東京都新宿区の校正・校閲会社、円水社(えんすいしゃ)のブログ

「望子成龍」(ぼうしせいりゅう)

 農暦の1月1日(初一)が「春節」です。ことしは2月16日。東アジア漢字文化圏では日本を除いてどこも国の休日として祝っています。この日、ご存じのように中国では除夕(除夜)には家族で餃子を食べながら夜8時からの中央電視台CCTV「春晩」(春節聯歓晩会)をみて年越しのカウントダウンを迎えます。
 両親はわが子がいい成績で学業を終え社会に出て傑出した人物になるよう切望して「望子成龍」(周而復『上海之早晨「四部」』など。女性は「望女成鳳」)をいい、将来は北京大学か清華大学かに入れるよう圧歳銭(お年玉)1万元?を紅包(圧歳包)に収めて渡しますが、本人には重圧になるようです。おおかたは失望に終わるわけですから。
 林則除にこんなエピソードが残っています。父親に付き添われて科挙「童子試」に臨んだおり、父親が照れてこの子は「騎父作馬」(父を馬にして乗る)といったとき、すかさずにわが父は「望子成龍」ですといってのけたそうです。「望子成名」ともいいます。
 

「不速之客」(ふそくしきゃく)

 とくに招いてもいないのに突然にやってくる客、したがって歓迎できない客を「不速之客」(『易経「需卦」』など)といいます。『易経』では「不速之客三人来、敬之終吉」とあって、懇切にもてなすことで結果は吉といいますが、ふつうには貶す意味合いで用いられています。人ではダボス会議に押しかけたトランプ大統領、自然現象では黄塵、冬将軍、生き物ではお茶で知られる雲南省普洱(プーアル)市の民家に野生の大象が食を求めてやってくるなど。歓迎どころか跳んで逃げることになります。
 中国科学院院長・中日友好協会名誉会長をつとめた郭沫若は、祖国を離れる船上で潸潸(さんさん)と涙を流して日本に亡命した自分は意外な「不速之客」であったにもかかわらず、真から懇切な歓迎をうけた(『海涛集「跨着東海二」』)と記しています。滞在中に『中国古代社会研究』などを執筆した市川市の旧宅は移築・復元されて「郭沫若記念館」に、生地四川省の楽山市(大仏で有名)と市川市は友好都市になっています。
 

「浪子回頭」(ろうしかいとう)

 放蕩息子が悔い改めて立ち直ることを「浪子回頭」(欧陽山『三家巷「六七」』など)といいます。「狼子野心」の狼子ではなく浪子です。回頭は船首の向きを変えること。

『新約聖書「ルカによる福音書15」』 に有名な放蕩息子が悔い改めるたとえ話があって、「浪子回頭」の事例としてよく知られています。悔い改めた子どもを迎え入れる親の立場を説いています。近代の西欧文明が生んだ浪子(放蕩息子)の代表が独裁的共産主義国家(朝鮮民主主義人民共和国=金王朝)だとすれば、大群衆の前で“BY THE GOD”と宣誓して就任するアメリカ大統領が救済の手をさしのべることは理にかなったこと。トランプ大統領と金正恩委員長の出会いは、放蕩息子の改心の歴史的シーンを演出することができるでしょう。さらに深刻な事例はイスラム国の存在ですが

 少年院で日々子どもの矯正にあたる教官の方々のご苦労はそれとして、いまや放蕩息子でなくとも「改邪帰正」のできごとにひろく用いられています。

「行色匆匆」(こうしょくそうそう)

 旅立ちの際などに気持ちが昂りせわしく動くようすを「行色匆匆」(牟融『全唐詩「送客之杭」』など)といいます。そこから春節などでふるさとへ帰る旅行客でごったがえす駅頭や北京など市街の自転車通勤の情景や雨の日の交差点の雨傘の流れなどにもいわれます。さらに広く人びとが興味をもってあつまるところ、観光名所などにも多用されています。人間ばかりでなく海辺のカニが群れて動くようすなどにも。
 人びとが繁華街へ出掛けるに当たって、衣装の細部にあれこれこだわって組み合わせにも気をつかい着こなして出るのも現代の「行色匆匆」。歩く速さはニューヨーク(マンハッタン)、パリ、東京の順だそうですが、ストリート・ファッションはメンズも含めて大差がないようです。典拠に引いた杭州も、いまや東京との差を一気に縮めて。
 夜、電飾がともり、まだ11月だというのにクリスマスや新年のことが話題になって、なんとなくあわただしさを増した街のようすも「行色匆匆」です。
 

「損之又損」(そんしゆうそん)

 損と損を之と又でつないで安定したたたずまいがありますが、しかし理解には想像力を要求する成語です。損は手で取り去って減らすのが語源で、損失が身近ですし、そこなう意味では損傷・損害があります。損益や損得では語頭をしっかり固めています。
『老子「第四八章」』には、「学を為す者は日に益し、道を為す者は日に損し、之を損して又損し(損之又損)、以って無為に至る。無為にして為さざるなし(無不為)」と記されます。無不為という二重否定による強い肯定がどう為すかへのこだわりを伝えます。同文で『荘子「知北游篇」』に表れます。老子は「学」を対比し、荘子は「知」で示します。
「知」(擬人)は帝宮で黄帝にまみえて「何を思い慮れば道を知るや」と問います。黄帝は答えを知らないという無為謂を認めたうえで、聖人は「不言の教えを行う」(老子「第二章」)といって「損之又損」を引きます。天下を取る者が「損人利己」や「損公肥私」を避けて、言動をひかえて「謙虚」な態度を保持することにいいます。
 

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堀内正範氏

日本丈風の会 代表
Web月刊「丈風」編集人

当社が永く校正で携わった、『知恵蔵』(朝日新聞社)の元編集長、朝日新聞社社友。
現在は「日本長寿社会」を推進する「日本丈風の会」を主宰し、アクティブ・シニアを応援している。 中国研究を基にした四字熟語への造詣も深く、時事を切り口に、新聞や書籍において解説を行なっている。
日本丈風の会ホームページにて、「現代シニア用語事典」も掲載。

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