東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2020年03月25日(水)
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「華胥之夢」(かしょしぼう)

 中国で暮らす人びとの祖とされる聖人黄帝は、長い治世に二度スランプに陥ったといいます。最初の時にはひたすら民の声を聴くことで脱し、次の時には三月のあいだ政事を離れてひたすら夢をみて過ごしたといいます。善なる人が “神遊”してたどり着いたのが「華胥氏の国」(『列子「黄帝」』から)でした。列子は、「国に帥長(支配者)なく、自然なるのみ。民に嗜欲なく、自然なるのみ」と説明を試みています。以後黄帝は二八年にわたって「華胥氏の国」のような国をめざして治世に努めたといいます。
「美国夢(American Dream)」に対比した現代の「中国夢」を、習近平国家主席は「国家の富、民族の振興、人民の幸福」といい、「人民の夢であり、人民と共に実現し、人民に幸せをもたらすもの」としています。どうでしょう、「新型コロナウイルス(円冠病毒)」によって外出を閉ざされているあいだに“人遊”して 「わたしの華胥の夢」をみて過ごしては。その夢の達成をめざすことで人生は実のあるものになるに違いありません。

  • 2020年03月18日(水)
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「重見天日」(ちょうけんてんじつ)

 困難な状況を脱してふたたび光明を見出すことが「重見天日」(『三国演義「二八回」』など)です。いまこういえば、「新型コロナウイルス(円冠病毒)」の発現地になった武漢市が思われます。習近平主席も激励にいき、マスク姿で「保衛戦」を戦う市民に感謝を伝えていました。武漢の勝は湖北の勝、湖北の勝が全中国の勝として。
『三国演義』では、盗賊に身を落としていた周倉が関羽の五関突破の道で将軍関羽に出くわす場面で吐出されています。会いがたき人と巡り合えた喜びを表現することばです。必ずといっていいほど用いられているのが陵墓や大仏(蒙山)といった考古学的大発見についてです。もっと身近なお宝の発見もありますし、車庫に眠っていた1988年製の白色のマツダ(馬自達)RX−7を発見した車マニアが「重見天日」と叫んでいます。
 武漢大学の「桜大道」の桜が満開になっています。だれも訪れる人のいない構内でひっそりとではなく、いつものように華やいで。天恵と天災は人智を超えてやってきます。

  • 2020年03月11日(水)
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「解衣推食」(かいいすいしょく)

「衣食足りて礼節(栄辱)を知る」(『管子「牧民」』から)といわれますが、どうでしょうか。衣食足りているはずのこの国で、新型コロナウイルス騒動でのカイダメ姿をみると疑わしくなります。自分が着ている衣を解いて与え、自分の食を分けて与えてわが身を削ってもてなして命に替える信を得るのが「解衣推食」(『史記「淮陰侯列伝」』から)です。
 天下を東(項羽)と西(劉邦)に二分したとき、項羽は韓信の説得に旧知の武渉を向かわせます。項羽に仕えたこともある韓信に武渉は、「あなたが右に投ずれば漢王(劉邦)が勝ち、左に投ずれば項王が勝ちます。あなたは項王と故あり」と説きます。韓信は「漢王は衣を解いてわれに衣(き)せ、食を推してわれに食らわせてくれ」、その上よく言を聴いてくれて計は用いられたと答え、「死すとも易えず」として断っています。
 命にかかわる食と信。国際協調から分断への時代に、食材は世界各地からやってきます。わが国が信頼を得て食を得られるかどうか、礼節が問われることになります。

  • 2020年03月04日(水)
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「白駒空谷」(はっくくうこく)

「白駒」は白色の駿馬。賢能者の例えです。賢能な人が在野にあって出仕しないことを「白駒空谷」(『詩経「小雅・白駒」』から)といいます。避けて出仕しない場合や出仕しても志をえない処遇に終わることをいいます。「空谷」は人気のない谷間で、そんな孤立した状態でいるときの人の気配「跫音空谷」は、自分の意見に賛同してくれる人を得たときなどに用いられます。「白駒」にはよく知られた「白駒過隙」があって、白馬が細い隙間を駆け抜けるようすで瞬時のことを指します。これは人生の短さに例えられます。
 本稿のここでの「白駒」は、長い現役の期間に努めて培った知識や熟練技術を保っている賢能な人びとのこと。ですから「白駒空谷」はそういうさまざまな経験のある人びとが、場をえずに潜在能力を発揮できずに地域で有閑安逸な日々を送っているようすの例えとしています。「生涯現役」といわれても実感をもてず、といって潜んで静寂な山谷に暮らす「隠退余生」(隠居)にも収まりきれない日々を迎えては送っているのです。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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