東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「挙止不凡」(きょしふぼん)

 挙動が平凡でないこと。立ち居ふるまいが時に脱俗であったり時に高雅であることを「挙止不凡」(『虹楼夢「七回」』など)といいます。
 偽善が横行する魏の末期に、司馬氏の専権に抗して奔放に生きた竹林七賢が「挙止不凡」の例としてあげられます。政治に関わりながら脱俗の境地を好み、文学を愛し酒や琴を嗜み清談をし、「金蘭之契」を楽しんだ文人たち。なかでも阮籍と嵆康双璧といわれます。俗物に対しては「白眼視」で迎えた阮籍。讒言で有罪となった友人を弁護して言論放蕩の罪を負い、名曲「広陵散」を弾き、刑死に臨んだ風器非常の人嵆康。

 近い意味合いで、一般と性格や行動が異なること、事物が際立った特色を備えていることを「与衆不同」(『白居易「為宰相謝官表」』など)といいます。こちらもよく用いられています。「与衆不同」の事物では、長距離を自在に走りまわる車としてクルーザー(酷路沢)が注目され、なかでも「トヨタランドクルーザー4600」が人気になっています。

「寸步不離」(すんぽふり)

「寸歩」はきわめて短い距離。梁の仁掘惱勸杁』では陸東美と朱氏という仲睦まじいご夫婦がおり、とくに奥方が際立っていたようすを異として時の人が「比肩の人」と呼んだことを「寸歩不離」としています。現在ならお互いに輝きながらも「寸歩不離」のご夫妻は少なくないでしょうが。朱氏が亡くなると夫も後を追って亡くなったので合葬したところ、塚の上に梓の木が生えて二つの幹が抱き合うように一樹をなしました。それを聞いた孫権が憐れんで、その里を「比肩」とし、その墓所を「双梓」と呼ぶことにしたといいます。ご夫妻の例のほかに両人の感情がぴったり合っているようすや両者の距離の遠くないことにも広く用いられています。「半歩不離」ともいいます。
 90歳の母親が50歳を過ぎた病弱の息子をかいがいしく扱う姿や、結婚して30余年の間寝たきりの妻に寄り添ってきた夫の姿など、胸にこたえる事例も見受けられます。人の間ばかりでなく愛犬や愛猫との間の「寸歩不離」の話題も尽きません。
 

「走投無路」(そうとうむろ)

 なす術がなくなり行き詰まること、窮地に陥って出口がないことを「走投無路」(『水滸伝「五六回」』など)といいます。人生のさまざまな場面で出合いますからよく使われる成語です。魯迅は、当時は読書して科挙を受けるのが正路なのに、日本へいって洋務を学んで霊魂を鬼に売るような「走投無路」の人にならないでおくれと母親から泣いてたしなめられたと『吶喊「自序」』で述懐しています。
 いま八方ふさがりの「走投無路」にある首脳といえば、ロシアのプーチン大統領と金正恩首相でしょう。プーチン大統領はシリア国境での衝突やウクライナ問題、石油危機まで内外の難題にせめられていて、その中での安倍訪露は多いに歓迎されたのでした。しかし懸案の北方領土問題は新しい方途でといいながら「無路」のまま。一方の金正恩首相の「走投無路」は、いまさらいうまでもなく行き着くところは中国に救援を求める路しかないといわれます。
 

「歪打正着」(わいだせいちゃく)

 手法や手段が本来のものではなかったのに、幸いにも満足すべき結果が得られたときに「歪打正着」(『醒世姻縁伝「二」』など)といいます。結果オーライといったところ。野球でバントすべきところを強振したらホームランになったなどは経験があるでしょう。碁や将棋では「正打歪着」やら「歪打正着」がしきりです。競馬の万馬券は「歪打正着」そのものです。本田圭佑のアシストのボールなどは本人は「正打正着」でしょうが観客には「歪打正着」に見えます。そこが魅力なのでしょう。美人とはいえない年上の奥さまにそういうのは失礼ですが、ほんとです。
 史上に残る「歪打正着」では、秦の始皇帝が不老長寿の元として水銀を用いたこと。陵墓にも大量の水銀を使って池を構築したことで、水銀の防腐作用で遺体は腐乱を免れている可能性があるうえ、有毒だったことで盗掘も免れてきたというのです。始皇帝は「歪打正着」の水銀の池に浮いていまも「長生不老の夢」を見ているというのです。
 

「先声奪人」(せんせいだつじん)

 まず先に力の籠った“声威”によって相手を圧倒すること、内容もさることながら、勢いで先んじることを「先声奪人」(姚雪垠『李自成「二巻二十章」』など)といいます。戦いの鬨の声はその最たるものでしょう。双方が声をあげつつ敵陣に殺到する姿は壮絶です。京劇には主役が舞台に登場する前に舞台裏から劇場を圧する素晴らしい美声の“聞かせ場”があって、それだけで劇場が湧くそうです。
 コンピューターはさまざまな「先声奪人」のシーンをつくりだしています。人間とコンピューターの対決は将棋やチェスでは終わっていて、人知の最後の砦だった囲碁対決でも、コンピュータ・ソフト「アルファ囲碁AlphaGo」が韓国の李世石九段を4勝1敗で破ったことが話題になりました。これは文字どおりの「奪人」です。人間と同じ誤った手は打つようですが、人類が思いおよばない手を打ってきたと人類代表の李九段は漏らしています。
 
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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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