東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2020年02月26日(水)
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「風月同天」(ふうげつどうてん)

「山川異域,風月同天」(『全唐詩「巻732長屋」』から)という8字の詩句が、新型コロナウイルス(新型冠状病毒)感染の渦中にある中国のネット上で話題になっています。というより政府にできない民衆救済の役目を果たしています。風土は異なっても見上げる中天の月への有情は同じであるというもので、日本をはじめ防疫物資を送ってくれる異域の国々が世界に広がって、中国の民衆は襲来した「病毒」の封じ込めを、命運を共にする人類の闘いであるという意味で支援する側と心情を共有しているのです。

 この8字は上古の時代に仏教移入をめざした長屋王が遣唐使に託した1000枚の袈裟に「山川異域 風月同天 寄諸仏子 共結来縁」と刺繍させたもの。1300年前に鑑真はこれをみて仏縁を感じ渡航を決した(『唐大和上東征伝』から)といいます。今回、日本青少年育成協会が湖北高校などに送った物資の箱に記したもので、「風月同天」は民衆の熱い理解で世界は一つというメッセージの四字熟語になったといえるでしょう。

  • 2020年02月19日(水)
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「春夢無痕」(しゅんむむこん)

 新型コロナウイルス(新型冠状病毒)に襲われた中国では今年の春節(1月25日)は祝っていられませんでした。わが国でも天皇誕生日の一般参賀が中止され、東京マラソンも一般参加者が走れなくなりました。春節を迎えて「春回大地」とはいえまだ凍てつく日がつづきますが、元宵節(最初の満月)を終えると次第に春めいてきて、「春暖花香」の季節がやってきます。桜の花見は中国にもあって、武漢大学キャンパス内の500mほどの桜花大道が有名です。入場料は大学の収入源になっています。
「春の夢」というのはもろくてはかなく、容易に消え去ってしまい痕跡を留めない、ということで「春夢無痕」(蘇軾「正月二十日与潘郭二生出郊尋春」から)がいわれます。蘇軾には有名な七言絶句「春夜」があって、「春宵一刻」値千金・・夜沈沈と詠っています。
 春の夜の夢については、わが『平家物語』の巻頭にも「・・おごれる人も久しからず、 ただ春の夜の夢のごとし」とあって、平家のつかの間の栄華が例えられています。

  • 2020年02月12日(水)
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「以暴易暴」(いぼうえきぼう)

 武力に対して武力で闘うことでは対立の解消になりません。「暴をもって暴に易(か)え、その非を知らず」(以暴易暴。『史記「伯夷列伝」』から)というのは、殷末に悪逆非道の紂王を討つため挙兵した周の武王に断固反対した伯夷・叔斉兄弟のことばです。
 その理由は父文王の喪のうちで孝ではない、紂王は悪王だが武力で征するのは仁ではないというもの。しかし武王はその言を聞きいれずに同盟軍をすすめて「牧野の戦い」で殷の大軍に勝利します。ふたりは「以暴易暴」として武王の挙兵を批判し、「義において周の粟を食らわず」(不食周粟)と宣して首陽山に籠り、山中に生えている薇(山草)だけを食べて自死しました。孔子は「仁を求めて仁を得たり、また何をか怨まん」と評しています。近代の「以徳報怨」のマハトマ・ガンディーの非暴力抵抗が有名です。
 アメリカ軍によるイラン革命防衛隊ソレイマニ司令官殺害に対して、イラン側はすぐさま「殉教者ソレイマニ」作戦を展開。「以暴易暴」の様相を呈しています。
 

  • 2020年02月05日(水)
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「将心比心」(しょうしんひしん)

i  相手の心の有り様をおもんばかって、その心に触れるように言ったりやったりすることを「将心比心」(『朱熹「朱子語類」』など)といいます。よく用いられることばです。
 新型コロナウイルス感染症の事件では、日本でも水際作戦が強化されて中国系の人びとの往来に制限がかかりましたが、フィリピンでは法の決定は冷ややかでも国民は「将心比心」で心暖かくいきましょうという呼びかけがなされました。この四字熟語で。
 昨年8月に北京で行われた日中韓外相会議では、河野外相の出席が日韓の関係を和らげたことを王毅外相が評価して、日韓は「以心伝心」で互いの意向を交換しあい、中国は「将心比心」で参加して会議を成功させたと報告、三国首脳会議への道筋をつけた会議となりました。三外相には「以心伝心」はもちろん「将心比心」もこのままで理解できる四字熟語です。武器をかざして争わず、外交で平和裏に紛争を解決して成果をあげるには、この「将心比心」を座右に置いて交渉に当たるべきでしょう。
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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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