東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2019年12月25日(水)
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「市無二価」(しむにか)

 近ごろ同じものの値が店によって買い方によって違うことに戸惑いながらも、庶民としては安く手に入れられることに満足しているようす。世情が混乱にむかっている兆候とは思いもしないようです。元日に店を閉めるか開けるかも同根の問題です。
 ものの値がふたつない「市無二価」(『漢書「王莽伝・上」』など)は、前漢末の混乱期に王位を簒奪して「新」朝(8〜23年)を建てた王莽(おうもう)が世を混乱から立ち直らせようとした改革「四無理想」のひとつです。あとの三つは官無訴訟、邑無盗賊、野無飢民で、この三つもいまの日本では日々のTVニュースをにぎわせています。わが国は昭和後半に「平和と平等」の九割中流社会を達成したあと、「軍事と格差」を強めながら平成から令和にかけて混乱にむかう兆候をみせています。いまの中国でそれほど用例を見ないのは、ナイキのスニーカーなどの転売で最適価格を広告する程のことで、世の混乱を収拾し社会を立て直そういう「市無二価」改革の時期ではないからでしょう。
 

  • 2019年12月18日(水)
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「墨迹未干」(ぼくせきみかん)

 一年の世相を漢字で表わす「今年の漢字」(日本漢字能力検定協会、応募21万余)は、やはり新元号令和の「令」でした。京都・清水寺の森清範貫主が大きな和紙に墨痕あざやかにしたためました。墨が乾くまでのわずかな間が「墨迹未干」(張集馨『道咸宦海見聞録』など)です。協定や盟約が成立して間もなく破られたときに用いられます。

 有名なのは中国国民党と中国共産党が締結した「双十協定」(1945年10月10日、重慶)。蒋介石と毛沢東が調印しましたが国共内戦に向かい、「双十協定」の墨迹未干」がいわれました。毛沢東も「墨汁未干」といっています。近くはトルコのシリア侵攻をめぐるトルコとロシアの“歴史的”合意、これも墨迹未干」といわれました。

 平和な墨迹未干」といえば縁起の良い対句を書いて門の両側に貼って招福を祈る春聯があります。地元の書法家が住民のための「春聯活動」をおこなって、迎春の喜びをともにしようという「文化万家を進める」というもの。来年の春節は1月25日です。

  • 2019年12月11日(水)
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「衆口一詞」(しゅうこういっし)

 多数の人が参加して論じているうち内容が練り上げられ(衆心成城、衆口錬金)、意見がひとつのことばにまとまることを「衆口一詞」(『醒世恒言「巻二〇」』など)といいます。「衆口一辞」「衆口同音」「万口一声」などいい方は多様ですが。世論・公論を形成し事態を好転させます。一方に是非それぞれ異見をいいあう場合もあります。多くは前者の用例ですが、宋の欧陽修の「衆口一辞」は紛然として止まずという後者の例。
 地球温暖化対策を話し合う国連の「COP25」の締約国会議(マドリード)では“石炭”を残そうという現実的な日本の意見が石炭全面廃棄を要求する国々やNGOの理想的意見によって批判の対象になっています。また香港での6カ月にわたる抗議デモは、民主的な議論の成果を形にして示してきました。12月8日に大通りを埋め尽くした大規模なデモでは、「be water」(水になれ)を掲げています。香港が生んだブルース・リーが残したことばで、抗議活動に参加する自在性を示す「衆口一詞」の例でしょう。
 

  • 2019年12月04日(水)
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「天香国色」(てんこうこくしょく)

 これまで中国には国花がありませんでした。ひとつに絞り切れない事情があるからで、中国花卉協会が今年7月にオンライン投票で国花選定を呼びかけた結果、36万票のうち牡丹がダントツ(79%)で、あとは梅、蘭、蓮、菊の順だったといいます。

 香りと姿のふたつながら際立つようすを「天香国色」(李正封「賞牡丹」など)といいます。色香ともに整って艶麗な牡丹の花をいい、のちには国中に知られる艶麗・端麗な女性をいうことになりました。「国色天香」とも。牡丹にちなんで「魏紫姚黄」というのは宋代に愛好された魏氏の紫、姚氏の黄の二品種の牡丹のこと。品種改良が盛んだったことを想像させます。中国では「歳寒三友」のひとつ、梅も根強い人気を保っています。
 国を代表する女性リーダーが世界各地で次々に生まれていますが、前置きとして「天香国色」はほどよい品格と重量感を保っています。遠からずこの国にも出現するにちがいない女性首相に添える四字熟語として、この「天香国色」を贈呈しましょう。
 

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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