東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

  • 2020年04月29日(水)
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「梨花帯雨」(りかたいう)

 この春はお花見もままならぬうちに過ぎようとしています。花は梅・桃李・桜・牡丹と移ろっていきますが、春に雨を帯びて咲く白い梨の花「梨花帯雨」白居易「長恨歌」から)を花あるうちに取り上げておきましょう。白居易は、玄宗に死を賜ってのちの仙境での楊貴妃が涙を湛えて欄干による姿を、春の雨を帯びる一枝の梨の花にみています。「玉容寂寞涙闌干 梨花一枝春帶雨」。今でも若くして夫や恋人を失ったり災厄に出合って女性が哭(な)く姿を「梨花帯雨」と表現して深い悲しみを伝えています。
「新型コロナウイルス」対策の医療現場で、みずから感染して命を落とした医師や看護師のまわりには、幾枝もの「梨花帯雨」をみることになりました。4月23日に犠牲になった岡江久美子さんのお仲間にも涙するこんな風情の方の姿を見受けしました。スケートの浅田真央さんの応援動画に「梨花一枝春帶雨」のタイトルを見ました。同じ玄宗にちなむ梨でも「梨園弟子」(別項)は華やかな音楽や技芸にかかわっています。

  • 2020年04月22日(水)
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「毛骨悚然」(もうこつしょうぜん)

 中国武漢から始まった新型コロナウイルスによる感染パンデミック(世界的流行)については、だれもが「毛骨悚然(『三国演義「二二」』・魯迅『吶喊「社戯」』など)を実感しています。おそろしさで身の毛立つこと。髪の先から骨の髄まで恐怖にさらされて立ちすくむようすを毛骨悚然」といいます。

 発生源についての情報にも「毛骨悚然」が生じています。当初は海鮮市場とされましたが、そこから30キロほど離れた「中国科学院武漢病毒(ウイルス)研究所」がかかわっているという情報が出たからです。世界トップレベルのウイルス研究所で、SARSやエボラ出血熱のような感染力が強いウイルスのコントロールも可能という最新設備の研究所なのですが。「パニック」状態に陥っているアメリカはこの研究施設からといい中国に賠償まで求めるかまえ。急速な環境破壊、拡大する原水爆保持、危険をはらむ原発、AIの人類知能凌駕そして細菌戦争。人類究極の「毛骨悚然」が歩一歩迫ってくるようです。

  • 2020年04月15日(水)
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「心直口快」(しんちょくこうかい)

 心にわだかまりなくことばも爽やかなことを「心直口快」(『文天祥・指南録「紀事詩四首序」』など)といいます。こういうタイプの人の発言には猥雑な世情を吹き飛ばす爽快さがあります。前もって計算しないし得失を比べたりしないし、話し方に角がない。時には壮快な大爆笑を呼んだりします。「口直心快」(『巴金「家」』など)も見かけます。
「新型コロナウイルス」での外出自粛の要請に際しても、黙してお茶を飲んだり読書をしたり愛犬を抱いたりしている首相より、スポーツマンの熱のこもったツイッターに納得できる姿をみます。歴史上では孔子の弟子の子路(仲由)が「心直口快」です。「われ由を得てより悪言耳に聞かず」と師にいわしめています。師を悪くいうものは口はもとより腕にもものをいわせて懲らしめたからです。時に陰湿な権力者の逆鱗にふれて、たとえば魏晋期の風器非常の人嵆康のように、友人を弁護した言論が「放蕩である」という讒言にあって刑死したりすることになりますが。ふたりとも死してなお爽やかです。
  • 2020年04月08日(水)
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「一針見血」(いっしんけんけつ)

 話や文章が直っすぐにテーマの実質に当たっていることを「一針見血」(梁啓超『飲氷室合集「一八・論私徳」』など)といいます。一針による見血ですからほんのわずかですが、それでも血のもつ生命への維持力を確認するには充分です。「武漢加油(ガンバレ)!」の中国で「一針見血」の激励があふれました。かつて毛沢東も文章や講話の空話や套話を打破するにあたってこの「一針見血」(「反対党八股」)を用いています。

 新型コロナウイルス(新冠状病毒)の感染は、ヒトの皮膚に付着して細胞のなかに侵入して生きようとする敵ウイルスと生命体を保持しようとする宿主の細胞内での生命の存続を争う菌戦争というべきもの。武漢では抑え込んだようです。危機管理が複雑なアメリカの対処に関心が集まっています。独自の対応で感染者も死亡者も少ない日本ですが、4月7日に「緊急事態宣言」を発出したばかり、東京での推移に成否がかかっています。このことばには生命保持への強い願望が託されています。

  • 2020年04月01日(水)
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「土階三等」(どかいさんとう)

 東京五輪が一年延期になって、高額(〜2億円)で分譲された選手村マンション「HARUMI FLAG」の入居延期での利得も話題になりましたが、東京では元麻布あたりの1億〜2億円のタワーマンションが超人気だそうです。夜景が楽しめますし、昼間は地をはうような庶民の姿を見下ろせて。利得の狂乱で立ち上がる何十階建ものビル群を見ていると、この「土階三等」(『史記「太子公自序」』など)が思われます。

 堯や舜といった徳政をおこなった人物の住まいが「土階三等」とか「土階茅屋」「茅茨土階」として伝承されています。帝王でありながら宮殿は簡陋で入口の階段が土づくり三段であったこと、屋根は草ぶきで切りそろえてないままであったこと。利得ではない益徳による政事の証しとして。いまでも質実をよしとする意味合いで用いられていて、上海の狂騒とかかわりなく、黄河上流域(堯の古里)の黄土を横掘りした冬暖かく夏涼しいヤオトンでニワトリやブタといっしょに安居している人びとの姿に心なごむのです。

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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