六尺にも満たない晏子が宰相として常に控えめなのに、八尺もあるあなたは御者というのに揚々としている」と、志の低い夫に離縁も辞さずと迫ったのです。そののち御者は「意気揚揚」を別の車の御に譲って身を処すようになり、晏子に取り立てられて大夫となったといいます。しかし「晏御揚揚」(『史記「晏嬰列伝」』から)は成語となって残ってしまいました。  とくに財界の新年会などで際立ちますが、都心のホテルでの会合でトップが宴会場へ去った地下駐車場に居並ぶ超高級車。待つ運転手はひまにまかせて周囲の車の値踏みをしながら「晏御揚揚」を実感することになります。運転手でなくとも有名大学や著名企業や高い地位や血筋といったノリモノを振りかざす人物はさながら「晏子之御」なのです。
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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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